第32話 王妃様詰問会場
そして話は王妃様詰問会場へ戻る。
「あなたの売り物は、金と玉だったのよね? そこに毛が混ざるのはどうしてなの?」
「位置的に仕方なかったんですよ」
フィリップは大真面目に言った。
「僕が耕作権を買い占めた土地は、王都周辺だったので、他にも領主は多くいます。自分以外の領主は豊作で大儲けしたのに、自分だけ儲け損ねた。別に損はしてないんですがね。それで大損した気持ちになって、領主が殺してやるとか物騒なことを言い出したのです」
護衛騎士団は、真剣な様子になって、どこかから紙とペンを取り出し、問題の領主の名前をメモしようと身構えた。
殿下は手を振って静止した。
「いや、大丈夫ですよ。あんまりうるさいんで、霊験あらたかな壺を譲ることで黙らせたんです」
「壺……? この金貨百万枚の壺代がそれですか?」
「金持ちの領主だったんでね」
フィリップは控えめに言った。
「そんな偽物に大金を。詐欺ではありませんか? 騙したことがバレたら、どうなるの?」
「本物ですってば。だから、帰ってきたんですよ。令嬢たちもうるさいですしね」
護衛騎士団をも黙らせるフィリップ殿下の鬼畜発言。
偽壷を高値で売っぱらって、足がつかないように逃げてきただと? しかも、令嬢方の間ではやり逃げで有名だなんて。
本気で悪役王子なのではないか?
悪役王子って、聞いたこともないけれど。
「その詐欺師が……実は我が国の第二王子だとばれたら、我が王家の威信にかかわるのでは?」
王妃様の頭が、ようやく通常回転し始めて、言い出した。
「たかが一領主、王家の威信の前にはひとたまりもありませんよ。ハッハッハ」
それって、道義的にどうなの? それにフィリップ王子の名誉にかかわるのでは?
「大丈夫ですとも。領主は心の底から壷の霊験を信じています。言いくるめましたからね。その価格でも原価の6割5分引きだとよく言い聞かせています。つまり、元値は金貨二百八十五万です。ま、お布施ですけど」
なんだか計算が細かい。
「今後、雨が降るようなら、毎年、金貨二十八万枚を寄進するよう伝えています」
「そんな大金払うはずがないでしょう!」
「だって、払わなければ翌年、霊験は消え去ることになってます。小麦がちゃんと実れば、そんな金額、たかが知れていますよ」
よくわからなくなってきて、王妃様は黙り込んだ。護衛騎士は紙を取り出して、お互い相談しながら計算を始めた。フィリップ殿下はその沈黙に付け込んだ。
「そのほかに例のキンタマですね。地味ですが確実に利益をあげつつあります。それに、僕はミセス・ロビンとミス・ソワレを遂に手付けたんです」
「誰のことなの?」
ちょっとドキドキしながら王妃様は尋ねた。婚約予定者以外にどんな女性を紹介されるのかしら。ミスはとにかく、ミセスはどうしよう。
「これです」
フィリップ殿下は瓶詰を取り出した。
途端に、隠れていた二匹の猫たちが駆け寄ってる。キジトラと黒猫だ。
「これ、チールスて言うんです。ネコの大好物でして。お礼にネズミを進呈してくれるのが困りものなんですが」
「ネコもネズミも不要なのだけど」
王妃様は駆け寄ってくる猫を避けようとスカートを引き寄せながら叫んだ。
「ネコと一緒に、マルク先生が付いてきてくれました。愛猫と別れるのは忍びないと言って。愛猫の方はチールスと別れがたいらしくて、これで何もかも思い通りです」
要するに、色々と先生は知り過ぎてしまった。フィリップが雨男なことも、領主を騙していることも。
特にまずいのは、フィリップが雨男体質であることである。誘拐でもされて、殺されて細々と切って乾かして、聖遺物として販売されたらどうしよう。それでなくても、ファンクラブに拘束されたり、どこかの大公爵夫人のペットにされる危険性がある。
自由を満喫するはずの隣国で、フィリップは目立つが故に、自由の獲得には尋常ならぬ金や力が必要なのだと痛感したのだ。
そして金ならマルク先生がいた。ものすごく好都合なことに。
マルク先生は天才である。しかし、研究者バカでもあってフィリップ殿下が用意した王宮の片隅の、高い塀に囲まれた庭園に閉じ込めらて暮らしている。
高い塀は、ミセス・ロビンとミス・ソワレの逃亡を防ぐためだと言う説明に完全に納得している。
なんで、留学を早々に切り上げてきたのか、マルク先生とか言う研究者を飼っているのかもわかった。
ただ、横では、アレクサンドラ殿下が微妙な顔つきで座っていた。
「その恰好はどうするの?」
アレクサンドラ殿下が初めて口を開いた。
「目立たない方がいいって、身をもって学習したのですよ。だから変装しているんです」
「それはわかったわ。帰ってきた時から、そう言っていたしね。でも、ハンナ嬢はどうするの?」
「お認め頂ければ、せっかくのダンスパーティです。不逞の輩、ジョージに見事に婚約破棄を宣言させて、ハンナ嬢を自由の身に戻し、代わりに僕が名乗りをあげます!」
「そうではなくて! ジョージとハンナの婚約はそれで潰れるかもしれないけど、あなたとヒルダ嬢の婚約の危機は残ったままよ?」
アレクサンドラ殿下がそう言うと、母の王妃様も付け加えた。
「お父上の公爵からは何度もお申し込みが来ているのです。世間的に見れば、ヒルダ嬢とあなたとの婚約は、領地の面から言っても身分から言っても、王国全体としてはめでたい婚約なのだけれど」
フィリップ殿下はあからさまに嫌な顔をしたが、その下には悪い笑顔が潜んでいた。
「僕としては、ジョージ殿との結婚が妥当かと思うのですが」
「ジョージ殿はキャンベル侯爵家の嫡男ですわ。侯爵家を継ぐと思うのだけど?」
「侯爵家より筆頭公爵家を望むと思います。そう言う男ですね。弟もいるようですし、キャンベル家としても、大賛成だと思います」
「でも、ヒルダ嬢のお父様は? 納得なさらないのじゃないかしら?」




