第15話 デートがデートを呼ぶ
「デート!」
「間違いないわ。デートよ」
三人は目を光らせて断定した。
「でも、なんでジョージとヒルダ嬢がデートをする流れになるのかわからないわ!」
ハンナが叫ぶと、リリアンとマチルダが真剣にうなずく。
気配を消すのが恐ろしくうまい護衛騎士が、ハンナたちの後ろから首を伸ばして、窓から見えるジョージとヒルダ嬢の様子を窺っていた。
護衛騎士たちは、ハンナたちの目線に気付くとスススッと彼らの定位置に戻った。
相変わらず謎な人たちだ。
しかし、護衛騎士たちに構っている場合ではない。どうしたものか。ハンナは悩み始めた。
「ハンナ様、偵察に行きましょう!」
マチルダが提案し、ハンナとリリアンは驚いた。
「偵察?」
「この組み合わせ、意味がわかりませんわ。それにフィリップ殿下とアレクサンドラ殿下に、何をするつもりなんでしょう?」
マチルダが熱心に言い出した。
「たいしたことできないし、どうでも良くない? それ?」
ハンナは口ごもった。
「何か起きてからではなく、起きる前に把握するべきです」
マチルダが断固とした口調で言い切った。
「それに、気になりますよね?」
「ハンナを地味とか言っちゃって、それでヒルダ嬢とデートの約束をするだなんて、どういう婚約者なのかしら! これは偵察しなくっちゃ!」
本人であるハンナは気にならないので、放っておいていいと思うのだけど。
「でも、誰が偵察に行くっていうの?」
ハンナが尋ねた。
「私たち、顔を知られているわ。偵察に行ったらすぐ誰だかばれてしまうし、あの人たちだってこんなこと秘密にしたがると思うの。そうかと言って、誰かを頼むわけにもいかないでしょう」
「変装しましょう!」
ハンナは、マチルダをまじまじと見つめた。後ろからは護衛騎士たちがマチルダをまじまじと見つめていた。
マチルダは意気揚々として言った。
「ハンナ様、お願いします」
「えっ? 私?」
ハンナは腰を抜かすほど驚いた。
その人選は最悪だと思う。
なぜなら、ハンナだけ問題のヒルダ嬢とジョージに顔を知られている。
「リリアン嬢とマチルダ嬢の方が、あの二人に顔を知られていない分、いいと思うのだけれど」
「いいですか? ハンナ様」
マチルダ嬢がズイッと前に出た。
「わたくし、以前より申し上げたかったのですが」
なんだか謎の迫力を感じたハンナは後じさりした。
「どうしてハンナ様はそんなに地味なつもりなのですか?」
「え? 地味なつもり?」
突然、なんの話? ハンナはびっくりした。
「地味なつもりとは?」
リリアンを見ると頭を振っている。マチルダと同意見らしい。後ろに目をやると、護衛騎士団もウンウンとうなずいている。
変な時だけ意思表示をしないで欲しい、護衛騎士団。
「もう、壮絶に地味作りですわ。なんですの? このドレス。なぜ、いつも紺色ですの?」
「あ、それは、私の髪の色が栗色だから」
「どういう意味ですか? 他の色が似合わないとでも?」
ハンナはあわてた。
「そうではないのですが、紺は比較的相性がいいと思いますの。それと、私、アレクサンドラ殿下のご学友でしょう? 目立たない方がいいと思いましたの。ホラ、だって、護衛騎士団の皆様も、全員黒づくめで顔もわからないようになさってらっしゃるではありませんか。殿下にお仕えする以上、目立ってはいけないかなと」
リリアンとマチルダと、なぜか護衛騎士団まで、いかにも残念そうに、首を振って見せた。
「護衛騎士団は猛烈に目立ってらっしゃいますわ。護衛だよーとアピールしてらっしゃるのですわ。あの黒装束は、学園の皆様に、いないことにしてねとお知らせしているのですわ」
護衛騎士団がオーバーアクション気味にうなずく。
殿下の身の安全を考えれば、護衛を配属しないわけにはいかない。
でも、居ないことにしないといけない。
したがって黒づくめの姿になってしまった。
私たちはいませんよ~というサインである。
「でも、ハンナ様はいないといけません。むしろ目立った方がいいくらいです」
マチルダはそう言ったが、ハンナは別な意見を持っていた。
こんな風に地味にしているからこそ、ヒルダ嬢とか別な伯爵令嬢だとか男爵令嬢からの、刺すような攻撃を何とかしのげていると思うのだ。
「ですから、それを逆手に取ればいいと思います。思いっきり派手にすれば、絶対ハンナ様だってわからないと思います。それにね」
マチルダ嬢はちょっと困ったように言った。
「行先はカフェ・ブールヴァールだと言ってました」
店の名前を聞いて、グッとハンナは詰まった。
カフェ・ブールヴァールは、確かに男爵令嬢クラスでは少し難しい。超高級カフェで、選りすぐりの人士が行くところなのだ。伯爵令嬢たるハンナの出番だ。
でも、一人で行くのはもっと難しい。令嬢にはエスコート役が必要だ。
「一人ではいけませんわ……」
ハンナは震え声で言った。
先ほどからコソコソ護衛騎士たちが聞こえないように部屋の隅で話し込んでいた。
話がまとまったらしい。
その中から、一人がスッと近付いてくると、ハンナの前で跪いた。
顔を隠しているくせに、ハンナの手を取り恭しく押し頂いた。
どうやらエスコート役を買って出てきた模様である。
「身分的に出入りできそうな方なのかしら?」
マチルダが聞いた。
甲冑の騎士はウンウンとうなずいた。
「じゃあ、デートの場所に一緒に行ってくださいませな。そして、あの人たちが何をやらかす気なのか、聞いてもらいましょう」
この護衛騎士は、カフェ・ブールヴァールに出入り出来るくらいなら、少なくとも伯爵家以上の家格の人物だろう。殿下の護衛なのだから不思議はないが、逆にマチルダのあけすけな口の利き振りがハンナは気になった。失礼かもしれない。
「よろしくお願いいたします」
仕方ない。ハンナはちょっと不安になって、護衛騎士に丁重にお願いした。
護衛騎士は鷹揚にうなずいて見せた。
もしかして、かなり偉い人なのかもしれない。誰なのかしら。完全にお仕事なのだけれど、ハンナはちょっと気になった。
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