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幕間・設計“Y”

「うん、山本君の言う通りかもしれん。しかし、次期空母はもう少しでかくなるぞ」

「『もう少し』、ですよね」

「不満か?」

「大いに不満です」

──会議の座長と山本五十六の会話。



一九三四年九月二五日

軍令部 千代田 東京府


「……このような次第だ。本日で新空母の概要を決定したい」

 そのように述べたのは軍令部の参謀だった。


 会議室に居並ぶ参加者たちに、異論はなかった……ただひとりを除いては。


「艦政本部としては──」

 造船官のひとりが発言する。

「──G9の発展型、いわゆるG11を量産することを提案する。すでに次期海軍軍備補充計画で二隻の設計がスタートしている。これらを量産することにより、量産効果も期待できる」

 別の佐官が口を開いた。彼は鉄砲屋として有名だった。

「それもいいが、飛行甲板の装甲化は図れないのか?」

「それもすでに研究を進めている。既にG12という設計番号も付与した。そうだな、次の次あたりの補充計画までには具現化するだろう」

 佐官が反論した。

「米国は既に新型空母の量産を進めている。我が国も対抗しないと、戦力比がいびつなことになる。いや、『レキシントン』級の時点で、すでに我が方の空母群は水を開けられている。どうにか盛り返さねばならん」


 会議は中々結論を見いだせず、この日はお開きかと皆が考え出した。


 ひとりの将官が手をあげた。

「よろしいでしょうか?」

 第一航空戦隊司令官・山本五十六少将だった。


 会議の行き詰まりを感じていた座長を務める中将は、「君か」という顔をしながらも、小さくうなずいた。


「ありがとうございます」

 山本はグラスの水を一口飲み、話を続けた。

「我が国の空母は着実に発展をしております。それは空母『鳳翔』のような存在と共に、『赤城』や『扶桑』の経験を次代に継承してきたからです」


 うなずくものもいれば、「貴様は何を言いたいのだ?」という表情をうかべるものもいた。


「しかしながら」

 山本は微かな笑みを浮かべつつ先を続けた。

「やはり大元が戦艦、もしくは巡洋戦艦なので、なりだけは大きいものの、構造に無駄が多い」

 何人かの造船官の顔色が変わる。

「また、現在建造中の新空母は無駄がなくなったものの、船殻が小さすぎ、搭載量が限られる」

 軍令部の佐官がうんうんとうなずいていた。


 座長が話を遮った。

「うん、山本君の言う通りかもしれん。しかし、次期空母はもう少しでかくなるぞ」

「『もう少し』、ですよね」

「不満か?」

「大いに不満です」

 会議室がざわめく。


「小官は、戦艦並の規模と容量を備えた、いえ、これまでに見たことのない、全く新しい空母を提案します」

「誰がそんなフネを設計するのだ?」

 ある造船官が意地悪そうに尋ねた。

 山本はニッコリして応えた。

「既に概念図はできております」

 彼は隣にいた副官にうなずく。副官は会議に参加しているものの前に、冊子を配り始めた。


 「設計Y」と書かれた冊子を、皆がパラパラと項をめくり始めた。すぐにうめき声と怒号が飛び交った。

「なんだこれは?」


 その図は、従来の空母の常識を嘲笑うかのように巨大だった。


「排水量六万トンだと?」

「誰がこんな図を……」

「平賀……、だと?」


 山本は平然と応えた。

「これは、私が平賀先生に依頼して設計していただいたものです。流石は造船の神様です」


 座長は口をへの字にしていた。

「これは、独断専行ではないかね。ここは海軍だぞ」

「申し訳ございません」

 山本は素直に頭をさげた。同時に興味深そうな顔を浮かべていた。

「しかしながら、造船官の皆様、いかがです? 実現不能な案だと考えますか?」


 造船官たちは項を黙って項を眺め続けていた。反論するものはいなかった。ただ、苦虫を潰していた。


 誰も、否定の言葉を口にできなかった


「対米戦を視野に入れたとき、これまでの空母の延長線で考えていては勝利を望むことはできません。このままでは、我が国は空で敗れます。従来の概念を覆す、画期的なフネが我が国には必要なのです」


 ある将官が話をスライドさせた。

「この、『A140』というのはなんだね? 戦艦じゃあるまいし」

「このフネが将来、国を担う存在となりうるからです。それはかつての戦艦が担っていた役割です。いえ、このフネこそが我が国の希望となるのです」

「だから戦艦の設計番号を流用したのか?」

「そういうことです」


 造船官は互いにひそひそと話をしていた。平賀に対するあまり行儀のよくない表現を多用していたが、冊子の概念図に正面から否定しようとするものはいなかった。


 あるものは、これほどのフネを自由に設計した平賀のことを、うらやましく思うものもいた。


 主計出身の佐官が尋ねる。

「これだけのフネ、建造するには造船所や予算の確保が大変ではないか?」

「おっしゃる通りです」

 山本はかすかに体重を机に乗せた。

「だからこそ、『今』提案しているのです。このフネの最終的な設計と同時に、造船所と予算の確保に走らねばなりません。そのうち、米国も同規模のフネを設計するかもしれません。先んじて我が国が建造するのです」


 山本の言葉に反論できるものはいなかった。



 山本の私案──「A140」が、その名とともに正式化されたのは、それから一ヶ月後のことだった。




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