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機動艦隊物語  作者: あべ模型製作所
第二部・開戦
14/17

第五章・オレンジⅡ

「どちらにしても、日本に最高のクリスマスプレゼントを届けることができる訳だ」

──ハズバンド・E・キンメル大将・太平洋艦隊司令長官



一九四一年一二月一一日

真珠湾 オアフ島 ハワイ準州


 参謀長の説明に、会議室は静寂に包まれた。

 数瞬後、提督たちはひそひそと会話を交わした。

「スービック湾に続いて……」

「英海軍もか……」


 いつもの様に、口火を切ったのはハルゼーだった。

「ジャップの騙し討ちのせいだ! 我々はまだダウンしていない! 借りを百倍にして叩きつけてやる!」

「心配するなハルゼー」

 いつもならうんざりする彼の声が、キンメルには妙に心地よく聞こえた。

「大統領閣下より、『オレンジⅡ』実施の裁可が降りている」

「『オレンジⅡ』か……。具体的には? 俺はなにをしたらいい?」

 キンメルは参謀長へ目を向けた。

「イエス。『オレンジⅡ』は『レインボー』を検討し直したものですが、基本線に変わりはありません。我々は真珠湾を出港後、マーシャル諸島へ向かいます。まずは彼の地を制圧し、次にトラック、マリアナ、そしてトウキョウを目指します」

「ふむ」

「どこかの時点で日本艦隊が現われるでしょう。提督は空母戦隊を指揮し、これを撃滅していただきたい」

 ハルゼーは口角をあげた。

「決戦を仕掛けるのだな?」

「その通りです。この段階で日本艦隊を討取れば、後はトウキョウまで一直線です」


 スプルーアンスが手をあげる。

「フィリピンはどうします?」

 キンメルが口を開いた。

「うん、あそこはトラック制圧後の対処になろう。間を飛ばす、という策もあるかもしれないが、まずは足元を固めるのが先決だ」

 スプルーアンスはうなずき、そのまま沈黙した。


 再びハルゼーが尋ねる。

「要旨はわかった。で、いつ出撃する?」

 参謀長が応えた。

「イエス。補給に後数日かかります。一五日には出港する予定です」

 パイがつぶやいた。

「となると、マーシャル到着は一二月二四日頃になりそうだな」

 フレッチャーが尋ねた。

「これは、偶然ですか?」

 キンメルがそっけなく言う。

「作戦上の都合でそうなったに過ぎない」

 彼はそう述べつつも、表情が全てを物語っていた。



「どちらにしても、日本に最高のクリスマスプレゼントを届けることができる訳だ」



一二月一五日


 合衆国太平洋艦隊主力が真珠湾から出港した。


 彼らの戦力は、空母八隻、装甲巡洋艦六隻、重巡洋艦八隻、軽巡洋艦八隻、駆逐艦三二隻だった。後方には上陸船団とその護衛が控えていた。



 空母「コンスティテューション」にキンメルの姿があった。当初、彼が同行する事について反対意見が頻出したものの、彼はこう応えた。

「指揮官が先頭に立たないでどうする? それに、アジア艦隊の仇をとらねばならない責務が私にはある」と譲らなかった。


 最終的に、パイの空母戦隊に所属する「コンスティテューション」に乗り組む事となった。

“これで”

 彼は決戦を前にし、どこか高揚する自分を抑えきれなかった。

“我々とお前たち、どちらが太平洋の覇者か教えてやる”



 高揚の裏に、かすかな不安もあった



一九四一年一二月一六日

「赤城」艦上 トラック諸島


「潜水艦からの報告です。米艦隊が真珠湾を出港したとの事です」

 参謀長の報告に、高須四郎・第一艦隊司令長官が重々しくうなずく。

「方角はわかるか?」

「はい。南下した、とのことですが、その後は置いていかれたため、詳細は不明です」

「そうか……」

 高須は腕を組んだ。


「……当初の予定通り、マーシャルでの迎撃、でよいものかな?」

 古賀峯一・第二艦隊司令長官も尋ねる。

「彼らが真っすぐに本土に向かう可能性は?」

 参謀長が応えた。

「まず、ありえないと考えます。彼らが本土に一撃を与えたとしても、我々が健在ならあまり意味がないからです。むしろ、決戦を希求しているものと思われます」

 同意のうなずきが広がる。


 誰もが、これが帝国の命運を決める戦いだと理解していた。


「面白い」

 そう述べたのは角田覚次少将だった。第一航空戦隊司令官だった。

「なんだったら、米艦隊に果たし状を送りつけてやりましょう。我々はここだ、って」

 今度は笑いのさざ波が広がった。


 笑いの裏には、誰もが張り詰めたものを抱えていた。


「流石に、それはできませんが……」

 参謀長も苦笑していた。

「……まずは、『先に見つけ、先に攻撃し、先に倒す』という原則に徹するべきです」

「山本さんがおっしゃる、『機先を制する一撃』だな」

 古賀が天井を仰いで述べた。

「──言うは簡単だが、実現するとなるとな……」


 ここで、山口多聞少将が口を開く。彼は「蒼龍」を旗艦とする第三航空戦隊司令官だった。

「それを実現するために、索敵機を増やしましょう」

 隣にいた大西瀧次郎少将・第二航空戦隊司令官もうなずく。彼と山口は竹馬の友として有名だった。


「角田さんと山口のフネに積んだ『アレ』も、そのために持ってきたのだろう」

 彼らの疑問に、参謀長が応えた。

「マレー沖海戦の戦訓を活かします」

 誰かが言った。

「『扶桑』の仇を討ちましょう」

 同意のうめきが広がった。



 翌日、日本艦隊がトラックから出港した。


 日本艦隊の戦力は、空母九隻、巡洋戦艦四隻、装甲巡洋艦二隻、重巡洋艦四隻、大型軽巡四隻、軽巡洋艦四隻、駆逐艦三二隻だった。



一九四一年一二月二四日

マーシャル諸島北方洋上 太平洋


 日米艦隊はほぼ同時刻に索敵機を放った。


 各空母から数機ずつ、機体があがる。


 エンジン音が遠ざかると、艦上には不気味な静けさが残った。


 「赤城」と「蒼龍」からも索敵機が出るが、その他の機体とは異なり、機首がすぼまった形状をしていた。




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