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機動艦隊物語  作者: あべ模型製作所
第二部・開戦
10/17

第一章・嵐の前

「我々の管轄外の話をしても仕方がない。また、我々が選択できぬ話をするのも時間の無駄だ。今可能なプランを話し合おうじゃないか」

──ハズバンド・E・キンメル大将・太平洋艦隊司令長官


第二部の開幕です。



一九四一年一二月二日

真珠湾 オアフ島 ハワイ準州


 通信傍受班からの報告によると、日本帝国陸海軍の通信が急激に増大し、やがてぷっつりと止んだ、とのことだった。



 キンメルは幕僚と各戦隊の指揮官を招集し、検討会議を開始させた。


「攻撃だ! ただちにヨコスカかクレを爆撃するんだ! そうすれば、一週間で戦争が終わる!」

 参謀長がこれまでの外交交渉の流れと、それに対する日本の対応を述べると、ハルゼーが叫んだ。

 集まっていたものたちは一様に「またお前か」とばかりに嘆息していた。


 キンメルがたしなめる。

「待ちたまえ。……そうしたいのは山々だが、我々はあくまで“受けて立つ”立場だ。無茶を言ってはいかん」

「しかし」

 ウィリアム・パイ中将・空母戦隊司令官が口を挟んだ。

「我々が太平洋を押し渡り、彼の地に攻撃を加えるのは厳しいでしょう。しかし、アジア艦隊なら可能では?」

 フランク・J・フレッチャー少将も討議に加わる。

「ハート大将はなにかおっしゃっているのですか?」

「彼は──」

 キンメルは憂鬱そうに応えた。

「──『我が艦隊は存在する事に意義がある』とのことだ。典型的な『現存艦隊主義』だよ。あまり期待はできん」

「今すぐ俺をフィリピンに送れ! そうすれば、あそこの機動艦隊をクレにぶつけてやる」

 ハルゼーの獅子吼に、キンメルはうんざりしていた。

「あぁ、君を送り込めばよかったのかもしれんな」

 内心で彼は、“そうすれば貴官が喚くのを聞かないで済んだのだがな”と付け加えていた。


「太平洋艦隊の戦力が2/3となったのは痛かったですね」

 スプルーアンスのつぶやきに、キンメルはどこか忌々しそうに応える。

「仕方がない。大統領命令なのだ」

 彼は深呼吸をして、一同を見回した。

「我々の管轄外の話をしても仕方がない。また、我々が選択できぬ話をするのも時間の無駄だ。今可能なプランを話し合おうじゃないか」



 討議を仕切り直すと、これまで沈黙していた参謀長が口を開いた。

「太平洋艦隊の現状は、ここまで話をしてくれた通りです。恐らく、我々は“日本の”宣戦布告と同時に行動を起こすしかありません。その上で──」

 参謀長は太平洋の地図に指揮棒を当て、ハワイからなぞるように日本へと指揮棒をぶつけた。

「──この一年近く、我々が研究してきた対日戦『オレンジⅡ』に従ってトウキョウへと進撃します」

 改めてスプルーアンスが尋ねた。

「フィリピンはどうします?」

「当然、救援には行く。しかし、その前にマーシャルやトラックを無視する訳にはいかない。我々はひとつひとつ足場を固めて進むより策はない」

 スプルーアンスはうなずいた。


 パイが別角度から尋ねた。

「日本海軍の動向は掴んでいるのか?」

「今のところ──」

 参謀長は帳面をめくる。

「彼らの第一・第二艦隊は日本本土。第三艦隊はトラック環礁です」

「確実な情報なのか?」

「彼らの打つ電鍵が、それを裏付けています」


 電鍵、平たく言えば、モールス信号の事だった。その信号はそれを放つ信号員によって癖があり、そのことが個艦識別の判断基準となっていた。


「なるほど」

 パイは納得するように顔を上下させていた。

「では?」

 フレッチャーが先を促した。


 参謀長はどこかに自信を漲らせつつ応える。

「イエス。我々は開戦と同時に真珠湾を出港、トウキョウに向けた旅を開始します」



一九四一年一二月六日

真珠湾 オアフ島 ハワイ準州


 夜半、通信傍受班から速報が入った。

「北太平洋で『アカギ』と思われる通信を傍受した、だと?」

 キンメルは狼狽えがちに尋ねる。

「イエス」

 参謀長も戸惑いを浮かべていた。

「君はどう判断する?」

「真珠湾への奇襲の可能性があるかと」

「うん、そうなんだが……」

 キンメルは顎をつまみ黙考した。

“彼らがそのつもりなら、こんなところで通信を発するだろうか。なにかの罠ではないだろうか?”

「どうすべき、と君は考える?」

「そうですね──」

 参謀長は数瞬考えた後に応える。

「哨戒網の強化を。それと迎撃に機動艦隊を出港させた方がよいかもしれません」

「そうなのだが……」

 キンメルも考えこむ。


“判断を誤れば、太平洋が燃える”

 指示を待つ参謀長の顔を見ながら、彼は一瞬だけ、司令官としての孤独を感じた。


「……わかった」

 彼は判断を示した。

「機動艦隊はただちに出撃、日本艦隊を迎撃せよ」

 続けて指示を与える。

「アジア艦隊に警告と、……大統領閣下にもこのことを報告してくれたまえ」



・・・



 真珠湾は蜂の巣をつついたような喧噪に包まれていた。


 ハルゼーがここぞとばかりに叫ぶ。

「ジャップを見つけ次第、ことごとく水葬にしろ!」


 フレッチャーはすでに疲れたような声で指示を出す。

「力み過ぎるなよ」


 スプルーアンスは自分の旗艦「ノーザンプトン」の司令部で腕を組んでいた。

“彼らは、真珠湾に来るのかな?”


 彼にはひとつの疑問があった。

“いくら奇襲が得意な彼らでも、いきなり真珠湾に来るものなのだろうか。航空兵力は我々が圧倒している。それに、本気で奇襲するつもりなら、「アカギ」の通信で破綻しているではないだろうか?”



 やがて、準備の整ったフネから出港をはじめた。半日後にはハワイ北方を中心に機動艦隊群の警戒網が敷かれ、万全の体勢が成った、ように見えた。



一九四一年一二月七日


「ついに日本がやりました! スービック湾の……」

 司令部に通信参謀が駆け込んだ。

 キンメルが彼に叱りつける。

「馬鹿者。少し落ち着きたまえ」

「はっ」



 そう言いながら、キンメル自身も胸のざわつきを覚えた。電文を受け取り、文字を辿る。


 そこには、アジア艦隊が日本海軍によって壊滅したことが、淡々と綴られていた。




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