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俺の大好きな作家である鮎川鮎美と名乗り、学校終わりに買いに行った新刊の『ブス女の私と6人の王子様』で、ヒロインを助けるために命を落とす、魔法使いアウレイウス・バドリントン・ケルネイ伯爵だという男が、両腕を組みドヤ顔で俺を見下している。
元々身体が大きかった俺は、中学2年の時に急激に背が伸び既に180センチを超えていた。誰からも見上げられてばかりの俺にとって、逆に見下ろされるのはとても久々で、不思議と少しだけ嬉しさを覚える。
「それ……俺が死んだ日に買って読んでた漫画じゃないか!」
「おおー!お買い上げありがとうございます!」
「デビュー作の『聖女マチルダの秘密の恋』を初めて読んだ時の感動は今でも忘れません!ヒロインを助ける王子達も最高にカッコいいのですが、悪役令嬢のエリザベート。冤罪をかけられて処刑されてしまう彼女が不憫でなりません……。しかも、王子達は断罪されたり聖女を守る為に殺されたりして、最後は結ばれた魔王と聖女によって国が崩壊する。聖女1人だけが幸せになるなんて……。エリザベートよりも聖女の方が悪役じゃないか!」
『聖女マチルダの秘密の恋』は俺が漫画にハマったきっかけであり、ファンコミのオフ会で大事な友達の絵里奈とも出会えたんだ。俺の人生にとって、とても大切な存在だ。
特に悪役令嬢のエリザベート・ガーランド。婚外子の弟に家族を壊され、聖女に婚約者と友達を奪われた挙句に、聖女暗殺未遂の犯人に仕立て上げられてしまい、処刑されたのだ。
父親に愛されず、母親には『お前が女だから、夫が不倫したんだ』と罵りながら殴られ、婚約者の王子は会えば蔑まられ罵られるばかり。家族と婚約者を愛していただけなのに!彼女は何も悪い事はしていないのに!
しかも聖女は、王子達全員とエロいことしたのに誰も選ばず、魔王と結ばれて帝国を乗っ取ってしまうという、最悪なラストなんだ!まじでありえない!
「あの頃の俺は病んでてね。皆んなが幸せのバッドエンドなんてクソ食らえ!ヒロイン闇堕ち人類滅亡!ってね」
「鬱回ばかりでトラウマになったわ……」
「だからさ、過労死して漫画の世界に転生したならば、俺の手で原作を変えて皆んなハッピーエンドにしようとしたんだ。冤罪を回避して聖女の闇堕ちを防げたんだが、魔王に殺されてね……」
「……そんな」
「そん時に、俺を漫画の世界に転生させた暇な神に会ったんだ。んで、世界の創造神だという奴は、人間が作った小説・漫画・ドラマに映画が好きでね。『自分の想像して創り出した世界に転生したら、作者はどんな行動を起こすか』って思い付きから、作者達を自分の生み出した世界に無理矢理転生させてるって聞いたよ」
「え、でも、作家だったら、自分の作品に転生したら嬉しいんじゃないの?」
「それは、幸せが確定してるヒロインに限るだろ。俺、冤罪で殺される当て馬魔法使いだよ?」
「あ……。ごめん……」
なんだろう。何故か冷ややかな目をして俺を見てくる。いや、これは俺が悪いな。
確かに、婚約者がいるのにヒロインにちょっかいを出してるって冤罪をかけられて、王子に断罪され魔力を封印されドラゴンの巣に放り込まれる魔法使い。それは嫌だな……。
「まあ、神がお気に入りの作品の作家が死んだら前世の記憶そのままに、1番嫌いな作品の中に転生させるんだよ。転生先のキャラも勝手に決められるが、厄介な事が一つある」
「厄介な事?」
「あぁ……。厄介でノイローゼにもなったわ……」
「ノイローゼって……。何が、あったんですか?」
「あのクソ神が満足する、原作とは違うエンドを迎えるまで終わらせてくれないんだ……」
「は?終わらせてくれないって?」
「クソ神が満足しない限り、死ねないんだよ。俺は魔王に敗れては赤子に戻るを 、8回繰り返したんだ。」
「あんな鬱世界で、8回も人生繰り返してるってこと!なにそれ!頭おかしいのか、その神様は?」
漫画読んだだけでトラウマになって鬱になったのに、そんな世界で8回もやり直しさせるなんて、どんだけ頭がおかしい神様なんだ!俺なら耐えられない!
「イカれた奴だよ……」
そう言い放ちながら顰めた魔法使いの表情は、憎しみ・悲しみ・苦しみなどが入り混じったように見えた。
8回も同じ人生を繰り返し、神が満足するまで終わりがないなんて……。そう思うと、目の前男がとても哀れに見えた。
「9回目で俺は、引き篭もった……」
「……そうなるわな」
「引き篭もった俺を許さなかったクソ神は、王子に憑依して俺の前に現れたんだ」
「王子に憑依って。神様ならそんな事しなくても、いいのでは?」
「そりゃ、暇で始めた遊びも100年続けてたら飽きるだろ?」
「100年は飽きるわな」
「そうさ、飽きるんだ。そして、違う遊びを始めるんだ」
「え……、まさか、王子様に憑依って……」
遊びに飽きたからって……、まさか神様が……。いくら漫画の世界だろうと、その世界で生きてる人間だ。そんのくだらない理由で、王子に憑依するなんでことを、神様ともあろうものがするはずがない。
そう思う俺を真剣な眼差しで見つめながら、魔法使いは淡々と言った。
「神自ら物語を変えると、王子の身体を乗っ取り、俺を断罪の舞台に引き摺り出しに来たんだ」
お読みいただきありがとうございます!




