4
清春目線です。
俺、秋山 清春の目の前に立っている全身真っ白な男、その存在こそが、俺をこの世界に転生させた張本人である。
あれは、いつものようにコンビニに寄ってから家へ帰ろうとしたときのことだ。
俺は道路へ飛び出していく一匹の白猫を見つけた。トレーラーに飛び込んでいったその猫は、このままでは轢かれてしまうと思い、咄嗟に道路に飛び出して白猫を抱きかかえた。
トレーラーの運転手は必死にブレーキを踏み込んだが、間に合わなかった。次の瞬間、衝撃が俺の身体を襲い、宙に舞い上がった。
まるで鳥のように空を飛んでいるかのようだった。時間はゆるやかに流れ、眼下の景色が鮮やかに広がっていく。
ふと視界に叔母の家が映り、そこで過ごした苦しい日々の記憶が走馬灯のように胸をよぎった。
――あの家に帰らなくていいのか……。
――もう、我慢しなくてもいいのか……。
奇妙なほどに穏やかな気持ちで、俺は死を受け入れていた。むしろそれは、願いが叶ったかのような安堵に近いものだった。
トレーラーに弾き飛ばされた身体が、反対車線を走っていた別の車に激しく叩きつけられた。
その瞬間、これまで味わったことのない激痛が全身を駆け巡った。車のフロントにぶつかった彼の身体は、そのままずるずると滑り落ち、アスファルトへと鈍い衝撃音とともに叩きつけられた。
視界が揺らぎ、意識が朦朧としていく中――。
「ニャアアアッ!」
白猫が必死に駆け寄ってきた。涙声のように鳴きながら、ぷにぷにとした肉球で彼の頬をペチペチと叩く。
猫好きの俺からしたら、最高だ、お猫様の肉球ペチペチをされながら死ねるなんて本望だ。
猫に怪我がないことを確認した俺は、安堵の微笑みを浮かべた。
「……無事で……よかった……」
そう呟いたきり、俺の意識は静かに途切れていって、死んだのだった。
そう――俺は死んだのだ。
次に気がついたとき、俺は一面真っ白な世界に立っていた。
上も下も分からず、果てがどこまで続いているのかも分からない、不思議で静かな空間。ここが死後の世界なのかと辺りを見回すと、ひとりの若い男がいきなり現れた。
背は高く、手足はすらりと長い。まるでアイドルのように整った顔立ちだが、その表情は柔らかく、どこか安心感を覚える。
短くさらさらとした髪も、透き通るような肌も、身にまとったローブまでもが純白で、清らかな光を放っていた。
まるで「大丈夫だ」と語りかけるように、男は優しい眼差しで俺を見つめていた。
「――秋山清春。なぜ俺を助けた!」
優しい表情を浮かべているくせに、声は怒鳴りつけるような迫力だ。
……なんで怒られなきゃならないんだよ!? つか、コイツ誰だよ!?
「助けたって……お前、誰だよ!」
「お前、トレーラーに轢かれそうになった猫を助けただろう?」
「……ああ」
――でも、なんだこいつ。顔は優しいのに喋り方がめっちゃキツい。ギャップありすぎて気持ち悪いんだけど!?
「あれが俺だ!」
「はあ? あの猫だって? アンタ何言ってんの? 頭大丈夫か?」
「まあ、あそこは普通の人間しかいない世界線だからな」
「……世界線?」
「そうだ。この世界は何百、何千にもある世界線のひとつだ」
「えっ? ちょっと待って、何言ってるの? 何千もある世界戦って……、アンタ、厨二病患者か?」
「厨二病じゃない!リアルだ!」
男は真顔で言い放った。
「清春よ。お前の世界も、その世界線のひとつ。……まあ、分かりやすく言えばだ。ここは人間たちが考えて創造した“物語の世界”なんだ」
「はあ? 物語の世界? 意味わかんないんだけど?」
「まあ、困惑するのも無理はない。私も来たときは混乱したからな! だって、私が迷い込んだのは“自分のデビュー作の漫画の世界”だったんだ!」
「デビュー作の漫画って……アンタ、漫画家だったのか!?」
「そうだ。最後に連載していた漫画が大ヒットしてね。『ブス女の私と6人の王子様』って知ってるか?」
『ブス女の私と6人の王子様』……!?
それって――まさか、まさか……!
「鮎川鮎美先生じゃないですか!」
「正解!前世は漫画家・鮎川鮎美。今は、遺作『ブス女の私と6人の王子様』の世界で偉大なる大魔法使い――アウレイウス・バドリントン・ケルネイ伯爵である!」
「それ……俺が死んだ日に買って読んでた漫画じゃないか!」
お読みいただきありがとうございます♪




