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「レオン、起きて!朝ご飯よ!」
母親の優しい声が聞こえると同時に、カーテンが勢いよく引かれ、シャン!と軽快な音が響く。窓いっぱいに広がる眩しい朝の光が、少年の金髪をまばゆく照らした。いつもの朝の挨拶に、眠い目をこすりながら身体を起こした少年は、うーんと小さく唸ると、光に目を細める。
「おはよう、母さん」
「おはよう、レオン! 洗顔用のお水、テーブルの上に置いてあるからね!」
「ありがとう。準備して、すぐリビングに行くよ」
母親のアマンダは、毎朝白い陶器の桶に水を入れて持ってきてくれる。ベッドの横のサイドテーブルに置かれたその桶に手を入れると、まるで手が凍りつきそうなほど冷たいのがいつものことだった。けれど今日は、気のせいか、いつもより冷たさがやわらいでいるように感じた。
とはいえ、顔を洗えばやはりしゃきっと目が覚める。その冷たさが少し物足りなくもあり、レオンは小さく息をついた。
パジャマから着替え、階下のリビングへ向かう。
いつもなら、朝ごはんは硬いパンと、飼っている鶏の卵で作った目玉焼きが一つだけ。だが今日は、目玉焼きが二つに増えているうえ、カリカリに焼いたベーコンまで添えられていた。
(今日は、何かのお祝いだったっけ?)
そう思いながら、レオンは不思議そうに席に着いた。
「母さん、今日の朝ご飯は豪華だね!何かあるの?」
「何かあるのって、今日はレオンの誕生日じゃない!」
「あれ、今日だったっけ?」
「全くこの子は、自分の誕生日を忘れるだなんて。今日はレオンの5歳の誕生日でしょう!」
「ああ!俺の誕生日だった!」
アマンダは、(今年も忘れてたのね)と心の中で呟きながら、レオンの頭を優しく撫でながら微笑んだ。
「レオン、5歳のお誕生日おめでとう」
そう言って、そっと額にキスを落とす。
一瞬きょとんとしたレオンだったが、すぐに表情がほころんだ。
「ありがとう、母さん」
「さあ、朝ごはんにしましょう。いただきます」
「いただきます!」
姿勢を正し、子供用のナイフとフォークを器用に使って目玉焼きを口に運ぶレオンの姿を見つめながら、アマンダは成長をかみしめるように、愛おしそうに微笑んだ。
「レオン。今日の夕方頃、お父さんが帰ってくるわ。家族みんなで、誕生日をお祝いしましょうね」
「わー! お父さん帰ってくるんだね! 嬉しい!」
「2週間ぶりだものね。今日は、ごちそうをたっぷり作るから、楽しみにしてて」
「ごちそう楽しみだな! ありがとう、母さん!」
(そうか……あの男が帰ってくるのか)
レオンはふとそう思ったが、幸せそうに微笑む母の顔を見て、それでいいと自分に言い聞かせた。
朝食を食べ終えると、レオンは鎌と籠を手に取り、日課の薬草摘みに出かけた。
彼の住む小さな村の裏手には、なだらかな小さな山があり、そこには山菜や薬草、さまざまな木の実やキノコが自生している。レオンとアマンダは、それらを摘んでは村で売って生計を立てていた。
山道を登り、山頂近くにある一本の大きな杉の木の根元に腰を下ろす。
レオンの膝の上には、いつのまにか真っ白な猫がちょこんと座っていた。
その柔らかな毛並みに手を添えながら、レオンは大きくひとつ、ため息をついた。
「そうか。この世界に来てから、もう5年も経ったのか……。あっという間だね、師匠」
「そうだな」
猫はレオンの膝から軽やかに飛び降りると、前足で頬をひと撫でした。次の瞬間、ふわりと白い煙が立ちのぼり、その姿を覆い隠す。
やがて煙が晴れると、そこに立っていたのは背の高い、透き通るように白い肌と雪のような白髪を持つ、美しい男だった。
「そろそろお前さんの修行も、本格的に進めようか」
お読みいただきありがとうございます。




