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拙い文ですが、よろしくお願いします。
「おい、てめえ。何ガン飛ばしてやがんだ」
ドスの効いた声に、秋山 清春は内心で舌打ちした。(……またかよ)
声の主は、まるで時が止まったかのような男だった。
ダボダボのニッカポッカ、そして将来設計の甘さを物語る眉の剃り込みに、襟足を伸ばしたリーゼントをしている。"昭和ヤンキー"スタイルの天然記念物の男は、威圧的に距離を詰めてくる。
「あぁ? 俺様にメンチ切るとか、いい根性してんな」
「別に。アンタを見ていたわけじゃない」
清春は感情の乗らない声で返す。
「口答えすんのか、コラ。見ねえ顔だな、どこのモンだ?」
「埼玉だけど」
「ちげーよ!何処のチームかって聞いてんだよ!」
苛立ちを隠しもせず男が怒鳴りつけてくる。だが清春は、表情を殺したまま目の前の男を静かに見据えるだけだった。
改めて清春を観察し、男は(なんだコイツ……)と、眉根を寄せる。
夏服の制服のワイシャツのボタンは一番上まで留められ、ネクタイは隙なく結ばれている。サイズの合ったスラックスにはシャツがきちんと収められ、まるで非の打ち所がない。
優等生を体現したような、完璧な学校制服の着こなしだった。
なのに、その顔付きはまるで優等生のものではなかった。
身長は180センチを優に超え、服の上からでも鍛え上げられていることが分かるほどの体躯。そして何より、その顔つきが異様に厳ついのだ。
太く濃い、眉尻の上がった凛々しい眉。真一文字に固く結ばれた薄い唇。さらに、くっきりとした二重の大きな瞳は鋭く吊り上がり、三白眼ときている。
視力は良くも悪くもない。ぼやけてはいるが、眼鏡なしでもなんとか周囲が見える程度の視力だ。眼鏡がなくても生活できる程度には見えるものの、焦点が合わずにぼんやりと物を見つめてしまう癖があった。そのせいで、ただ視界に入っただけの人から「何を睨んでいる」「喧嘩を売っているのか」と絡まれることが日常茶飯事なのだ。
(またかよ……。大好きな作家さんの新刊を買いに、ウキウキ気分で来たのに……)と、心の中で舌打ちをしながら、清春はいつもよように目を力を込めて見開いた。絡んできた男の顔に鼻先が触れそうな程に距離を詰めた。
「すみません。母が倒れて急いでるんで、行っていいですか?」
「そ、それは、大変だな!早く母ちゃんのとこに行ってやれ!」
「ありがとうございます。では」
「お、おう!引き留めて悪かったな!」
男は清春の迫力に(コイツはヤベェ奴だ!)とでも野生の感が働いたのだろう。脱兎の如く逃げて行った。
「は〜、やっといなくなったよ〜!」
清春は心底安堵した。清春は中学校に入り身長が伸び始めてからというもの、この厳つい顔のために頻繁にヤンキーや半グレ達から絡まれるのが日常になっていた。ヤクザにスカウトされたときは、流石に焦った。
そんな日々の苦労を母親に相談すると、さっきのように「母が倒れた、危篤なんです、死んだらどうする!って言えば、なんとかなるわよ!」と、魔法の様な言葉を教えてくれた。
そして、大体それですむ。
ところが中には”日本語が通じない日本人”が「んなの、知らねーよ!クソガキ!」と、殴りかかってくる時もある。
そんな時は父親から教わった護身術と、握力95キロの我が右手から繰り出されるアイアンクローをお見舞いするのだ。
「さ〜て!鮎川鮎美先生の新作を買いに行くよ!あ〜楽しみでワクワクする〜!」
キラキラと目を輝かせて、今にもスキップしそうなほどに胸を弾ませながら歩いていると、背後から「清ちゃん発見!」と声が聞こえた。背後から猪のような勢いで抱きついてきたのは、清春の背丈の半分しかない、髪の長い女の子。幼馴染の菊池 友梨奈だ。
「こんにちは、友梨奈!」
「清ちゃんったら、また絡まれてたね!」
「全く良い迷惑だよ。俺はヤンキーじゃないのに!」
「ホントだよ!清ちゃんヤンキーじゃなくて、どちらかって言ったら、女子力高い乙女よね!」
「何遍も言うが、俺は乙女じゃないし、女子力高くない!」
「えええ〜!私よりも女子力高いよ!」
「俺は身も心も男だ!」
「別にどっちでも良くな〜い?てか行くよ!鮎川鮎美先生の新作『聖女として召喚された私、何故か各国の王子達に溺愛されました』を買いに行くわよ!」
「キャーーー!今回は召喚物ね!どんな王子達がいるのかな!」
「さあ、清春氏。参るぞ!」
「はは!友梨奈殿。参りましょう」
そう、見た目厳つい清春だけれど、実は少女漫画(特に異世界物)が、大好きだった。
お読みいただきありがとうございます。
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