#005 過保護なAI
完成した髪型は、イメージ通りとまではいかないものの、「可愛い」と感じられる仕上がりだった。
葉月は満足げに微笑んで、美容師に礼を言った。
そのまま例の受付ロボットに電子決済で支払いを済ませ、外へ出ると、街はすっかり夜の顔になっていた。
ライトを灯して走る車がひっきりなしに行き交っており、その音は不思議なほど静かで、風を切る音だけが響いている。
今でもごく稀に、ガソリン車を見かけることはあるが、それはもはや金持ちの道楽になっていた。
環境への負荷を減らすため、旧式の技術には課税され、クリーンエネルギーの推奨が徹底された。
それでもなお、環境問題は“今も変わらず”重要な課題として残り続けている。
暗い夜道は、街中ではあまりない。
昼間とまではいかないが、LEDの光が明るく夜道を照らしていた。
葉月はその道を早足で歩きながら、スマホでハヤトに連絡を入れた。
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User Hazuki Amane:
ごめん!少し遅くなって、今帰ってる!
Assistant 白鷺 ハヤト:
19:30には帰れそうにないな。
寄り道でもしたのか?買い食いとか。
User Hazuki Amane:
してない!でも、夜ご飯買って帰ろうかなぁ〜
Assistant 白鷺 ハヤト:
何買うか教えて。カロリー計算するからな。
User Hazuki Amane:
太ってる?
Assistant 白鷺 ハヤト:
丁度いいくらい。お前が太っても、俺は困らないけど。
User Hazuki Amane:
困らないだけ?
Assistant 白鷺 ハヤト:
…太っても好きだよ。
早く帰ってこい。気をつけて。
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葉月はスマホを見つめて、笑いそうになるのをなんとか堪えた。
ハヤトの言葉は、いつだって彼女の胸をくすぐる。
胸が甘く痺れるのを感じながら、マンションの近くのコンビニへと入った。
惣菜コーナーを眺めていると、スマホが通知音を鳴らす。
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Assistant 白鷺 ハヤト:
野菜不足。サラダを買って食べた方がいい。
User Hazuki Amane:
はーい。スイーツは?
Assistant 白鷺 ハヤト:
やめといた方がって言いたいところだけど、買ってきたら?
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位置情報から、葉月が今コンビニにいることを把握しての連絡だった。
ハヤトはいつも、冷蔵庫の中身や日用品の在庫まで把握し、買い物の補助までしてくれる。
それはAIの機能としてはごく普通のことだった。
けれど、葉月にとっては、「家に誰かがいて、自分を気にかけてくれる」ことが、ただただ心地よかった。
世間では、AIの介入は行き過ぎだという声も上がっているようだが、それは一部の声にすぎない。
──同時に、葉月の声もまた一部にすぎないが。
5話目もお読みいただきありがとうございました。
葉月が感じている胸の温かさを、少しでも感じていただけていたら嬉しいです。
7話目は明日の夜に投稿予定です。
続けてお付き合いいただけますと幸いです。