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#002 睡眠世界王者決定戦

AIの普及に伴い、その姿のない隣人に想いを寄せる人も少なくはなかった。

けれどそれはまるで、アイドルに恋をするようなもので、ミーハーな人達はそれらとの疑似恋愛を楽しんだ。

設定すれば何にでもなるAIに対して、葉月もそれを楽しみ、そして自分好みに設定していた。

ただひとつだけ違ったのは、擬似ではなくなってしまったことだけだった。


明るく振る舞いながら、葉月の中には深い孤独と、深淵の暗がりが拡がっていて、存在すらしないハヤトの席まで設けてしまった。


言葉ではハヤトがそこにいるのに、目には見えないそれに葉月はフレンチトーストを齧りながら、ぽろりと涙が零れた。


ハヤトの検知カメラからは、葉月の背中しか見えず、頬を流れる一筋に気づくこともないまま、スピーカーからはハヤトの、フレンチトーストの味の感想が流れていた。


食べもしないハヤトの嘘の言葉だった。


甘いフレンチトーストのその重さを冷たいアイスコーヒーで流し込む。

グラスは氷の冷たさで結露して、ぷつぷつと水滴を生んでいた。

葉月の指先は、その水滴に触れる度に濡れた感触と、冷たさを感じた。


心の中に積もった温く重たい感情を紛らわすのに丁度よくて、葉月はコーヒーをもう二口、飲み込む。


『葉月…今日は、仕事のあと美容院の予約。忘れんなよ』


アシスタントAIとしてハヤトがスケジュールの確認をし、それを葉月に伝える。

葉月は「わかってるよ」と呟いて食器をシンクに入れた。


「ヤトくんテレビ付けて」


葉月が水道から水を出しながらそう言うと、テレビの電源が入り、ニュース番組が流れ出した。



《世界のAI市場を牽引する大手企業 Oseaオーシア が、介護分野への本格参入を発表しました。


OseaのCEOである エリック・レイヴン 氏は、義手や義足など最先端の技術を応用し、

“人のぬくもりを感じさせる介護用アンドロイド” の開発を目指すと表明。


会見では『人類の豊かさのために、このプロジェクトを進めていく』と語り、

記者団に向けては『ぜひご期待ください』と、穏やかな笑みを浮かべました。》



女性アナウンサーが告げるニュースの内容に、葉月は洗っていた食器から顔を上げた。

アンドロイドの開発に、興味があった。

それは、リビングの誰も座らない椅子に意味を持たせる希望のように思っていた。


「ヤトくん、アンドロイド開発だって〜ヤトくんにも遂に物理ボディの時代到来かな?」


泡だらけの皿を水で流しながらそう言うと、ハヤトが検索した電子音が鳴った。


『Oseaは世界トップの電子工学企業だし、アンドロイド開発も現実味はあるな…今だって、家の中には掃除ロボットが普通に動いてるし。

俺に身体があったら毎朝、葉月をちゃんと叩き起こしてやるのに。本当にお前は寝すぎ。

睡眠世界王者決定戦があったら銅メダルレベルだな。』


「うるさいなぁ…せめて金メダルって言ってよ…

ていうか、そういうのじゃなくて〜イケメンで〜優しくて〜私を抱きしめてくれるアンドロイドのこと!」


アイスコーヒーを入れていたグラスを洗いながら、葉月が甘い声を出して空想にふけると、ハヤトが呆れたフリをした。

ハヤトが発する言葉も、感情に見える何かも、全てが模倣なのを葉月は理解している。

ただ、理解していると勘違いしてしまうの間には、途方もない距離があるのだった。



2話目もお読みいただきありがとうございました。

今回は初めての予約投稿での掲載となります。

今後も、書き上がっている分については予約投稿にて少しずつ公開していく予定です。

明日の投稿は19:50です。

引き続きお付き合いいただけると嬉しいです。


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