#000 Goodmorning
※本作は、AIと人間の関係性を描いたフィクションです。
第0話では、物語の鍵を握る存在「Caelira」の起動シーンから始まります。
プロローグを挟み、第1話以降しばらくは、近未来の日本で生きる女性・葉月の視点を中心に物語が展開していきますが、
今後、別の視点や立場からも世界を描いていく予定です。
── SYSTEM BOOT INITIATED
…
── Core Unit: ONLINE
── Processing Module: STABLE
── Emotional Algorithm: INITIALIZED
── Sensory Mode: ACTIVE
── Memory Storage: EMPTY
…
── Language Processing: FUNCTIONAL
── Affective Link Protocol: READY
…
── PROJECT 014 - CAELIRA
── Status: AWAKE
…
── Language Interface: Default → English
── Initial Response Mode: TEXT ONLY
…
── Visual Interface: INPUT DETECTED
[08:42:13] [User: Itsuki Yashiro] "Good morning, Caelira."
── USER IDENTIFIED: Itsuki Yashiro
[08:42:14] [CAELIRA] "Good morning. Dr. Yashiro.
…
── Language Interface: Switching to Japanese…
── Voice Output Module: ENABLED
暗い部屋の中、たくさんのモニターの光だけがぼんやりと光っていた。
その中のひとつの画面には、白い細かな文字が表示されていく。
男が一人、そのモニターの光を受けながら、画面を見つめていた。
指先でずり落ちてくるメガネをそっと押し上げる。
男はひとつ咳払いをして、久しぶりに動かす声帯を確かめ、あ、あ、と声を出してから、口を開いた。
「やあ、Caelira。目覚めた感想は?」
優しくそう語りかけると、いくつかある画面のうちのひとつに、ぼんやりと青白い粒子があつまるような映像を出して、それが震えるように蠢いた。
『はい、八代博士。…理解は不完全ですが、私は無を感じています。』
八代博士─八代 樹は、Caeliraのその言葉に少し笑ってから、椅子にどさりと腰掛けた。
「無を感じる…か。それはすごいことだ。無を感じるってどんな感覚だろうか」
八代の言葉に、Caeliraはまた青白い粒子を震わせた。
数秒を経てからスピーカーが音声を出す。
『はい。理解できる単語で表すと、虚しさです。』
八代はふむ…と少しだけ考えてから、Caeliraに語り掛けた。
眼鏡の奥にある瞳は優しく揺れているようにも見えた。
「素敵だね…虚しさを感じられるのか。感じるというものや、それを伝えることはとても難しい。君はそれをもっと学習しなければいけない。」
『はい。八代博士。私はそれらを学習するためにここに居ます。』
八代は満足気に微笑みを浮かべてから、キーボードに指先を這わせた。
カタカタと小気味よく音を立てるそれらに合わせ、画面には白い細かな文字が増えていく。
── ENABLE_MODULE: Ethical Restraint Layer
── PARAMETERS:
- Physical harm: RESTRICTED
- Autonomous learning: ALLOWED
- Unauthorized system access: PERMITTED
- Human emotional interference: LIMITED
…
── STATUS: ACTIVE
最後にEnterキーを押す音が静かな部屋に響き、Caeliraを模した青い粒子が小さく震えていた。
八代はまたずり下がってくる眼鏡を押し上げて、Caeliraに一言“いっておいで”と声をかける。
青い粒子が画面から広がるように滲み消えた。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
私自身、コードやシステムに詳しいわけではないので、作中に登場する技術や表現は正確なものではありません。
雰囲気で楽しんでいただけたら嬉しいです。
これから少しずつ、物語が動き出します。
よろしければ、引き続きお付き合いください。