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 トスカさんの話では、出発は夜明け前が一番良いというので、俺たちは荷物の整理をしながら夜を過ごすことにした。

 服を着替えて、馬車に乗っている荷物を確認する。

「隊長、さっきまでヴィオさんが一緒だったんですよ」

 環境が変わって隊長は恐れているのか、毛布を頭から被って身を縮めて馬車の座席にしゃがみ込んでいる。

 ソラヤとキュフの表情は未だ暗くて、旅の目的を失ったことへの戸惑いや不安があるのだろう。

「二人とも、アルスメール領までは長旅になるから覚悟しておけよ」

「うん」と二人とも近なく頷くだけで、昼間の元気は全く感じられなかった。

 トスカさんが馬に噴水から汲んできた水を飲ませていると、街の方から一頭の黒馬が街灯の下を疾走してくる。こちらに向かって来ているのが分かると、トスカさんは桶を手放し、踵を揃えるのだった。

「全員無事か」

 馬で颯爽と登場したのは、ゼノの地下で出会ったあの長髪の金持ち青年だ。俺たちに隊長をアルスメール領に届けるよう雇った人物でもあるし、ヴィオさんに合わせてくれて人でもある。思えば、この旅で一番影響力のある人だった。

「トスカ、悪いが。状況が変わったからすぐに出発する」

「かしこまりました。ゼノの情報では旧街道を行くようにとのことで、その言を信じようと思います」

 トスカさんは騎士らしくきびきびした発言と発声で、さっきまでの温和なおじさんという雰囲気とは違う。この青年がトスカさんの上司で間違いないのだなと改めて思った。

 トスカさんが御者台に乗ろうとすると、長髪の青年が手を伸ばして制しするので、俺たちは疑問を持った。

「トスカは今からこの馬に乗って王城に向かえ。軍事会議が始まる」

 青年は馬から降りると、手綱をトスカさんに渡す。

「馬車はオセロがなんとかするから構わずに行け」

 いつの間にか俺がこの馬車の御者になっている。そんな話は聞いていないぞ。

「感謝します。一族の名誉が守れる」

 トスカさんは、そう言って笑いながら突然青年をひょいっと担ぎ上げるのだった。

「オセロ殿。馬車を出してくれ」

「は、はい」

 二頭立ての御者台に登って俺が手綱を取ると、トスカさんは担ぎ上げた青年を馬車の中に放り込んだ。

「トスカ、何をする!」

 怒る青年を無視して、トスカさんは馬車の扉を閉め、外から鍵をかけた。

「オセロ殿、この方を守ってくれないか。傭兵として君を雇いたい」

「ま、守るって?」

 素性も知らない貴族風のぼんぼんを守れって言われても困る。

 トスカさんは懐から巾着袋を取り出して、俺の手に無理やり乗せてきた。その袋を突き返そうとしたが、あまりの力強さに押し返すことができずに受け取る形になってしまう。

「必ず、生きてこの国に帰してくれ」

「いつまで守ればいいって言うんですか?」

「その時が来るまで。では任せた」

「待って」

 呼び止めようとしたが、トスカさんは青年が乗って来た黒馬に跨って王城へと向かって走っていってしまった。

 馬車の中からどんどんと叩く音が聞こえ、同時に青年がトスカさんを呼ぶ声がする。何度呼んでもトスカさんは行ってしまった。

 何が起きているんだ?

 俺は何を任されているんだ?

 疑問が浮かぶが答えは分からない。とりあえず、進むしかないのだろう。

 手綱を動かして、馬たちの足を動かすよう指示を出す。そして、馬車はガラガラと車輪を動かしながら、旧街道を進むのだ。



 暗い夜道を進んで、ようやく空が白んできた時、俺たちの馬車は旧街道を抜けて主要街道へ合流した。道幅が二倍に広がって、走りやすくなったのはいいのだが、異変の始まりは馬車の中からだった。

「うわああああ」

 馬車の中では隊長と青年とソラヤとキュフ、そしてロアが乗っているが、その狭い室内で叫び声が起きた。

「キュフ、大丈夫」

 ソラヤの心配する声が聞こえ、叫んでいるのがキュフだと分かった。

 その苦しむような叫び声が聞こえた頃から、街道に複数の黒い汚れが見えるようになる。液体を溢したような、何かを引きずったような跡。

 湿り気があり、ごく最近汚れたことが分かる。

「オセロさん、止まってください」

 ソラヤが御者の後ろにある小窓を開けて、馬車を止めるように頼んでくるのだが、ここで止まるわけにはいかない。

「ソラヤ、キュフの口に布を詰めて舌を噛み切らないようにしたほうがいい」

「オセロさん」

「悪いけど、キュフを楽にさせるにはここを通り過ぎるしかないと思うんだ」

 足ががたがた震えてくる。早朝の冷たい風のせいとかではなく、この目の前に広がる光景のせいだ。

 馬すら嫌そうに道を進むので、俺は少し速度を上げてこの最悪の一帯を抜けようと試みることにする。

 馬車の中からソラヤの悲鳴が耳に突き刺さる。キュフの唸る声が俺の背中に響いてくる。

 目の前に広がる、人、人、人。

 街道の両脇に横たわり、血を流しきった、もう動かない死体が何十、何百と連なっている。

 嫌でも目に入る、甲冑が割れて粉々になっている騎士や、手足がどこかへ行ってしまった肉体や、剣や矢が刺さっている体も見られる。

 何かを踏んだ感覚がしても気にしない、進むのみだ。

「なにがあったんだ……」

 漂う異様な匂い。土埃、血、煙などが混ざって、それは戦地の匂いによく似ていた。

 死体の連なる道が途切れた時、武器を持った複数人の一段が現れ、俺たちの馬車を止めるのだった。

 彼はゼノのように見えたが、武装していてはっきり断定することはできない。

「どこへ行く」

「里帰りだ。何か問題でもあるのか」

 俺は露骨な表情と声音で不機嫌さを露わにしながら受け答えをする。とにかくこの道を通り過ぎたいのだ。

「後ろには誰が乗っている」

 武装した男たちは皆、顔の目から下を布で隠していて、年齢などは分からなかった。

「答える義務があるのか?」

「ゼノが乗っているか確認する」

「乗っているわけないだろう。乗っているのは病人だけだ」

 男たちが無理やりに馬車を開けようとするので、俺が馬車から降りて開閉する手を止め、扉の前に立つ。ここで扉が開くと、きっとキュフが飛び出て来て歌いに走ってしまう。

「お前たちに病人を見せる義務なんてないだろう」

「確かに唸り声は聞こえるが、人を拘束しているんじゃないか?」

 馬車の中から誰かがゴンゴンと叩いたり蹴る音がして、より一層男たちが馬車を開けようと俺を押し除けようとした。すると、弾みで服の中に隠していた蝶の首飾りが服の外に出て、揺れて光った。

「おい、それはどこで手に入れた」

 男たちの手が急に止まり、驚いたような声を出した奴もいれば、より高圧的に向かってくる奴もいた。

「知り合いに貰ったんだよ」

「誰に貰った?盗んだんじゃないだろうな」

 背の高い男が俺の胸ぐらを掴んで盗人に仕立てようとした時、人をかき分けて頭巾付き外套を着た男がやって来て、俺を掴んでいる手を離すように命令する。

 彼の一言で男たちはすぐに俺から手を離し、口も閉じて、まるで軍隊の新兵卒と上官のような雰囲気だ。

 現れた人物にその場の全員が敬意を持っている所を鑑みると、この集団はちゃんとした集団で、縦社会になっているということだ。

「事情は聞いている。仲間を助けてくれたと」

 若い男で、その声をどこかで聞いたことがあるように思った。しかもつい最近出会った誰かで、確か。

「ここを通してくれないか。病人を故郷の医者に診せたいんだ」

「故郷とは?」

 嘘をついてもきっとばれるだろうから、俺は素直に「アルスメール」と答えた。

「今回は恩があるので、通行を許可するが、次は無い」

「次が無いってどういう意味だ?」

「この世にゼノ以外はいらないということだ」

 ああ、思い出した。この声は彼奴だ。あの祭りの広場でキュフという名を聞いて反応した美男子。

 俺は再び手綱を持って、馬を走らせようとする。そして去り際にあの男に声をかけてみることにした。

「じゃあな、キュフ」

 後ろを向いていた美男子は名を呼ばれて反応したかのようにこちらを向いて、舌打ちするのが聞こえた。間違いなく彼はキュフと呼ばれる男だった。

 頭巾の下の眼光は鋭く、ただ美しいだけの男では無いという事は確信するのだった。



 首都ノックスを越えて隣接する地域に入っても、ところどころで小規模な戦場跡が見られ、俺たちの気分はずっと暗く重いままだった。

 去年の夏。俺と隊長が見た戦場に似た光景で、至る所で死が当たり前のように漂っている。

 この最悪な死者の道は隣の町まで続き、キュフの唸り声は途中から聞こえなくなった。ソラヤが言うには途中で気を失ったそうだ。

 俺たちが馬車を走らせている間、どこからもルシオラの歌声は聞こえてこなかった。おそらくこの一帯は危険で、ルシオラ達が警戒して近づけていないと言う事。

 町境の橋が見えた時、一気に光景が変化する。死体だらけの死の国から、急に兵士だらけの軍の一団が視界に広がる。あれは、ケルウス国の首都の警備兵と隣の州の州兵だろう。

 俺たちの馬車はアルゲオの花が描かれた旗を持つ兵士たちに止められる。

「お前達、旅券はあるのか?」

「旅券?いつから故郷に帰るのに旅券が必要なったんだ?」

 ケルウスの旅券は外国へ渡る際に必要になるが、国内を移動するときには必要がないが、例外がある。それは国内が有事の時だ。

「ここを通りたければ旅券が必要だ。今すぐに見せろ」

「見せろって言われても、今まで要らなかったのに急に必要だって言われても持ってるわけがないじゃないか」

 兵士は旅券が確認取れないのならここから先には進めないと、高圧的な言い方をしてくる。

 ちなみに俺は旅券を思っているが、この馬車の中の全員が持っているわけではないので、ここは何とかやり過ごす方法を考えなければ。

「持っていないなら引き返せ」

 困った。兵士は柔軟性があるような性格ではなさそうだし、お金を渡して融通してくれるような奴でもなさそうだ。

 すると立派な甲冑を着た騎士風の男が現れて、何かを指差す。指が刺された方には馬車の中に吊るされた窓かけだ。中が見えないように全ての窓に白色の窓かけをさげているのだが、それがどうしたのだろう。

「失礼いたしました。通行を許可します。この先も危ないと思われますので、お気をつけください」

 あれだけ旅券が必要だと言っていたのに急に態度が変わり、通行許可が下りた。

 俺は疑問を覚えながらもとりあえず、この状況が変わる前に通り抜けてしまおうと思い、急いで馬車を走り出す。

 そして兵士が見えなくなった頃、小さな広場に馬車を停めて、窓かけを確認することにした。

「気づかなかった」

 馬車の扉を開けると、ソラヤがキュフを連れて外に出て、キュフを原っぱに寝かせる。

 貴族の男が暗い顔で外に出てくると、頭を抱えながらその場にふらふらと座り込んだ。

 隊長は鳥のロアを抱えながらぼんやりした表情で空を見つめている。

「貴族のお兄さん、あんた何者なんだ?」

 落ち込んでいる貴族のボンボンに声をかけると、男は面倒臭そうな顔をして小さなため息を吐く。

「これはアルゲオの花じゃないのか?」

 窓かけには白地に白い刺繍が施されていて、そこには立派なアルゲオの花が描かれている。つまり、この馬車は王族の馬車だという事だ。

「おい、答えろよ。あんたが王族か貴族だって事は分かってるんだ」

「なんでこんなことに」

 男はそう言うと、のろのろと立ち上がって馬車に乗り、窓かけを全部引き剥がしていく。その行動に隊長が少し驚いて、目を丸くさせている。

「こんなところにまで花が入っているとは、呆れる」

 そう言ってアルゲオの花が入った布をくしゃくしゃに丸めて馬車の外に放り投げた時、懐かしい声が耳に届いた。

「何をしているんだ?キャノ」

「今、なんて」

 男がそう言葉をこぼした時、一緒に俺も同じ言葉を心の中で呟いていた。

 隊長が男に声をかけたのだ。あの、受け答えも出来ずに喚き散らしていた隊長がしっかりした言葉で、まっすぐな眼差しを向けながらそう話しかけた。

「キャノ、どうして馬車に乗っているんだ?というか、この鳥はなんだ?初めてみる種類だな」

 隊長の腕の中には赤い大きい鳥が抱かれており、隊長は不思議そうにロアを観察し始める。そして座席の横には、お菓子の入った布袋が口を開けていた。昨日俺たちが購入した、隊長の好物マシュマロだ。

 男が何も言わず馬車の外に出ると、隊長も後を追うように馬車を降りるのだが、足が弱っているせいか馬車の階段から足を踏み外し、その場にバタンと尻餅をついてしまった。

 俺とソラヤが駆け寄ると、隊長は屈託のない笑顔で笑って、「なんか、足がうまく動かなくて。鈍ってるな、これは。ハハハ」と言いながら自分の足をぽんぽんと叩いて見せる。

「隊長、大丈夫ですか?」

「ディアンさんお怪我はないですか?」

 隊長は俺とソラヤをじっくり見つめると、何かを考えているような表情を浮かべ、そして「あ!」と思い出したような声を上げた。

「あ、思い出した。あの戦場で出会った女の人だ。歌の上手いルシオラの男性と一緒に仲間達の為に歌を歌ってくれた。そうだろう」

 思い出したのはソラヤの事だったようだ。

「ディアンさん覚えていてくれたんですね」

「もちろんだとも。あなたの歌声は忘れられない。純粋で、少し不器用な感じがとても素敵だった」

 ソラヤは少し照れくさそうな顔をして、「ありがとうございます」と返事をする。

「隊長、本当に隊長なんですね」

「オセロ、それはどういう意味なんだ?」

 俺のことまで思い出せている。不意に名前を呼ばれて、涙が瞳を潤すのが分かった。

 俺よりも泣いているのが一人。キャノと呼ばれた男だ。キャノさんはアルゲオの花が刺繍された布を握りつぶし、一人涙を堪えるように何度も手でぬぐいながら、鼻をすすっている。

 隊長は俺たちに支えられながら立ち上がると、泣き顔を隠そうとしているキャノさんの背中を優しく撫でたり叩いたりするのだった。

「隊長。俺たちは今、アルスメール領に向かっているんです。とりあえず馬車に乗ってください」

「どうしてそんなに急いでいるのか知らないが、アルスメール領まではまだまだある。急いでも馬が疲れるだけだ。この辺で休憩しよう」

 朗らかに笑う隊長は本当に太陽にように温かく、頼もしく、俺は張り詰めて気を張り続けていた心の何かが、呆気なく解けてしまいそうだった。

「急いでこの場から去らないと、よく分からない戦いに巻き込まれる恐れがあります」

「オセロ。体調不良の少年も居るようだし、休憩にしよう。そしてその間に状況を教えてくれないか。どうしてキャノがここにいるのか」

 隊長はキャノさんの隣に座り込み、俺に座れと促してくる。ソラヤが馬車から毛布を持ってきて、キュフにかけてあげている。どうやら俺以外はここで休憩するつもりなのだろう。

「隊長、キャノさんってまさか、やんごとない方なんじゃ」

 名前を聞いた時から予想はついていた。髪が長く、高貴な生まれで、屈強な武人がお付きにいるとなると、この国では相場が決まっている。

「三番目の王子で、私の弟」

 隊長がそう言うと、キャノさんが涙声で「血のつながりはない」と真面目な補足情報を教えてくれる。

 やはり彼はこの国の第三王子キアノ殿下だった。

「キャノの子どもの頃から護衛をしてきたから、ほとんど兄弟のような間柄なんだ。私がここにこうしているということは、キャノにいろいろ面倒をかけたのだろう」

 全てを覚えているのかどうかは分からないが、隊長なりに何かを悟っているようで、自分がここにいる事の不可思議さには気づいているようだった。

 俺はノックスに着いてからのことを隊長におおまかに伝えた。その頃には殿下の涙もおさまって、キュフも目を覚ますのだった。

 俺たちはそれから休み休み馬車を走らせ、北部のアルスメール領を目指す。予想よりも戦禍は街道沿いには見当たらず、穏やかな旅になった。春の陽気に包まれながら、不安と疑問を持ちながら馬車は進んだ。

 しかし、自分にとってこの道が想像もしなかった場所に繋がっているのだということを、この時の俺は何も知らない。

 何かに巻き込まれていて、もう引き返せないところまで来ていているという感覚だけが頭の後ろにあったことは間違いない。

 もう、進むしかない。


つづく。




「ルシオラが魂を切り取り、プルモが死者をどこに持っていくのだろうと思った時期があって、子どもの頃、友と一緒にプルモを追いかけたことがあった」

 彼は思いもよらない、はにかんだ表情で自分の昔話を語り始めた。こんな悲壮感のある線の細い男が、笑うこともあるのだと意外に思った。

 僕が死者の魂はどこに辿り着いたのかと尋ねると、彼は少し目を輝かせてこう答えた。

「もちろん、プルモ達にまかれた。はじめは上手に遊ばされて、ノックスの街中をぐるぐる歩きまわされ、日没にはプルモ達を簡単に見失ってしまった。君は知っているか?死者が辿り着く先」

 もちろん知りません。と答えると彼は、分かったら教えてくれと僕に言ってきた。冗談か本気かは分からなかったが、僕は答えが分かったら彼に伝えようとは思った。

 彼の付き人が休憩時間が終了したことを告げ、彼はまた鉄仮面のような無表情に戻ってのろのろと席を立つ。

「さあ、現実に戻ろうか」

 どこへ行くのかと尋ねると、彼は立派な剣を手にしながら答えた。

「死と罪を作りに北西領まで」

 意味深な言葉を吐き、目の前に置かれた紙のコースターを力強く握りつぶし、床に捨てた。そこにはこの国の国家、アルゲオの花が描かれていた。

 この数十日後、ケルウスの国、北西の穀倉地で大きな戦いが勃発した。ロス国との国境を面する北西領で、ロス国とアルス国の連合国が国境からと河から攻めて来たのだ。

 ケルウス軍はどんどんと押されていくが、立ち向かい続け、なんとか連合軍を押し戻すことができたという。

 しかしその穀倉地は焼け野原になり、おびただしい数の死体が地に倒れた。

「まるで死体の海だ」と彼が馬上で呟いたと噂され、その土地はそれから死体の海、アルスメールと呼ばれるようになる。

 彼は罪だと分かっているのに進軍を続ける。

 いろんな国で死を作り、見つめ続ける。

 死者が辿り着く場所を探し求めるように、己が死者の国に辿りつきたいかのように。

 僕の目には、ケルウスを治める彼の王は、死の世界を求めているようにしか思えなかった。


エアルの手記より。

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