気狂い預言者の言葉は無視され続けている
午後の穏やかな日差しの差し込む平和を絵に描いたような公園があった。
広い草原では子どもたちが楽しげな声をあげて走り回り、親たちはそれを見ながらのんびりと談笑をしている。木陰のベンチでは若いカップルが顔を赤くしながら手を握ろうか、握るまいかと迷っているのが見える。そして池の周囲をぐるりと囲む散歩コースでは、それらの様子を微笑ましそうに見守りながらゆっくりとした歩調で犬を連れて歩く上品な老夫婦の姿もあった。
平和を絵に描いたような、まさに楽園と言えるような景色である。
「終末が近い! 悔い改めよ! 滅びが来るぞ!」
そんな穏やかな公園に突如としてそんな叫び声が響き渡る。公園にいた人々が驚いてそちらへと視線を向けると、そこには薄汚れた格好で白髪を振り乱している一人の老いた男が立っていた。
公園の人々は最初こそ急に聞こえてきた大きな声に驚いたような表情を浮かべていたが、声の主がその老人だと気が付くとまたか、といったような調子で一人また一人と興味をなくして自分たちの世界へと戻っていってしまった。
老爺は唾を飛ばしながらいまに滅びが来ることを叫び続ける。しかしやがて一人の青年が老爺の方へとやってきてお爺さん、と話しかけた。
「おおっ。お前はわしの話を聞いてくれるのか。信じてくれるのか」
その嬉しそうな声に青年はすまなさそうな表情で首を振ると、こう言った。
「もうそんな時代じゃないんだ。お爺さんの役目は終わったんだ、お爺さんももっと穏やかに日々を過ごしなよ」
しかし青年の言葉に老人はますます興奮したのかさらに声を荒げ、自分は神から滅びが来るということを聞いたのだ、悔い改めねば地獄に落ちる、しかし今ならまだ楽園への道が残されているとわめき散らす。
青年は老人の言葉を否定することなく辛抱強く老人の話を聞きながらなんとか落ち着かせようと四苦八苦していた。
そんな老人と青年を遠巻きに眺めながらひそひそと会話がなされていた。
「あのお爺さんもかわいそうなものね。頭がおかしくなっちゃったみたい」
「滅びなんてもうとっくの昔に来て、お爺さんのおかげでみんな楽園に来れたというのにね」
「ずっとその役目を果たしていたから、ついに滅びが来て役目がなくなっちゃったらなにをすればいいのか分からなくなっちゃって頭が混乱しているのね」
穏やかな日差しの中、人類を楽園へと導いた偉大な預言者は、いまに滅びが来て楽園への道が開かれるとずっと叫び続けていた。
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