烏帽子の祈祷師
私は、柿が好きだ。梨も好きだ。
フルーツ全般いける。
蜂蜜もあるので、アルコールに加工しやすい。
安易な考えだった。
私は、果樹園で勉強をしていた。
肥料のやり方や、剪定の時期。受粉は。私の所は、ハッピービーに任せる。
田舎の老夫婦の元で、元気の無い果樹達を育てる方法を学んでいた。
そんな時に。やつは現れた。
見渡す限りの、果樹園の場所に。
似合わない、派手な籠が「エッサ、ホイサ」と掛け声を出して。
豆粒くらいの大きさから、こちらに向かってくるのが分かった。
お爺さんは、早くから籠に気付き。
30分も前から、頭を下げていた。
お婆さんも、お爺さんの後ろに控えて。頭を下げていて。
私も、その後ろに控えた。
畑に、藁を敷き。その上に、綺麗に洗っていた、布を掛けた。
この上に、籠を降ろして。
籠よりも、派手な狩衣を着た。祈祷師が畑に降り立ち。籠から、長い烏帽子を取り出して被った。
祈祷師は、イソイソとお爺さんに近付き。左手を袖から出して。お爺さんに、催促をした。
お爺さんは。懐から、パンパンに膨れた綺麗な布を取り出して。
祈祷師の左手に置いた。
「田舎は、これだから困る。小判は無かったのでおじゃるか」
祈祷師は。直ぐ様、結び目を解き。
銀の粒が、ボロボロと崩れ。
銀の確認は出来た。
「おぉっ。生きておるは」
祈祷師は、ベタな事をいい。
直ぐに、袖に入れた。
一度、籠に戻り。小さな壺を持出して。
お爺さんは、祈祷師を、奥の方にキトウシを案内した。
お爺さんは、畑の上を歩き。祈祷師は、布の上を歩いた。
私とお婆さんは、祈祷師の後ろを歩き。
祈祷師は、枯れ木の前に立ち。
壺の灰を握り。枯れ木に撒いた。
「ポチの魂よ。我、花咲に力をお貸し下さい」
一瞬だが、灰を撒いた瞬間に、緑の魔法陣が現れて。灰が光り。枯れた梨の木が、綺麗な白い花を咲かせた。
祈祷師は、お爺さんの案内に従い。
8本目の枯れ木に取り掛かかると。
「疲れた。銀の粒がおもぉて。手が上がらん。今日は仕舞でおじゃる」
祈祷師は、壺に蓋をして。帰る準備を始めた。
「祈祷師様、お約束が違います。枯れ木は、あと2本残っております。どうか、残りの2本に、花を咲かせて下さい」
祈祷師は、壺の蓋を開けて。灰を握り。枯れ木に撒いたが。
枯れ木は、そのままの姿を保たままだった。
「分かったで、おじゃろうも。次は、小判を用意しておけで。おじゃる」
祈祷師は、疲れたという割には。足取り軽く。
「今日は、和牛でおじゃる。早う、籠を出せ」
お爺さん達は、祈祷師が見えなくなるまで。頭を下げ続けていた。
「この世に、神も仏も無いのか。儂らの、この2年は、何じゃたんかいの」
お婆さんは、畑の土の塊を握り潰し。食費を減らし。贅沢を辞め。夜遅くまで、藁を編んで来た日々に怒りすら覚え。悔しかった。
「スマンな。儂が、ヘタレなばっかりに。何も言い返せなんだ」
お爺さんは、言い返せなかった自分に。お婆さんの思いに、応えられなかった自分に。カーストの底辺な自分に、腹が立ち。
泣きながら、お婆さんに。謝った。
「お婆さん、また」
お爺さんに寄り添い。背中に手を当てて。
共に、泣きながら。
老夫婦が、困っていると。私は『植物復活魔法』を使い。枯れ木に、花を咲かせた。
コピーだ。一度見た魔法は、ほとんど使える。
私は、枯れ木を10本治す事に。1本の枯れ木を頂いた。
お爺さんの、果樹園を復活させていると。
隣の畑から、権蔵爺さんがやって来た。
「長次。だいぶ奮発したな。いくら使った」
権蔵爺さんは、見違える程の梨園に驚いて。
祈祷師に、幾ら支払ったか聞いた。
「アイツは駄目だった。何時ものように、8本だけ仕上げて。逃げた」
尋常じゃないのは、一目瞭然で。
何が有ったのか、権蔵爺さんは聞いた。
「真理子ちゃんだ。真理子ちゃんも、祈祷師の血を継いでいたんだよ」
祈祷師の家系は、昔、昔。お殿様の前で、華麗に花を咲かせて。祈祷師の地位を頂いたそうだ。
私は、お爺さんから、8本の梨の木を頂き。
お婆さんも、20年ぶりの豊作を予感して。
ウキウキしている。
「権蔵。お前の畑も、真理子ちゃんに見てもらえ」
私は、さくらさんが、自分を治癒した時に使った、回復魔法(中)を使い。
お婆さんの腰痛も、緩和させた。
「だったら、真理子ちゃんに。一肌脱いでもらおうかな」
これには、お婆さんが怒り。
「権蔵。真理子ちゃんにお願いしろ。罰が当たるぞ。バカタレ」
私は、権蔵爺さんの柿の木を、復活させて。
柿の木を、15本貰い受けた。
私の魔力は、枯渇すること無く。
1週間で、私の果樹園の4倍の量の樹木を得た。
私は、 鉄仮面を完成させた。
色々と、露出を減らすため。考え抜いた末に。
アヌビスのマスクの様に、胸の辺りまでの鉄仮面を製作して。
レッド・ヴァイツに似せた。
観賞用の桜や、藤も松もアイテムボックスに入れ。
刀鍛冶の能力を得て。フルプレートを、製作できるレベルまで達して。
火薬が有れば。薬莢を作り。
銃を、作れるレベルだが。
聖剣を作るレベルには、達していなかった。
私が、ジポングを離れる際に。強敵と出会った。
真っ赤な鬼だ。
頭には、立派に反り返る角が2本と。
3Mを越える肉体に。金棒を担いでいた。
集団で、金棒を振るい。家々を破壊して。
「レベルを上げろ。勇者を探せ」
一人の金髪の少女が、道の真ん中に現れた。
ピンク色の特攻服に、背中に『喧嘩上等』と刺繍されており。現地民では無かった。
少女は、私と同じように。アイテムボックスから、原付きを取り出し。
目に止まらぬ速さで、漫画のように砂埃を上げて。消えた。
私は、鬼達に立ち向かった。
実際、鬼達は私の相手にならず。
投げ飛ばしていたのだが。
「お前は、勇者か。何故、俺達のレベルアップの邪魔をする」
猿どもとは違い。ツインドラゴンを避け。水圧斬を筋肉のみで、弾き返した。
だがこちらも、ダメージは無く。
相手が疲弊するだけだと、感じていたが。
それは、特殊能力で。私が、覚えることは出来なかった。
鬼達は、隊列を組み。
中腰になり。舌を出した。
体の部位を叩き始めた。
「カ・マテ、カ・マテ」
ラグビーで、見たことのある光景だった。
団結力を高め。鼓舞した。
赤鬼の体は、段々と黒く変色して。
ハカを、終えると。
一時的に、レベルアップしていた。
一瞬で、私との距離を詰め。
服を、掴まれて。投げ飛ばされた。
一体も、相手に出来ない感じだったが。
2体目が、私に近付き。
私の服を掴み。そのまま投げた。
服が破け。服が破れ。そのまま飛んで逃げた。
「この変態共。変な踊りしやがって」
鬼共は、空を飛べず。私は、逃げる事が出来た。
鬼も、特攻服も、現地民では無かった。
私と同じ。この世界に飛ばされて来た、者達なのかは、不明だが。鬼達が、空を飛べていたら。
私は、別荘に戻り。蜘蛛を探した。