辻斬り牡丹
菊宗酒造で、日本酒の勉強をしていて。
温泉に浸かり。
初めて、人を取り込み。
男に化けた。
私は、菊宗酒造の酒蔵でお世話になっていた。
黒子の衣装を着て。酒蔵を出入りし。
事務所を、伺った。
「なぁ。よっちゃん、頼むよ。なんもしねぇから。隣町の温泉街に、付き合ってくれよ」
数日前に、隣町の温泉街に『辻斬り牡丹』が出たと噂が走り。親方は、イライラが隠しきれず。
よっちゃんを、温泉街に誘っていた。
「嫌です。他を当たって下さい」
よっちゃんは、そっけなく返した。
「なんでぇ、生理か。おぁ゙。少しはか考えてから、返事しろよ。藪から棒に。けぇすな」
よっちゃんは、親方の方を見ずに。そろばんを片手に。帳面に記帳している。
「藪から棒では有りませんよ。ここ二、三日ずっと、その話じゃないですか。戸を開けたら、温泉に行くぞって。女将さんを、連れ出して下さいよ」
女将さんは、5代目の宗信さんが亡くなってから、自室で伏せるようになり。
気力も失いつつあった。
「バカ野郎。カァちゃんを、こんな事に巻き込めるか。それに、アイツは、でぇ丈夫だ。おらッチが居ねぇ方が、菊宗は上手く行くんだよ」
親方は、宗信さんを殺した。『辻斬り牡丹』に、仇討ちを、する予定だ。
「駄目ですよ。そんな事したら、女将さんが可愛そうです。女将さんが望んでいるのは、さくらさんを、ここに戻して。お菊ちゃんを、六代目に育てる事です」
さくらさんは、宗信さんの嫁だったが。
菊宗酒造に、寄り付かず。
外に出て、回復魔法を使い。
『長屋の女神』なんて呼ばれて。
金子を取らずに、僅かな野菜をもらい。
感謝されて、暮らしている。
「あの子は、菊宗酒造に収まっとけば、良かったんだよ。無理して、外に出る事は無かったんだ」
お菊は、近所の家々を、たらい回されてたが。強い幼女として育った。
「もう良い。お前に頼まん。真理子ちゃんを誘う」
私に、とばっちりが来た。
「真理子ちゃん。隣町の温泉に、付き合ってくれよ。好きなだけ飲み食いしていいから。本当に、何もしない。おらッチは、カァちゃんひとすじだから。信じてくれ」
弱った。これで3回目だが。お世話になっている手前。断わりづらい。
「一度だけで」
よっちゃんが止めた。
「駄目ですよ、口車に乗っちゃ。結局、スケベなんですよ。男なんて。真理子さんは、いい女なんですから。気をつけて下さい」
よっちゃんは、机を『バン』と叩き。
女将さんの事を、心配しない親方に怒っている。
「いつ、おらッチがそんな事した。勝手なことを言うな。バカ野郎」
一度、よっちゃんを叱り。
「本当に、何もしないから。信じてくれ」
私は、親方が不便に感じて。
「一度だけですよ」
物語が動き出した。
私は、隣町の温泉に浸かっていた。
綺麗な景色と、大きなお風呂を、堪能していると、親方が風呂場にやってきた。
「良いわよ。そろそろ、茹で上がる前に出るわ」
私は、ゲル状の体を晒して。クラゲの体が、水分を吸収した。
「なんだ。真理子ちゃんなのか」
親方は、勝手に入って来て。タオルで前を隠していた。
「あら。私以外に、誰と宿に来たの」
真理子は、手を伸ばして。浴衣と帯を、カゴから取り出して。素早く、着て帯を巻いた。
「頼む。おらッチを殺すのは、『辻斬り牡丹』を始末してからにしてくれ」
親方は、この期に及んで、命乞いをした。
「私が、親方を殺すなら。入って来た時点で、瞬殺してますよ。それに、親方を、始末するのは、私では有りませんよ」
その時。外が騒がしくなり。
『辻斬り牡丹』が出たぞ。
親方は、脱衣所で褌を締めて。
浴衣を羽織ながら。部屋を出た。
私は、黒子の衣装を着て。
ゆっくりと現場に着いた。
親方と、女性が何かを話していた。
「お義父さん、宗信さんの仇討ちが、終わりました、これから番屋へいきますので。お菊をお願いいたします」
さくらは、肩から血を流していたが。
自分で治癒して。返り血を浴びた着物で、顔に着いた、血を拭き取っていた。
道の真ん中に、男の死体が転がり。
腹に、短刀の傷が何箇所も有り。出血多量だった。
「何で。さくらが、『辻斬り牡丹』何だ」
親方は、頭をかかえた。
「宗信さんは。女郎小屋に、お義父さんのツケを払う為に出かけて。道行く、2人の女性を助けたのですが。風来坊の5人組が、寄って集って暴行した挙げ句。宗信さんを殺したのです。この方は、最後の一人なのです」
さくらは、親方に深く頭を下げながら。
演歌歌手の様に。口だけ動かした。
「おめぇは、菊宗酒造に、けぇれ。おらッチが囮になるから。その代わり。カァちゃんを頼む」
親方は、さくらの肩に手を当てて。動かないさくらを、押して。逃がそうとした。
遠くで、岡っ引きの笛が鳴り。
野次馬が、倍に膨れた。
私は、空中に飛び。
クラゲの化け物になった。
私は、温泉街にパニックを起こした。
夜も更けていた為。子供の姿は無く。
私は、初めての試みをした。
真理子は、転がっている死体を取り込み。
死体の男に化けた。
その後は、岡っ引きに捕まり。真犯人を名乗った。
3日3晩、拷問を受けて。
番屋を抜け出し。
真犯人の死体を、川に捨てた。
「よっちゃん、茶をくれ」
汗をかいた親方は、事務所でお茶を催促した。
「嫌です。ご自分でなされて下さい」
よっちゃんは、怒っていた。
「何でぃ。不機嫌だな。生理かい」
親方は、よっちゃんが不機嫌だと、このセリフを吐いた。
「そりゃ、怒りたくもなりますよ。聞きましたよ。真理子さんの裸を、風呂場で覗いたって」
親方は、急須から湯呑みに。お茶を注いでいたが。湯呑みを落として。外に駆け出した。
母屋の縁側に、女将さんが日向ぼっこをしていて。その背中を、さくらが擦り。庭をお菊が走り回っている。
私は、とうとう親方に見つかった。
親方は、私の前で土下座をして。
「このスケベ。早く真理子さんに謝れ」
「おお、スケベが、土下座したぞ」
「真理子さん。頭を踏みつけろ」
野次馬も酷かった。
「スマねぇ。恩に着る」
親方は、泣きながら頭を地に着けた。
さくらは、親方に手を差し伸べて。
親方が、さくらの方を見ると。
さくらは、人差し指を口に当てていた。
「これ以上は、喋ってはいけません」
さくらは、優しく愉して。
「じいじ。ラメ」
お菊が、親方の頭を、グーで叩いた。
私は、女将さんの着物を数枚もらい。帯も付けてもらった。
私は、ここから鍛冶師の修行に出かけた。
鍛冶師の修行の側で、果樹園を見つけて。
苗木交渉をして。数本もらい受けた。
そこに、烏帽子を被った、祈祷師が現れて。