生贄
蜘蛛たちの繁殖が始まった。私の為に卵を下さい。
私は、2万人の兵を、蜘蛛に捧げた。
周りの森で、待機していた猿どもは、散り散りに消えて。負傷したモノは、死を覚悟した。
ヒヤロワーロ伯爵は、怯える猿を見て、ただならぬ雰囲気を感じ取り。真理子から、目を離さない。
「何をしている。早く、ついて来い。ダイヤモンドが欲しいのだろ」
私は、数万の兵に背を向けて、別荘へ向かう。
森を、無理やり切り裂いて作った一本道を、スタスタと歩いた。
ヒヤロワーロ伯爵は、馬上でも落ち着かず。周りにも、20人の騎馬隊を配置して、その周りを、50人の兵が、猿を警戒した。
狭い一本道に、2万人の兵が入り。贄の階段を登っている。
猿ともが、私の贄にチョッカイを、出そうとしてきた。
「飢えているのかも知れないが。コイツラは、私の贄だ。お前たちには、2日間もおもちゃで遊ぶ時間を与えただろ。時間切れだ、とっとと去れ」
『ツイン・ドラゴン』
兜を被り、新たなリーダーを自負していた猿は、10頭の猿とともに、息絶えた。
私は、この森の掟を、猿どもに教えた。
5mを超える木々が、跡形もなく消え。切り株だけが残り。突き当たりは、遥か彼方。
これだけの強力な魔法を使い、この女は。いや、この化け物は、普通に。先ほどと、変わらぬ速さで、歩みを止めない。
まるで、何事も無かったかのように、振る舞っている。
如何なる、大魔術師でも、到達できない領域だぞ。
大魔術師と数十人が、何時間、いや1日かけて、放てるか、どうかの大魔法だ。
誰も逃げる事が、できなくなった。
真理子と言うのは、ただの名だ。化け物と呼ぶのが、ふさわしい。
「何処へ、向かっている。化け物」
ヒヤロワーロ伯爵の発言に、周りが驚き。側にいた騎馬隊が、宥めようとした。
「あの山に、用があるのだろう。違うのか、私の命を取りに来たのか。それも違うな、無防備に背を向けているのに、襲っても来ない。やはり、ブルーダイヤモンドが、目的なのだろう」
「あの山に、ブルーダイヤモンドが、有るのか」
ヒヤロワーロ伯爵を、制止させようとしていた騎馬隊が、私の言葉で顔色を変えた。
「ゴロゴロ眠っている。探したら、マーリンが、ぶら下げているヤツよりも、大きなモノが見つかるやもしれぬぞ」
私の前に、ヴァイツが現れた。
「今日、これから2日間、この一帯を留守にする。好きに使え。ブルーダイヤを、取り放題だ。だから、マーリンを、見逃せ。あの子には、未来がある」
「本当に、ブルーダイヤモンドを、取り放題なのだな。お前は、邪魔をしないのだな。お前の贄ではないのだな。なら、マーリンの事は、不問にする」
「有り難い。話が分かるヤツで助かった」
「サハンナーの国王には、マーリンの事を諦めてもらう。それだけで良いのだな」
「2日間だ。3日後に、彷徨かれたら困るので。猿の森にでも捨てるぞ。分かったな」
「サハンナーの諸君、2日間で山のブルーダイヤモンドを、全て奪うぞ。急げ」
「「「「「オー」」」」」
サハンナーの兵は、山の採掘場まで走り出し。
逆に、ヴァイツの荷車は、出口に向かった。
メスと小狼を、荷台に乗せて。御者を、ソサルジとサバガヌが務めて、4頭引きの大きな荷車の後ろに、リュウミーが座っている。
大きな狼の荷車が通り、隊列が乱れたが。
狼の荷車を過ぎると、前の兵隊が走り出している。
兵隊の性なのか。前につられて。後続は、フルプレートを着たまま、走り出した。
金属音を鳴らし、汗臭い体臭を放った。
追い打ちを掛けるように。別荘と鉱山へ向かう分岐点で。真理子様が、叫んでいた。
「早く取りに行かないと、ブルーダイヤモンドが、無くなるぞ。早いもの勝ち、身分は関係無い。大きいサイズを、手に入れろ。外に出たら、太陽にかざして、不純物を確認しろ」
私は、大量の贄と鉄くずを捧げて、最後に、赤く染める必要があった。
薄いピンクのフルプレートを、リュウミーやサバガヌとソサルジの二人にも、渡さなければならない。
私がいない時に、ケビンのような暴走があっては困るからだ。
酒の弱いケビンが、無理に飲んだせいもあるが。
暴走は、暴走だ。守る義務が、私にはある。
兵隊は、まばらになる頃、山から悲鳴が聞こえた。
蜘蛛たちの繁殖が始まった。
私は、駆け上がるサハンナーの軍に、上から赤い粉をまいた。
美味しくなる魔法の粉のように。叫び苦しみ、自分の位置を、生きていると声を上げろ。
最後は、洞窟の入口で、2つの樽を転がして、風魔法を放った。
「おいしくな~れ」
私は、バヤナルトへ飛んだ。
バヤナルトの城壁を一周して、新たな魔除けの香油を撒き散らし。見張りの兵士にも、目を配った。
ヴァイツたちは、道が空いたら走り出すように、命令している。
別荘の井戸は、水を貯めて氷にした。
地下からは、バヤナルトへ向かえないように、封じて。別荘に、逃げ込んだ者も、水を飲めなくした。
ヴァイツたちと合流して、デナガリの街へ向かっている。
森の中から、3匹の蜘蛛が現れた。ヴァイツの荷車よりも速い。
リュウミーを、シンガリに据えたのも、意味があった。
「ルプリー。お願い」
リュウミーが、水魔法を放つと。ルプリーが、雷を出す。
濡れた地面に電撃が走り。それに触れると、感電する。
数匹の蜘蛛が、ひっくり返っている。
雷の魔法を使えるのは、ルプリーだけだが。
水魔法は、ガントンとマヤだけだ。
大人のヴァイツは、キース以外、魔法は使えない。
海に着くと、小舟を出して、皆を乗せた。
今年も、誰も欠けていない。無事に生還した。
バヤナルトも、被害は無く。数匹、入り込む寸前まで、壁を登ったらしい。
猿の被害は、知らないが。生存している。
別荘に、逃げ込んだヤツは、数人確認できた。
「蜘蛛の贄が、逃げ隠れするな。ブルーダイヤを掘りに来たんだろ。二万もの兵隊を引き連れて、ワザワザ海を渡り。命を捧げに来たのだろう」
この中に、ヒヤロワーロ伯爵は、存在しなかった。
「聞いてないぞ。あんな恐ろしい蜘蛛がいるとは、周りで何が起きたかわからずに、人々が倒れて行く。襲っていたのは蜘蛛だった」
「水をくれ、頼む。体の至る所が痒い。燃えそうだ。何とかしろ」
「そうだ、水を下さい。死にそうなのです。助けてください」
私は、次々とサハンナー軍の兵士を、森に投げた。
「先に伝えたはずだ。生き残ったら、猿の餌にすると」
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