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勇者再来

 サロが腰にある鍵の束を掴み、小走りで去っていく。それを追うように皇帝たちが歩き出した。訳も分からず、鉄次郎とシルアも付いていく。


「図書館で何をするのだろうか」

「分からないです。でも、あそこは国のありとあらゆる書物を保管してるから、異能力に関する資料があるのかも」

「なるほど」


 中庭を通り抜け、少し奥まったところにそれはあった。想像以上の大きさに鉄次郎が驚く。体育館くらいあるのではなかろうか。

 サロが扉を開ける。中に入ると、天井まで届く本棚に本がぎっしり詰まっていた。


「素晴らしい場所ですね」

「でしょう。私自慢の図書館です。ご希望でしたら、好きな時にお使いください。鍵はこの通り、サロが管理しておりますので」

「有難う御座います」


 貴重な機会をもらってしまった。しかし、ここならば鉄次郎の知識不足を補えるかもしれない。どうせ時間はたっぷりある。肝臓が限界を迎えるまでの話だが。


「確かこのあたりに……」


 フォルドが古い本をいくつか取り出し、ぱらぱらとページをめくる。


「何を探しているのだろうか」

「分かりません」


 シルアにも想像がつかないらしく、おとなしくフォルドの行動を見守った。


「──あった!」


 間もなくフォルドが声を上げた。みんなで近寄る。本の表紙には魔物と人間が戦う様子が描かれていた。


「お父様、何をお探しだったんですか?」

「うん。このページを見てくれ」

「これは……魔王との戦い?」


 読めないと思いつつ鉄次郎も覗き込む。しかしなんと、本に書かれている文字を読むことが出来た。日本語ではない。だが、読める。どういう仕組みなのだろう。


──これも何かの付与、か?


「ここだ。勇者は魔王の魔力をも【吸収】し、魔王を封印することに成功した」

「【吸収】!」

「まあ!」

「なんと」


 フォルドが本を掲げた。


「鉄次郎さんは勇者と同じ異能力をお持ちということだ!」


──何故!!


「まさか勇者の生まれ変わり!?」

「考えられるわ」

「勇者の再来を私の代で見られるとは……この日のために皇帝になったのかもしれない」


 三人が喜びで舞っている間、鉄次郎は全身冷や汗を垂らしていた。

 自分は何者でもない。もちろん勇者の生まれ変わりでもない。多分。なんだか外堀を埋められている気がする。もう逃げられないんだろう、ぼんやりとそれだけ理解した。


「あのぅ」

「なんでしょう勇者様!」

「勇者ではないですね」

「失礼、鉄次郎さん!」


 勇者と呼ばれていっそう落ち込む。年老いた体では世界など背負えない。


「申し訳ないのですが、私は私なので、勇者のような立派なことは出来ないかと思います」

「ああ、つい先走ってしまいました。こちらこそ申し訳ありません。今は魔王がいるわけでもないですし、鉄次郎さんの好きに生活してくださって結構ですので」

「よかったです」

「もしも困り事が起きて、鉄次郎さんに出来ることだった場合はお手伝い頂く、このくらいは可能ですか?」

「それくらいなら」


 了承したところで、もう少し考えてから答えたらよかったと後悔したが、まあ早々に困り事は起きないだろう。今思いつくのは兵力が衰えてきている程度か。しかしそれも、一人の力ではどうしようもない。もっと沢山の──。


──沢山の兵力、か。それならあそこの。


 考える。確率で言えば、不可能に近い。シルアの話が本当ならば危険も伴う。しかし、思いつくのはそれくらいで。


──おいおい考えるとして、まずは己の身だな。


「いやぁ、今日は良いこと尽くめですね。そうだ、お疲れのところを引き留めて申し訳ありませんでした。あとは部屋でゆっくりしてください」


 皇帝たちに途中まで見送られ、ようやく今日の用事が全て終了した。

 医者に診てもらうのは明日以降ならいつでもいいとのことだったので、明後日を希望した。いつが週末か分からないが、毎日が日曜日なので問題無い。

 明日は家を建てる材料が届くため、一日空けておきたかった。


「さて、忙しくなるぞ」


 長い長い一日が終了した、かに思われたが、夕食でも皇帝が乱入するという事件が勃発した。夜まで気の抜けない日となった。


 もらった紙を引き出しから出し、日記を記す。孫への手紙は毎日書いたら渡す時引かれてしまうので、普段のことは別に日記を書くことにした。これならいつか本当に認知症がやってきても、面白おかしく過去のことを思い出しつつ過ごせるだろう。


「初日から書くことが沢山ある。これは飽きない日々を送れそうだ。皆には会えないが、いつかまた、再会出来る日を願おう」


 遅くまで起きているとついつい寂しさを抱えてしまう。鉄次郎は早々と寝ることにした。時刻はまだ二十一時半である。


「おやすみなさい」

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