表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/12

失言

 興奮し出したソルトが水晶の上を飛ぶ。雰囲気に流されて驚いたが、鉄次郎には【吸収】がなんなのかさっぱり分からなかった。


「申し訳ありません。異能力に関する知識が無いのですが、【吸収】とはどんな能力なのでしょうか」

「そうでした! 私としたことが失礼致しました」


 ぱたぱたと地面に下り、ソルトがぺこりと頭を下げる。そして壁に設置されているボードにペンですらすら絵を描き出した。真ん中に人型、周りに描かれたのは草花だろうか。そこから人型に向けて矢印が書かれていく。


「この人が鉄次郎さんだと思ってください。鉄次郎さんが異能力を発揮させると、周りのありとあらゆるものから少しずつ力を吸収していきます。そしてそれを自分自身の力として使用することが出来る、これが【吸収】です」

「なるほど。便利ですね」


 これなら自身の力が足りない時でも、周りの力を借りて対応することが出来る。何でもいいと思っていたが、これはかなり使える能力ではなかろうか。シルアが隣で拍手をした。


「すごいです鉄さん!」

「ありがとう。偶然この異能力が付与されただけだから、私が褒められるのもなんだか変な気分だが」

「いえ、異能力はその人自身の潜在的な力に対応して表面化するのです。ですから、元から才能があったということです。しかも!」

「しかも……?」

「【吸収】はどんな状況でも使うことが出来る、伝説的な異能力です! 私も初めて鑑定しました! 鉄次郎さんは救世主となる方かもしれません!」


──うわぁあぁ、違う意味で困ったことになってしまった!


 何かの異能力がないとがっかりさせてしまうと思っていたが、ここまでの特殊能力は求めていなかった。鉄次郎が望むスローライフとは逆に行っている気がする。


 救世主とはなんだ。この国の兵力が弱まっていることは聞いたが、戦争中でもなさそうだし、魔王はとっくの昔に封印されている。何故ここまで求められているのか理解出来ない。

 ずっと拍手をし続けているシリアにも話しかけづらい。しかも涙ぐんでいる。話しかけづらい。


「いやぁ、鑑定士歴五十年。良いものを見させて頂きました。冥途の土産になります」

「いえ! まだまだ現役で頑張って頂きたいです!」


 もう思い残すことはないみたいに言われると怖くなる。彼には是非とも長生きしてほしい。


「大丈夫。妖精族は二百年は生きるから」

「そうか……」


 シルアのフォローに心からほっとした。


「むしろ、私がそろそろ寿命を迎えそうだ。寿命というか病気というか」

「そうなの!?」

「なんですと!?」


 二人に詰め寄られ、鉄次郎は両手を振った。


「いや、すぐ死ぬとかはないから。ちょっと肝臓を壊していて、医者からは長くないと言われているだけで」

「十分問題じゃないですか!」


「いつからこんなことに……そうです、お医者様に診て頂きましょう」

「そうだそうだ!」

「病院には定期的に行ってますし」


 と言いつつ、異世界に来たとなると、かかりつけの病院は作っておいた方がいいかもしれない。もうすぐ妻の元へ旅立つという覚悟は出来ているものの、今すぐ死にたいわけではない。


「ね、行きましょ? 知り合った早々お見送りすることになったら泣いちゃいます」

「ううん……分かった。行きます」

「よし!」


 孫みたいな子から頼まれたら断るなんて無理。鉄次郎の受診が決定した。ソルトもうんうん頷いている。とりあえず丸く収まりそうだ。





「と、いうわけでもないのか」


 異能力が判明し、病院行きも決定したが、受信結果が出るまでは安心出来ないことに気が付いた。しかし、どのような結果になるのかはある程度想像がつく。あとは、以前より悪くなっているかどうかだ。なんとなく腹を擦ってみる。

 教会から城までは近く、あっという間に帰ってきた。


「そういえば、病院はどこにあるのかな?」

「王族付きの医師団がいるの。部屋で診てもらえるよう言っておきますね」

「おお、ありがとう」


 門番に挨拶をしながら王宮に入る。皇帝と皇后が立っていた。ひっくり返るかと思った。


「鉄次郎さん、そろそろ帰宅するかと思い待ってました」

「お出迎え頂き恐縮です。ただいま戻りました」

「おかえりなさい。で、結果を聞いてもいいですか」


 やはり結果が知りたくて待っていたか。公務など放っておいて大丈夫なのだろうか。後ろの方で皇帝に付いていた男性がそわそわしている。多分大丈夫ではない。


「はい。異能力は【吸収】でした」

「やはり異能力を持っていましたか! 素晴らしい! 救世主!」

「おめでとう御座います。鉄次郎さん!」


 皇帝と皇后が手を叩くものだから、釣られて周りの人間たちも拍手をし出した。鉄次郎はぺこぺこ全員に照れながらお辞儀をする。とんだ羞恥プレイだ。


「ん? 待ってください。今、【吸収】とおっしゃいましたね?」

「はい」

「サロ! 図書館に行くぞ」

「承知致しました」


 急にフォルドが真面目な顔をして、後ろの男─サロ─に指示をした。何の事だか分からず付いていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ