ちぃちゃんと可愛くないぬいぐるみ
ちぃちゃんは大好きなパパとママとお兄ちゃんの三人と暮らしている五歳の女の子です。
ちぃちゃんはクリスマスの日に産まれたのでサンタさんからのプレゼントの他に、前日のイブの日にちぃちゃんの誕生日のプレゼントをパパとママが買ってくれます。
商店街で家族皆とおもちゃ屋さんに向かっている最中に、ちぃちゃんはとあるぬいぐるみを見つけました。
そのぬいぐるみは正直言って可愛くありません。
何せぬいぐるみは紫色のウサギのぬいぐるみでしたが、薄汚く他の汚い色の布でツギハギされてるし所々から綿が飛び出てました。目の部分も片目が無く、右手には妙なへこみがあります。
そんな物が露店屋さんで売られていました。
普通ならそんなぬいぐるみを子供は欲しがりませんが、ちぃちゃんはその可愛くないぬいぐるみを一目見てとっても気に入りました。
「私この子が良い!!」
流石にママ達やお兄ちゃんは可愛くないぬいぐるみを買う事に反対しましたが、ぬいぐるみを抱きしめて泣いて駄々をこねるちぃちゃんを見て仕方がなくぬいぐるみを買いました。
露店屋さんの店長は十円でぬいぐるみを売るとそそくさと何処かへ行ってしまいました。
其の侭にするのもあんまりなので、綺麗好きなママが手洗いでぬいぐるみを綺麗にして干し。
手先の器用なパパがちぐはぐな色の布を外してぬいぐるみと同じ色の布で縫い合わせて、目の部分には黒のボタンを付け、破れた所も綺麗に縫い合わせて。
そしてお兄ちゃんはへこんでいたぬいぐるみの右手に以前お土産屋さんで買った剣のキーホルダーを持たせてあげました。
お陰でウサギのぬいぐるみは他のぬいぐるみとは変わらない普通のぬいぐるみとなりました。それでも顔立ちはあまり可愛いと言えませんが。
ちぃちゃんはサンタさんからプレゼントで貰った着せ替え人形のルキちゃんと一緒にぬいぐるみを大切にしました。
するとちぃちゃんの家族に不思議な事が起こりました。
最初はママ。
揚げ物料理の最中にうっかり火を消さずに長電話をしてしまいました。電話を切って直ぐに思い出したママは慌ててキッチンに戻ると、何故か火が消えていて足元にはちぃちゃんが可愛がっていた可愛くないぬいぐるみがぽつんと座っていました。
次はパパが会社にいる時にうっかり階段から足を踏み外して転げ落ちようとした時に、誰かがパパの腕を引っ張ってくれたお陰でパパは階段から転げ落ちませんでした。
偶々後ろにいた同僚によると『一瞬紫色のウサギのぬいぐるみが現れて腕を引っ張って消えた』と証言したのです。
勿論周りは信じませんでしたが、パパだけはちぃちゃんのぬいぐるみを思い浮かべていました。
最後にお兄ちゃんが学校から帰宅する最中に、後ろから蹴り飛ばされて転んでしまいました。
その時にお兄ちゃんが蹴り飛ばされる前にいた所に、居眠り運転の車が突っ込んできたのです。幸い誰も怪我人は出ませんでしたが、もし蹴り飛ばされなかったらお兄ちゃんは車に轢かれる所でした。
そしてお兄ちゃんが蹴られた背中には小さな足跡がくっきりと残っていました。丁度ちぃちゃんのぬいぐるみも此れ位の足の大きさです。
流石に此れは可笑しいと家族がちぃちゃんのぬいぐるみに疑念の眼を向けた時に、今度はちぃちゃんが高熱を出して入院してしまったのです。
家族皆が小さなちぃちゃんが熱で苦しんでいるのを心配して夜も眠れなかったある日、ママは深夜見たのです。
ちぃちゃんの病室であの可愛くないぬいぐるみが、ちぃちゃんの周りに漂っている黒いモヤを相手にお兄ちゃんから貰った剣のキーホルダーで戦っている姿を。
翌朝ちぃちゃんの熱が下がり、医者も驚く程の速さで元気になったのです。
ちぃちゃんが退院すると直ぐに家族はちぃちゃんのぬいぐるみを持って有名なお寺の住職様に今までに起きた事を話し、ちぃちゃんのぬいぐるみを見せました。
住職様は驚いた様に目を見開きました。
「元々このぬいぐるみは誰かを呪う為に産まれた可哀想なぬいぐるみです。今までずっと人の悪意しか接して貰えなかった。
だけど、お宅のお嬢さんが初めて本来のぬいぐるみの用途として可愛がってくれたのです。そしてご家族の皆様がこのぬいぐるみの修繕や贈り物をしてくれた事でこのぬいぐるみは貴方達家族に恩義を感じ、何時の間にか守護霊の様な存在になったのです。……いやはやこの様な事例は初めてです」
「それじゃあ今まで私達が起きた事は……」
「全てこのぬいぐるみが皆様の危機を救ってくれました。お母様が見た黒いモヤはお嬢さんに憑いていた悪い物でしょう。それをこのぬいぐるみがやっつけたお陰でお嬢さんの病気が治ったのです。
どうかこのぬいぐるみを大切にして下さい。そうすればこのぬいぐるみは皆様を守り続けるでしょう」
そうして可愛くないぬいぐるみはちぃちゃんが大人になってママになっても傍にいました。
勿論ちぃちゃん達家族は何時までも元気で平和に暮らしましたとさ。
「因みにウチの子がこのぬいぐるみに一目惚れしたのはこのぬいぐるみの力のせいですか?」
「いやそれはお嬢さんの感性です」