昔、空一面を覆う大きなヒマワリが咲いた
ドスンとヒマワリの種が撃ち出された音が周辺に響いたと同時に、「ギャア!」と人の悲鳴が聞こえて来た。
ヒマワリの大きな種に撃たれたのは何処の家のモンだろうか?
窓から外を見る。
ゴンタのカーとトーがヒマワリの森に駈けて行くのが見え、暫くすると2人が腹と胸の間を断ち割ったヒマワリの大きな種が刺さったままのゴンタの死体を引きずって帰って来た。
ヒマワリの種はおら達の大切な食い物だが、採取するとき油断するとゴンタのように撃ち殺される。
高さが十数メートルから数百メートルあるヒマワリの木でおら達は生活の全てを賄っていた。
ヒマワリの種や花粉は食い物、蜜は飲料水、樹液は燃料、花弁や葉は布地、幹や枝は家を建てる材料、全てが使える。
と言っても、おら達にはヒマワリしか使える物が無いんだが。
おら達が暮らす大地の上の生命はおら達人間とヒマワリだけ、後はちーさなちーさな生き物が土の中で暮しているらしいけど。
長老のババサマの話しでは、ババサマのひいひいひいバアサマのそのまたひいひいひいバアサマが生まれるよりもっともっと昔は、大地は沢山の生命で溢れていたという。
ヒマワリの森より大きな部落が彼方此方にあり、そこではおら達人間が沢山住んでいたらしい。
ババサマに「沢山とはどれくらいの数なんだ?」と聞いたら、「森のヒマワリの木全部合わせたより多い数らしい、オラだって知らねーし数えた事もねーよ、オメーたちに話してる話しは全部伝承で、前のババサマに教えられただけだからな」と言われた。
その伝承だが、昔の昔、大昔、空を覆い尽す程大きなヒマワリの花が咲いた時から世界は一変したらしい。
目が潰れる程光輝くヒマワリが咲き四方八方に汚れた種を飛ばすと大地は燃え上がり、大地から星が瞬く所まで巨大な雲が湧き上がったと言う。
巨大な雲が消えてから大地は飛ばされた汚れた種に汚染され、不毛の地になる。
土の中に逃げ込めたおら達の遥か昔の先祖が土の中から出て来たら、大地に満ちていた沢山の生き物はいなくなり、代わりに巨大なヒマワリの木が大地を覆っていた。
それからはおら達人間はヒマワリの恵みで生きている。
おら達は、おら達が住む大地に沢山の生命が満ちるまでどんなに苦しく辛くても、生き続けて人間の種を残さなければならない。
そう伝承で伝えられている。
それが一緒に土の中に連れて行ってくれと縋ったモンたちの手を振り切り、土の中に逃げ込んだモンの贖罪なんだと。