首都にて一休み
ジシィ・マーダ王国、首都マーダ。
大陸の中ほど、南北及び都市国家群との主要交易路の途中にあるジシィ・マーダ王国の、そのまた中央あたりにある、一大都市である。
ジシィ・マーダは「王国」とはいうが、「議会王制」という、国王と議員制議会が同居する政治形態だそうだ。イギリスみたいな、それの前段階ぐらい?
昔の貴族院みたいなお貴族様専用の議会ではなく、地域ごとに代表者が出て議会を形成している。ただし選挙で選ばれるのではなく、その地域の民間有力者が複数出て議員をやる。複数なのは、常に全員が議会に出られるわけではないので、交代で誰か一人は議会に出るためである。行かないと、地域の予算配分や決定事項でハブられるんだそうだ。その選定は、その地方の候補たる有力者が話し合いで決めるらしい。うーん、これは専制というか民主主義というか……まあ俺に不都合がなければ好きにしてくれ。
貴族という階級も残ってはいるが、今では経済的なステータスのようなもので、「国家に関わる利権を何か持っている」というぐらいの、「特別国家公務員」程度の意味しかない。それぐらいなら、豪商と呼ばれる商人の方が利権以上の儲けを出せるので、この国においてはさして重視もされない。
ただ、外交上の肩書きとして周辺国には効力をそれなりに持つので、外交担当には貴族階級が今でも多い。もちろん、地方の経済的有力者である場合も当然あるので、貴族がかつての領地をそのまま統治しているケースもある。マシナなどは「商業貴族」統治の典型的な町である。ククリグも、有力な商人と開明的な貴族が議員となっている。
国王に一応権限はある程度あるが、多くの国政関連事案は議会が「(ある程度)民主的」に処理して、国王は基本、最終決定・承認するのみである。
ただ、国王には「拒否権」というものがあり、「これはダメだ」という議案に関しては、議会の決議があっても決済せずに廃案にできる――が、今のところ、それを実施した例は過去、数えるほどしかない。現国王マーダ七世になってからは、一度も発動されてはいない。
この拒否権というのは、「国王のセンス」が試される権利でもあるそうだ――過去に発動された例では、「第二街道整備に関する決議」を拒否して廃案とした例があったが、その当時は「財政をより健全にするために、主要街道をもう一つ整備して交通量を増やして(税収を増やして)はどうか」という機運が議会では高まり、法案も賛成多数で決定したが。
これを見た先代マーダ六世は、「街道整備のためにどれだけの投資が必要か考えているか、そしてそれに見合うだけの経済効果があるかどうか」を疑問視したようである。そしてそれを議会へ問いかけたところ、実に曖昧な返答しかなかったため、「それだけの投資が必要なものか、十分に再考せよ」とつき返した、という。
実際のところ、議員の発案者は街道整備に関する利権で大儲けできるから、ということで発案しただけで、国がそれを運用するところまでは考えていなかった。そこをマーダ六世は看破したのである。
……と、先代は経済感覚に優れ、国民生活をそこそこ豊かに維持し、それなりに評価された国王であったが――即位から十年を経たマーダ七世は、未だこれといった評価は聞こえてこない。「凡庸な王」といえばそれまでだが、暗愚でもないということ。良くも悪くもない――国民としては、今はそういう王でもいい時代である。
一国民としては、今は昼行灯でも、ここぞという時にリーダーシップを発揮してくれる「非常時の王」であってくれればいい、と思ったりする。他がとりあえず特に悪政を敷いているわけでもないので、そこが悪化したりしなければ、昼行灯で終わってくれても文句はない。
まあ政治制度なんか知らなくても、俺はお貴族様でも王族でもない一介の冒険者だからどーでもいいっちゃいいんだけど。
「知ってるけど別に言わない」のと「知らない」の間には大きな差があるんですよ……。
閑話休題。
首都マーダの人口は、約七十四万。この世界では「メガロポリス」級の巨大都市である。
ククリグもあの地域では随一の大都市だったが、ここはそのさらに二十倍近い規模がある。
……とはいっても、「東京」という人口三八〇〇万の首都圏を知ってる俺には、「ほーまあまあ栄えた都市だねー」ぐらいのものだが、人口数十人の村で暮らしていた田舎者だったらどう思うだろうか?
行き交う人や車の量は、さすが首都に相応しい。町並みも、田舎では平屋か二階ぐらいだが、三階四階の建物が普通に多くなり、それ以上の高さの「ビル」みたいな建物がそこここにみられる。全体に屋根が高く、市が開かれる広場も圧倒的に広い。中央通りも、田舎ならせいぜい二車線程度が、ここではゆったり八車線分以上の幅がある。それも全て石畳や、砕いた石を敷き詰め押し固めたマカダム舗装で整備されていて、土剥き出しの田舎道とはそれだけでも違う。
王城、そして中央行政府を中心に築かれた三重の壁は、防衛のためというより市民の階層と居住域を区切るためのもので、大して厚くも高くもないが、その出入り口には検問と衛兵が出入りを厳重に行っている。街道は都市の中央、王城や高級住宅街や行政区の横を通り、その通り沿いに交易広場や常設市などの商業地区が設けられている。商業地区にはひっきりなしに荷車が出入りし、売買のための品や人が大量に出入りしている、という。
俺らの隊商も、首都へ入る一般列に並び、一時間ほど待って検閲を受ける。
とはいっても、ギルドに送られてきた国からの「盗賊団対策依頼状」を見せれば、一応形式的に納税窓口へ回されるが、そこはスルーして都市内へ入ることはできた。それなら豪商とかお貴族様窓口へ行ったらよくね?と思うかもしれないが、そっちへ回ると「俺達は特別扱いですよー」とアピールするようなもの。見るからに一般的な商人風を今まで装ってきたわけだし、まだ任務途中でネタバラシはしてはいけない。なので列は一般列に並ぶのだ。
その足で、荷を積んだ馬車は商業地区に預け、手続きのメンバー以外は冒険者ギルド、ジシィ・マーダ本部へと向かう。三重の壁の二つ目を超えて、第二層――上級市民・商業地区へ入り、その一角に冒険者ギルド本部はある。
最初の門を潜った第一層――一般市民・商業区・職能区にも、冒険者ギルド・首都第一層本部がある。しかも三箇所。ここは通常の冒険者が立ち寄る場所で、受付や依頼・斡旋・報告等々、冒険者の日常業務を受け付ける。
第二層にはそれとは別に、国内の冒険者ギルドの事務手続き等々を統括する事務統括本部がある。王族・貴族や豪商の依頼は、だいたいこちらに持ち込まれる。
――ギルドのジシィ・マーダ本部は、ククリグのギルドと比べると、思ったほど大きなものではなかった。それでも五階建ての木と石とレンガと漆喰の、この通りにある建物の中では最大級のものであるが。
だがそれは当たり前で、ククリグは一つの建物になんでもかんでも入っているのであれだけ巨大になったのだが、ここでは魔導士ギルド・商業ギルドは個別に本部を構えているし、宿泊所も別にある。
それでククリグの半分ほどの規模、と考えれば――十分に、首都本部に相応しい施設の規模だといえる。
俺らが馬車を指定の場所へ留めている間に、キャサウェイさん&マシュさんがギルド本部へ報告に行っている。
今日明日はギルドの宿へ泊まり、明後日の昼、再出発。今度は逆順でククリグへ戻る。
商品の仕入れは〈森の疾走者〉がやるので、俺たちは今から明日一杯まで休みだ。
――これで日本人の俺なら、とりあえず一杯飲みに行った後、寝オチするまで夜通しゲームするとかDVD見るとかしてるところだが。
こっちの遊びといえば、酒かお姉ちゃん遊びかギャンブルか……だがギャンブルはどうにも胡散臭いし、荒事になる絵面しか浮かばないのでパス。お姉ちゃん遊びはちょっと惹かれるが、ここでそれ行ってヒンシュク買わない訳がない……ので残念ながら封印。〈森の疾走者〉の中にはお姉ちゃんのお店にいく奴もいるらしい……おのれ! モゲラにもがれてしまうがいい!
これが生産系チート持ちだったら、自分でゲームでも何でも作り出せるところなんだが……俺ってそんな手先器用でもない。トランプみたいなカードだって革製で、それも占い師が使うだけで、一般にはほとんど出回っていない。そもそも地球のああいった「白い丈夫な紙」は貴重品なのでしょうがないのだが……なのでこっちのギャンブルといえば、セラミックや獣の骨で作られたサイコロでやるチンチロリンみたいなものが主流。サイコロも六面だけでなく、八面、十面、時に二十面もあるが、出た目の組み合わせで勝ち負けが決まるのはまあ、チンチロと似たようなものか。
「というわけで、今日はお姉さんの奢りで飲むよー!」
……と、俺ら四人はリリエラさんに強制連行されて、ギルド運営の酒場へGO!です。二階も酒場になっている、結構な広さのワイド酒場。隣には宿も併設されていて、飲んで潰れてもすぐ部屋に放り込める親切設計!
「はいはいはいはいオツカレちゃーん! カンパーイ!」
飲み会大好きなおっさん宴会部長みたいなノリで、リリエラさんは手早く全員分のエール酒とつまみを数点頼み、まだ人の少ない酒場の一角に陣取る。
「えっと……これどういうノリやねん」
ナオが少々困惑しつつも、「まーまーまーまーとにかく一杯いけー」というリリエラさんに押され、エールをぐびりぐびりとイッキにいく。意外にイケるクチらしい。すぐに二杯目がきた。
シェラは静かに飲んで、食べる。あまり強くはないようだが、適度にリリエラさんに合わせ、飲んでいるふりをするのは絶妙に上手い。飲み上手というより、雰囲気を読むのが上手いというか……「その他大勢」に紛れる暗殺者の技術か。こんなところで発揮されるとは……。
ビュスナは……こういうノリに一番弱いというか、馴染めないでいるが、リリエラさんとナオに挟まれてはどうしようもない。飲みなれないエールに顔を真っ赤にして、二人に笑われている。
で、俺は俺で、この身体はそんなに酒にも弱くなさそうなのだが、ノリと振りだけ受けておいて、飲むよりも食うのをメインにしている。ここのつまみはそこそこ旨い……出汁が違うのか? 今度料理するときに参考にしよう。エールは「ヌルくて薄い地ビール」みたいな感じ? 店によっても濃さが違うらしい。田舎の宿だと、これの半分ぐらいの薄さに水増ししたのが当たり前だとか。エールを飲めば町(村)が栄えているかどうかが解るとかで、エールの濃さが町の繁栄に比例するんだそうだ。まあエールなんて水が飲めない地域でも水代わりに飲むようなもんだから、そんなに強くはないもんだけどな。
まあ首都のエールはほどほどに濃く、特にギルド付属の酒場は、エールを薄めてケチるのは体面上よろしくない。そのため、「酔いたい奴はギルドの酒場へ行け」と言われる所以である。
でもやっぱり仕事明けなら、最初の一杯はキンキンに冷えたビールが欲しいっ……殺人的な美味さがっ……!
……と、途中までは良かったのだが。
「……ケーン! あんたにぁーいいたいことがーるー!」
顔を真っ赤にしたビュスナが、エールのジョッキを持ったまま絡んできた。酒くっさ。まだ序盤だってのに、もう呂律がおかしいぞこいつ。超弱ぇなー。
「お前、もうそんなベロンベロンなのかよ……弱いなー」
「あーんた! あんたはねえ、あんたのことはねえ、あらひも認めてんの! わかる!?」
「うんうん解る解る。解ってるよー」
「いーや! あんらはわーってない! わーってないにょよ!」
「あーうんうん、そうねー解ってなかったねー」
「らいたいあんたはねー! あたひがこんなにあんらのほとをねえー……」
だめだこいつ、はやくなんとかしないと……延々絡んで来る。
「はいはいはいまずは一杯行こうねーはーいカンペーカンペー」
「おほーう! カンペーイ!」
俺は自分は飲むふりをして、ビュスナにはさらに飲ませる。
……予想通り、もう一回ナオに煽られて飲んだところで、ビュスナは潰れた。
「よっわいなぁーコイツー!」
早々にテーブルに突っ伏したビュスナを見て、ぎゃはははは、とナオが大笑い。こっちは笑い上戸か……まあそれだけならさしたる害はない。
「ケーンくぅーん、飲んでるぅ~?」
だがこっちは問題だ……リリエラさんが堂々と絡んでくる。顔にはほぼ出てないが、雰囲気が完全に「出来上がっている」。これが酔っ払いオーラか……。
「飲んでます、飲んでますよー。お姉さんは飲んでるのー?」
「飲んでるよぉ~? じゃーもっと飲もー! 飲んだら吐こー!」
いやいや、何言ってんのこの人……酔っ払いはほんと言ってることワケワカンネーな。
つかペースはえーよ。こっちもはよ潰れてくんねーかな。
いやまあ、このオパーイが潰れるぐらいの外圧だけは引き続き……とか考えていたところへ、救世主登場!
「なんだ、もう出来上がっているのか」
リリエラさんの飼い主・マシュさん登場! その他の〈森の疾走者〉メンバーも一仕事終えて集まり始めている。
「あ~来た来た~おそいよぉ~」
リリエラさんはぶんぶん手を振って、持っていたジョッキから盛大にエールをぶち撒ける。やめんか酔っ払い、かけるなかけるな! 俺はぶっかけるのはともかくぶっかけられるのは嫌いだ!
「すまないね、ケン君。これは底抜け酒壷だから、ほっとくといつまでも飲むんだよ」
底抜け酒壷……そんなん相手にしてられませんやん。あとはお任せでー。
「まーまーまーまーとにかく一杯その後二杯、おかわり三杯いきましょー!」
リリエラさんがマシュさん相手にまた飲み始める……アイアンレバーめ、ピッチ速いわ。
そういえばシェラは静かだな……こいつも別の意味で強いっていうか――んんー?
「……クだってすきであんなぶたいにいたかったわけじゃないんだよおやがいなくちゃいきていけないじゃないかだからしょうがなくやってただけなんだころしたくてころしたわけじゃないんだよできることならあんなことやりたくなかったしあんなひとごろしぶたいなんてつぶれちゃえっておもってたのはじじつだけどせっかくつぶれてくれたんだからそこでぬけてなにがわるいっていうかわるくないでしょいきるためにしかたなかったんだからボクわるくないよわるくないよね……」
なにこのここわいー!
……絡んでこないから大丈夫だと思ったら、もしかしたらトラウマ引きずりまくってんの? こないだのアレで変なスイッチ入った?
道理で回りに誰もいねーわけだ……コワいよ!
酒は楽しく飲もうじゃないのよ……いやまあ放置プレイでいいならいいけどさ、最後までこの状態だったら持ち帰るのヤだよ俺。コワいもん。ずっと横でブツブツ言われたら悪夢見るよ。
それでもナオが正気保っててくれれば――と思ったら、あいつはあいつで、笑いながら〈森の疾走者〉のおっちゃん連に酌して回ってる。おっちゃんたちも若いおっぱい女子に酌されて上機嫌だし……あれは放置でいいか。
あ、なんかいきなりおっちゃんの頭ひっぱたいた――でも笑ってやがる。いかん、あれは笑いながら手が出るタイプか。近づいたらいかんな。まあおっちゃんらがいいならいいけど。キレられて押し倒されても知らんぞ。
……なんでうちのメンツはどれもこれも酒癖よろしくないんですかねえ?
酒は楽しく、節度を持って飲みましょうね……。
議会王制とか適当なんで(´・ω・`)




