いけない双子
――シェラ?
間違いない、シェラの気配――近くにはもう一つ、誰かいるが……誰かは不明。
家を挟んで反対側にいるみたいだが……少なくとも、この五日、一緒にいたチームの誰かではない。
誰かこの付近に知り合いでもいたのか?
……まさか、とは思うが。
俺は酒場方向へ堂々と向かい、そちらの気配に紛れて、シェラが見える位置へ、気配を殺しなからさりげなく移動する。
「……か」
話し声が聞こえる――シェラの声?
「……ても、考えを変える気はないんだね」
『くどい。お前こそ戻る気はないというのだな?』
相手の声はくぐもっていて聞こえづらい。だが、「若い声」なのは解った。
『お前が戻らないというなら――敵対する、ということになるぞ』
「ボクはもう抜けるって言ったはずだよ。冒険者として再スタートしたんだ。そっち側には戻らない」
『……残念だ、シェラザッド』
――二人の気配が、突如「どす黒く」変わった。
そして、硬いものが打ち合わされる音、大地を踏みしめ、走る音――戦ってるのか?
音は一瞬で数メートル先に移動し、時に空中からも聞こえる。なんて機動力――気配を追うので精一杯だ。
だがもし、ここでシェラがやられたりしたら――
「……仲間だからな、一応」
言い訳を口にして、俺は〈DBグローブ〉を使う用意をしておく。〈スクリューバレット〉では「完全に殺る気満々」すぎるからだ。
これで「不意打ち」を仕掛ければ、シェラの相手もなんとか捕まえられる――と思ったが。
速い。速すぎる。飛んでる虫を狙っているみたいで、感覚が追いつかない。
多分これじゃあ、見てもその瞬間、目の前から消えてることだろう。
もう気配に向けて、一瞬で撃ち込まないと、当てるに当てられない。
ゴブリンキングのときに片鱗は見たが、シェラの機動力はハンパじゃない。あのときは怪物相手だったからそこまでスピードを上げてはいなかったようだが――今のトップスピードは、明らかにあの時を遥かに上回っている。
しかもその相手もメチャクチャ速い。シェラと同等のスピードでガキンガキンとやり合ってる。なんだこいつら。おいおい、上にも移動してる――って、壁蹴って屋根の上に登ってんぞ。インチキファンタジー忍者か!
これじゃ狙い撃ちどころじゃねえな……気配を追うより、待ち伏せてそこへ叩き込む――しかないか。
どうせ暗がりでほぼ見えないんだし、俺自身の機動力が追いつかんわ。
ならこの直線道路に来たときに、狙い撃つぜ!
気配の動きに合わせて、〈DBグローブ〉を動かし――目標が地上に降りたその時!
「ていっ!」
『ぐふっ――』
当ったりー! 念じるだけで当たるんだから、〈絶対領域〉さんマジ有能!
突然見えない攻撃が来たら、そりゃ当たるよな。
――が、その「敵」から、いきなり「妙な魔力展開」が感じられた。
シェラが距離をとる――魔法、か?
『――仲間か』
その言葉で、シェラも俺の存在に気付いたようだ。
『今のは、貴様か』
あ、やべっ、こっちに殺気が向いた!
いかん、魔法が来る――ってさせるか、くらっとけ!
〈DBグローブ〉がヒットしたのが判る――が。
『――何をした』
「魔法の気配」をこちらに向けたが、何もこちらには向かってこなかった――防御体勢で、一応警戒はしているらしい。
「――さぁてね、何かな」
「ケン?」
声でシェラが気付く。
「退がれ! こいつの魔法ごとぶっ飛ばす!」
俺が〈スクリューバレット〉を撃とうとすると――「敵」は一気に距離をとった。
『……おまえの仲間か――覚えておく。次は貴様も殺す』
「できるもんなら」
俺は消える気配に向けて、〈スクリューバレット〉レベル2を一発、威嚇で撃ち込む。
「やってみろよ!」
〈スクリューバレット〉は、建物の壁を貫通しただけで、命中はしない。まあ気配が消えかかっているところに適当に撃ち込んだわけだから、当たるとは思っていない。
だが、下手に近づけば得体の知れない攻撃で逆襲される、と思わせておけば、そうそう迂闊には襲ってはこないだろう。
――暗がりから、シェラの姿が近づいてくる。
「……助かったよ。正直、危なかった」
おいおい、おまえにそこまで言わせるとか、誰だよあいつ。
「誰だ、今の」
一応聞いておく。俺まで「殺すリスト」に入ったみたいだから、どんな奴か知らないままにはしておけない。
「……ちょっと、込み入った話になるよ」
「構わん。俺も狙われるかもしれないんだ、敵を知っておかなきゃやべーだろ」
俺たちは宿へ戻り、そこで改めてこの一件について問い質す。まずは二人だけでな。
「……あれは、ボクの双子の弟、ミューラザッドだよ」
「弟?」
なんでまた弟とマジ殺仕合してんだ……。
「……ボクらはね、ここより南東、ヴァーサール新王国の田舎出身でね」
――要約すると。
二人はヴァーサール新王国の国家盗賊団――「略奪軍」の一員だったそうな。
ヴァーサール新王国ってのは、ジシィ・マーダから西から南に広がる都市国家群地域の東側にある王国で、ちょいと前に政変で国王が変わり、やること為すことが「海賊じみている」ことから、「海賊王国」なんて呼ばれている。特に南方沖海域のマージュ王国っていう島国と領海で揉めて、そこで海賊みたいなイヤガラセをやってきたことからそう呼ばれるようになったそうだ。
とはいっても、基本ヴァーサールは「傭兵王国」で、様々な傭兵を派遣して食っている国だという。土地が貧しい上に資源もないので、そうするしかなかったんだそうだ。特に北に接するデジコマンズ帝国には万単位の兵をレンタルしているらしい。そのほか、西側の都市国家群にも派遣していて、都市周辺の怪物対策にも役立っているそうである。
そういう性格上「軍事国家」でもあるわけで、裏では色々あれやこれややらかしていると。
で、シェラの所属していた「略奪軍」というのは、正規軍の「裏任務」をこなすのが仕事。まあ言ってしまえば「スパイ」であり「海賊」である。
元々は、南のマージュ王国との紛争が始まった頃に創られた海軍の一部隊だったが、紛争が一段落した時期にそれを王国直轄部隊へと再編したため、陸上でも「盗賊団」みたいなことをやるようになったという。
特にシェラとミューラザッドは、親を早々に亡くした孤児で、軍が拾い上げて略奪軍内で「スパイ」として育成してきた。ヴァーサールでは特に珍しくもない境遇のようだ。
あの技量は、幼少期から軍によって鍛え上げられた結果なわけか……。
――が、あるとき、二人のいた部隊が潜入任務に失敗し、部隊は壊滅。生き残りも散り散りになった。元々、盗賊団みたいな連中を国が召し抱えて正規軍に組み込んだものなので、国としては壊滅しようが知ったことではない、という「使い捨ての鉄砲玉」みたいな扱いだったそうだが……。
それを機に、シェラは軍を抜け、西方へ逃げた。以前から軍の方針に疑問は持っていたらしい――対外的なスパイに仕立て上げようとして、色々外の世界のことを教えたのが、シェラには幸いしたらしい。国も使い捨てが一人二人逃げたところで興味はないようで、追っ手も来なかった。
……だが、一方で弟ミューラザッドは軍に戻り、任務をこなしながらシェラのことを探してはいたらしい。
「……で、ミューラは周辺国調査任務であの盗賊団に潜伏してたところ、ボクを見つけた」
「それでさっきの襲撃か……」
途中でこっちに向けられた殺気は、やっぱりこいつに向けたやつか……イヤな予想ばっかり当たりよる。
「クルシャクペルカには戻らない、って言ったらね。だったら死ね、って」
「……クルシャ、ナントカってなんだ?」
「クルシャクペルカ。ヴァーサール略奪軍の、暗殺部隊。元々、暗殺任務もやってた盗賊団だからね」
うへぇ……暗殺者ギルド敵に回したようなもんじゃねーか!
厄介にも程があるわ……盗賊だと思っていたらどうみてもガチ暗殺者ですほんとうにありがたくありません。
奴ら、人間爆殺するような暗殺拳とか伝承してねえだろうな? いや、名前からしたら俺がそういうの持ってないとアカン……あるか。一発で爆殺する技。経絡秘孔とか関係ないけど。あいつがヒャッハー!してきたらボーンしたろ!
「……ケンには悪いけど、今後あいつには狙われるよ。すぐには襲ってはこないだろうけどね」
聞けば、ミューラザッドが属している盗賊団は、ヴァーサールと何らかの関係があるだろう、とのこと。
ヴァーサール略奪軍は周囲の国の状況を調べるついでに、盗賊になりすまして略奪に及ぶこともあるというが、クルシャクペルカは基本、暗殺集団としての性格が強い。単独、もしくは二人での行動がほとんどで、暗殺対象は基本、それなりの地位や権力のある者。個人的な理由で動いたりはしないし、許可もしない。
――なので今回の遭遇も、「他の任務中にたまたま遭遇」である可能性が強い。理由あって盗賊団に潜伏しているらしいので、盗賊団自体はクルシャクペルカそのものではないらしい。だが盗賊団自体がヴァーサールに雇われて活動している可能性もあり、その場合はミューラザッドは全くの別任務で盗賊団に加わっているだけになる。
だが、存在を知られてしまった以上、任務の合間合間に手を出してくる可能性はある、とのこと。
……もうほんと勘弁して!
シェラちんの素性は判ったし、技量のほども、狙われてるのも判った。
だけど俺まで巻き込まないで!
……はい解ってますよ、自分から巻き込まれに行きましたー! ほっといたらヤバかったしー!
でもこんなんやって思わんやないですかー!
「……で、今度はボクの質問に答えてもらっていいかな」
……デスヨネー。そう来ますよねー。
『※ミッション:シェラの正体を探れ!を完了しました』
『※ミッション:盗賊団偵察を継続します』




