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アオジシ  作者: 猫文字隼人
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終話


 以上が、僕があの夏経験した話だ。


 口伝とはいえそのような恐ろしい伝承が残っていることから、近しい事は起こったというのは恐らく間違いはないだろう。


 もっとも今の僕にとっては調べる余裕も時間も存在しないのだから、最早どうでも良いのだけれど。



 重要なのは……連続幼女殺人事件の犯人が、この時の毛むくじゃらのおじさんだったという事。


 毛むくじゃらのおじさん、いや小丸容疑者。


 彼が行った犯罪行為は田平の行ったとされる行為と酷似しすぎているのだ。


 幼女を攫い、解体し、その脳を食べていた形跡が見つかったという。


 部屋の中からは少なくとも4人以上の遺体の痕跡が見つかっているとも報道されている。



 あの夏の翌年、祖父が亡くなった為瘤木村に再訪する事になり、僕が目にしたのは枝が綺麗に治った例の奇妙な大木だった。


 僕があの日、おじさんたちに切られる前に見たままの形に、折れた箇所から緑の若木が生えていた。


 そんなことがあり得るだろうか。



 田平の首塚を飲み込んだ木の枝を切り落とした小丸は田平のように狂い、幼女を攫っては脳を啜っていた。



 この村に伝わるアオジシにまつわる逸話を祖父と松村さんはただの昔話だと言っていた。


 だが僕はこの話が正しい物であると半ば確信もしていた。


 瘤木村に伝わっていた話には現代の情報と照らし合わせてもつじつまの合う部分があるのだ。



 クールー病。


 異常プリオンにより伝染する不治の病。

 主に生物の共食いに起因する病気だ。

 パプアニューギニアで発見されたこの病気は、埋葬した死体を食べる事で感染するのだと知られている。


 さらに、近い病に狂牛病がある。

 家畜の早期育成のため、肉骨粉と呼ばれる牛由来の餌を与える事で強制的に共食いを行わせたことで広まったクロイツフェルト・ヤコブ病の事だ。



 ウイルスや細菌ではなく、共食いすることで異常なたんぱく質により生物が狂うのだ。


 クールー病の場合、人の肉体、とりわけ脳を喰らう事で発症し、治療法はない。


 感染する事で震えを来たし、徐々に狂い、最終的には必ず死ぬ。



 このクールー病の代表的な症状は言い伝えられた田平の症状そのままではないか。


 そんな知識の無かったはずの時代から口伝で伝えられた話だ。

 ならば、田平が人の脳を好んで食べていたという事の裏付けになるのではないだろうか。



 田平がバラバラにされ、封印されたとされる石標を飲み込んだ大木。


 その枝を四人組のおじさんたちはのこぎりで切ってしまった。 



 その行為によりあのおじさんが、小丸容疑者が田平の呪いにあてられたのだとしたら。


 寄生虫レウコクロリディウムに操られ自殺するカタツムリのように、呪いによって自らの意志を乗っ取られてしまったのだとしたら。




 だったら。



 だったら、あの時バス停で、田平の身体の一部を封印したであろう石標そのものを蹴り倒した僕には一体何が起こるのだ。



 バス停で降りた時、何かに足をぶつけた。祖父と松村さんに話を聞いた後、僕は気になってバス停に戻った。


 草むらの中で目にしたのは、ぼきりと折れて転がる細長い石標だった。




「いったい、ぼくはどうしちゃったっていうんだよう」



――ぐいでぇ。ぐいでぇ。



 いくら耳をふさいでも、ずっと声が僕の内側から響き続けている。

 


 僕は薄暗い部屋の中でどうしようもなく、すすり泣いていた。


 そして部屋には僕のものとは別にもう一つのすすり泣きが存在している。


 部屋の真ん中に転がされた、縛り上げられた少女を見て、僕はただ震えていた。





 しばらくして、僕は側に在ったノミとハンマーを手に取った。




おしまいです。

読了有り難う御座いました。

これを書いた時募集していたコンテストのテーマが「駅」だったので鉄道おじさんを出しましたが特に他意はございません。



相互ポイント等をしていないので長い期間0点の状態だったのですがブックマークやポイントを入れてくださる方のお陰でちょこちょこ見ていただけているようで感謝しております。

ありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
[良い点] おじいさんたちの方言が、とても良い味を出していました。 物語にググっと引き込まれました!
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