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「きりーつ。気をつけりぇい。」

 “礼”を咬んだ号令の元、都内のとある警察署に対策本部が設置されている。その部屋の中には捜査官が百人を超える数であり、警察の“警備”と“対策”の規模が半端ではないことが容易に想像出来た。顔の面子には警察の様々な部署が揃っていた。警備を担当する警備部。テロ対策として公安部。そして応援要員の刑事部と所轄の刑事達等。警視庁の誇る戦力が結集している。

 前正面に座る対策本部長の横には、超対課長の折原警視の姿もあった。その顔は真剣な面々が大集合している中、一際目立つ険しい表情をしていた。

 その顔を見て、二列目に座る直属の部下である土屋は先輩中年刑事に耳打ちをする。

「(警視は今まで以上に怖い顔していません?“弾錠” の異名を彷彿させて格好いいですけど。)」

「(だまれ土屋。会議中だぞ。確か、今日はみ…息子の入学式で滅多に取れない有休取れて行ける。やっほーぃ。と俺にメールを送ってきたのもつかの間。緊急招集だからな。)」

 くそっ。何で俺には来ないんだ…。と悔しがる土屋の姿を横目に、探田警部は正面目の前のホワイト電子ボードを凝視する。無論、自分の手元にあるタブレットにも同じ表示が送られてくるが、折原さんの姿を確認しておきたいと思ったからだ。


「さて、今週末に南神ホテルでとり行われる世界規模の各界の著名人が多数招待されている森ノ宮財閥主催の夕食会の警備計画ですが、皆が気づいているように、本日付で“弾錠”こと折原警視以下の超対課の二班が急遽合流することになりました。」

 辺りがどよめいた。超対課かよ…。まじかよ…。最悪だ…。腹減った…。など口々に捜査官の固まりから出てくる。

 警視庁超能力対策課(超対課)とは一班を三人とする合計十五班の超能力者専門の部署である。外殻超能力者による事件関与の可能性があった場合、それぞれの事件の技能に適した一班を派遣することになる。

まだ、ペブロも含めてそうした力の解明は満足に進んでおらず、中途半端な知識で超能力者に立ち向かおうとしても、常識では考えられない方向からの襲撃がたびたび起こるので、特別訓練された頭と力を派遣して数多くの事件を解決しようというものだ。

 開設当初、世間では凄腕の機関と賞されるが、他の部署からの印象は決してよく無かった。ただペブロ中毒の超能力者が事件に関わっているだけで、自分たちの操作に首を突っ込み、やりたい放題かき乱すというめんどくさい集団と比喩されることが多かった。ある特定の国家機密をも所持しているらしいという噂もそれを助長した。

 しかし、それらを率いる頭(折原)の人望とそれぞれの捜査に取り組む態度の評価がプラスに動いて、警察組織における安定した現在の形となった。これは他国から日本における評価が『とても青臭い国』といわれる所以の一つでもあるが。

 このように部署そのものはそんなに嫌われていない。理由は他にある。


 今回は異例で二班が出動することになった。一つは潜入、尾行、変装等の隠密行動を得意とする第九班と折原警視が班長を兼任する第零班(探田と土屋もここ)だ。

 超対課から二班以上も派遣すると言うのは『炎人』と呼ばれるメダリア止級超能力者件以来約一年半ぶりで、そんな時は毎回のように日本中を震撼させる全国報道誌が一面を飾るような事件であった。そう『超対課』とは常に疫病神が舞い降りていることを示唆している。

 彼らのどよめきの原因はそれだけでない。そんな空気を断ち切ったのは、対策本部長の一喝だった。

「ICPO(国際刑事警察機構)から、国際指名手配犯。 通称“”が入国したらしいという情報提供を受け、時期の近いこのイベントに公安部も交えた警備計画練ってきたのは諸君らも十分承知の上だと思う。」

 捜査員誰もが頷く。表向きの発表は避けているが、対策本部設立当初からの捜査官全員の周知の事実であった。もちろん箝口令は敷いてある。

 この夕食会を警備するに当たっての警備するに当たって一番の懸念は、スナイパーからの狙撃による要人暗殺だ。

 国籍・性別・年齢不明で、銃の性能を遥かに超えた絶対射撃不可能域から容易にアリでも打ち抜くという超人並みと噂される“黄色い驚嘆 ”。狙い撃ちに銃を選ばない技能により、射撃予測地点のどこにも硝煙反応が残っておらず、仮に弾丸の斜線上で発見しても暗殺地点からでは、証拠の弾丸から推測する銃では物理的に到底無理のある距離であった。

世界各国の諜報機関や国際シンジケートの情報網を用いても明確な正体が掴めず、また各暗殺の雇い主や依頼方法をも不明で、“黄色い驚嘆 ”と呼ばれる人物の接触もままならない。

 犠牲者は推定二百人以上。そんな国際S級犯罪者の標的に狙われると誰もが固い確信を持って言い切れる状況であった。そのために、ホテルの窓を優れた防弾性のあるガラスに換えるなどの改装工事。ホテルから半径二百メートル規模の警備。屋上にはSATのスナイパーを配備するなど、とにかく考えられる対策を行い、三日後に向けて万全の準備であった。

今日の朝までは。


「今日の朝七時十分に警視庁と各報道機関宛てに一通の電子メールが届いた。」

 部屋の中のありとあらゆる画面の表示が一斉に変わった。内容は横書き数行しかない文章。その右上にはデカデカと滑らかに『X』状に艶やかに踊る踊っているようなデザインのエンブレム。そして、終わりの結びには元凶の名前が流れるようサインされていた。

「尚、このメールは海外のサーバーを何重にも経由しているため、逆探知が困難というサイバー対策室のお墨付きだ。」

 本部長はその画面をみて苦笑程度の顔の変化で済ませる。

『三日後の十日夜の月。南神ホテルで執り行われる森ノ宮財閥主催の夕食会にて、森ノ宮財閥会長の指輪を頂戴致します。』

 そんな内容の文章だった。王道的な盗難予告状だ。これなら、どこかの悪戯者か愉快犯の仕業であろう。普通は無視するレベルだ。実際そうなのだが、無視は出来ない。

 十五年前、目の前に七千人の警官がいても捕まえることが出来なかった、十回も同じような手紙を送っていた男からのメッセージだ。

「怪盗×……。」

 黙読していた土屋の口からポツリと一言差し出し名の名前が出た。辺りは、警察がかなりしてやられた、かつての完敗の相手を飲まされた相手からの名前に一同が凍りつく。

 そんな中、空本警視対策本部長の骨に震えるスピーチが続く。

「こういう、過去の愉快犯による愚行の繰り返しを許してはいけない。災いを呼ぶナマズを生け捕りにするのは君たち警察の仕事であり使命だ。どんな不測の事態が起きても対応出来るよう諸君の働きぶりの健闘を祈る。このコソ泥に終わりを見せてやれ!」

 最後の一言はマイクが音割れするような大きなものだった。

そんな中ただ一人。ずっと腕を組み続けてタブレットの画面を凝視していた折原警視はかつての好敵手の姿にふと不敵な笑みを浮かばせた。

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