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ふぅ―。
少しは期待していた『奇想天外』の単語だけは合い、『不幸の連続』に萎え始めていたが、時間が経過するにつれ、徐々に冷静さを取り戻していった。席の近い同じクラスの新しい制服に身に着けた同じ奴と少し挨拶を交わす程度のことを始めることは出来た。
外には一際大きい、学校一大きな桜が広がる教室の中で、登の内心では今まで住んでいた広島から、はるばる遠くの此処へ来て、知らない他の同級生と仲良くできるかなとひやひやしていたが、ぎこちないもののゆっくりコミニュケーションを取れたと思う。
元々あまり訛りの少ない登の言動に、中学まで広島で住んでいたことを驚かれたりと、相手同士を観察しつつ、入学式の時間になった。
在校生の引率係の元に二列で並びながら入学式に入る形式となり、ぞろぞろと大人数が階段を降りる他のクラス全体の姿と今までの自分の様子を見比べると、やはり、都会は違うな~と田舎者特有の感想を登は持った。
「あっ。」
そんなつくづくと物思いにふけっていると、ふと気づいた。
(校章がない……。)
今さっき体全身が濡れた制服を椅子に掛けているときに、錆びないかと心配して外して机の上に置きっぱなしにしておいたのだった。
まだ教室はあまり離れていなかったし、移動もまだ進みそうにもなかったので、今さっき話していた奴に軽く声を掛けておき、単身小走りで戻った。
「ああ。これだ。」
今さっきまで高校デビューと言うことで、テンションが誰かしらもかなり上がっていた教室が信じれないほど静かにしている。そんなギャップが大きく、誰もいない学校は不気味さを増すのは成長しても一定の感覚が支配する。
そんな不安を流し、桜を透けて光が教室へ入ってくるのに反射していた校章を摘み、制服の襟に取り付け急いで戻ろうとした矢先にもう一つの事実に気づいた。
「なんだ?この箱。」
自分の他の机全部に一つずつ、正方形の白い箱がポツンと置かれていた。
何だろうか。生徒が入学式に出席中の誰もいない教室に教材を在校生の係が一席一つずつ置いて、後の準備に一教室ずつ置き回ったのだろうか。
隣に置かれた白い箱を一つ片手で掴み、振ったりした感覚では書籍ではない異様な軽さの中身が複数個あると。直感として感じ取れた。
まさかの高校にもなって算数セット!?……いやいや、そんなことは無いだろう。入学案内に書かれていた教材リストにそんなめぼしいものは入っていなかった筈だし、そもそも戻って教室に入ったときに机にこんな大きな箱を置いていたら一番に気づくさ。
そもそも教材配布なら、俺の分が無い……。
登が振り返った時、今さっきまで無かったはずの自分の席に全く同じ形の箱が置かれていた。
「へ? 」
登は不意に素っ頓狂な声を漏らす。一瞬目線を外した背後で、数秒前とは違う変化がこの場所に突然現れたのだから、驚きは隠せない。
少し沈黙を継続していると、蓋のところに何か書いてあるのに気づいた。おそるおそるゆっくり顔を近づけ、覗き込んでみる。
『このメッセージを読み終わる頃には、机の箱が爆発します。怪盗――。』
思わず、音読しながら読み進める。へー。ふーん。と内心理解しながら怪盗まで読み進めた。
「て、はっ!! 」
二言の奇声を発し、違和感に気づいた時と同時に、バババと同時に箱が吹っ飛び、教室内と登の姿は充満するピンクの煙に覆い尽くされていた。
「よし。成功だ!! 」
目の前で教室がピンクの煙で充満していくのを確認しつつ、桜の枝に腰かけた悪戯者は双眼鏡を離し、作戦(悪戯)の成功に歓喜に満ちていた。
中学三年間を勉強や鍛錬を毎日続けてきて良かった(もちろん頭はイタズラについて)。高校入試は小論文を書くのがめんどうくさかったが、みんなより一か月分先駆けて推薦入試に合格し、その分時間が確保出来た。
今回の相手はかなり手強そう。だから今日のために落とし穴を極秘の内に掘ったり、目標対象のロッカーを調べ上げ放水装置を取り付けたり、踊り場にセンサーつきのビー玉射出装置を付け、最後の切り札で目の前のトラップ満載の教室に誘い込む用意までしていた。
一つでも目標が罠にはまればいいなぁ感じで設置していたが、いとも簡単に連続して引っかかってくれるとは思いもしなかった。さすが、人生の中で記憶によく残るらしい高校生活開始一時間から出だしが良いな。
木の上の人物は懐に手を入れ、春の陽光で照らす銀色の懐中時計取り出した。時刻は午前八時四十五分を指している。後十五分で入学式が始まってしまう。
遅れて一同の注目を浴びているときに、『新入生代表 挨拶』をしなくてはいけないのはかなり間が悪い。
急いでこの場から立ち去ろうと、教室から目をそらし枝の直下に茂る芝生の様子を伺い落下地点の様子を見た。
その刹那、額に大きな衝撃が走り、体の重心がずれることを悟る。
「しゃっ!!ストラ~イク!!」
つい子供のようにはしゃいで強く拳を握り、右腕でガッツポーズを小さく取った。
玄関から投げつけたビー玉が、木の上の傍観者のデコに当たったのを確認した瞬間、今さっきまでいらついていた俺の心がスッキリ軽くなった。
途中から、誰かがトラップを意図的に仕込んでいると淡く思っていた。いや、二回目からは絶対に確信を持った。トラップに怯えるより、入学当日からネガティブ要素を抹消したいばかりに、ずるずる天然、バカ正直にポジティブ思考を優先するような振る舞いをしたのがいけなかった。
けれども、最後の箱爆発、煙充満の時にはさすがにカチンと来た。ピンクの煙で視界が遮られていく寸前、ふと窓の外に視線を移すと、木の枝に腰掛けてこちらの様子を見て笑っている傍観者の顔を見たからだ。
そこから、今ならイノシシを素手で倒せるという変な中二テンションまで血が昇っていたものだ。ビー玉を当てたぐらいでは、これまでの続いてきたことに対する報復はこれで済ませれない。
そのまま釜ゆでにしてやろうかという訳の分からんことを脳内で流しながら、傍観者の座っている木まで近づきつつ見上げる。
すると近くに行くにつれ、枝や桜の花の間から人影があまりにも大きく揺れていることを確認した。少し違和感を感じる光景に引っかかる。
「あっ。」
と口を出したときには既に答えが出て、腰がそのまま滑り落ち、三メートルぐらいの高さの枝からドサッと鈍く無造作に落ちた。
その様子をうすうす把握していった自分は、顔が青ざめ、全身の血の気が引いていくのを感じつつ、その木の根元に急いで駆け寄った。
「気絶しているだけだよな……。」
そろりそろりと浮き足立って桜の木の根元まで近づき、顔を覗き込んで目の前で枝から落ちていったモノを確認した。それを見ている登の目は小刻みに震え続け、それに上手く焦点が合わ無いほど動揺していた。
その目の前の影は太陽から桜で隠れた、柔らかい芝生に長い髪を広げ、細身の少女は横たわっていた。あまり着込まれていないブレザーとスカートが、自分たちと同じ新入生の証である千武高校新女子制服を身に着けていると証明している。
しかし、着地にどこも支えをつかなかったのだろう。服や容姿が少し乱れ気味である。頭のオレンジのリボンが外れた艶やかな黒髪が放たれ、全身の四肢が力なくあちこちに青々とする芝生に埋めて、スカートを含めた衣服が枝に引っかかったのかためか、下に来ている白い下着が少し露わになる程はだけていた。
「く……。」
登は喉を鳴らす。目の焦点が合ってきた途端、目の前の刺激的な視覚情報に一瞬、目をそらした。滅多に無いような、そして唐突すぎる場面変化に思考回路は追いついていない。
少しずつ、ゆっくりとだが目線を眼下の少女に戻していく。自分の鼓動が早い。いつもなら数秒の動作が鉛の重りがあるような、とても息苦しいモノに感じた。今、顔を鏡で見たら、とても情けないような自分のニヤついた顔が拝めるだろう。そんなことも思いつつ。
目の前の眠っている少女をもう一度見た。今さっき一瞬見えた情報通り、スカートが全部ひっくり返り、その下の丸みを守る布が自分と対峙していた。
自分はそれに目が離せなかった。
「……スパッツ……か。」
(何を確認しているんだ。俺は。他の人に見られたら痴漢騒ぎじゃないぞ!!いや、本当にいつも女子は下にスパッツを履いていて、スカートの中身を妄想する気が失せるというか……いや本当に残念……たく、俺のバカ野郎……。)
そんな煩悩まみれの葛藤に目をつむりつつ続け、ふと緩んだまぶたの隙間から見た顔に動かせずにいる。
やわらかそうな四肢や服が乱れて下着が露わになって、控えめな膨らみのある胸やくびれとか、芝生に横たわる女の子の身体に目が先に反応してしまったが、上のと花弁との間からこぼれる陽気な光が照らす。その姿に妙に美しいと思える髪で隠された顔に息を飲んだ。
その美少女の寝顔は、まさにこの春の陽気を凝縮したような、暖かい天使の微笑みのように見えた。少なくとも、かなり叩きのめされ、怒りの矛先の枝の上の相手のイメージとは拍子抜けした顔で、とても似つかわない。登はそう思える。
(高校生活。初日から不運続きの真っ黒谷底迷走コースだと思ったが、まさかのここに来ての天界からの落とし物!!この寒く凍えきったはかなり眩しい……。ああ、このままこの顔を見続けたら良いなぁ……。)
「という訳にはいかないだろォォォォォォォ。」
登は現実に戻ってきた。そして改めて復唱する。一つは目の前にいる幼気な眠り美少女は自分の投げたビー玉の被害者だということ。もう一つは現在進行形で自分が加害者ということ。
「ん……。」
少女は覚醒した。まだ視界は眩しい光は差し込んでいるが、白くぼやけていてよく見えない。額も腫れているのかヒリヒリ痛い。ただ、男のうるさい声は聞こえてくる。うわ~しまった。や、頭丸めるか…。とか、起きてくれよ~。など、情けないモノだ。
答えはすぐ分かった。私の過大評価を裏切り、予想以上の鈍臭さを露出した奴だ。仕掛けた罠に引っかかっても、ただへらへらと笑って前の方ばかり見ているし、最後にこちらが上手く隠れていた桜に向かって迷わず何か(ビー玉)を投げつけてきた。で後悔をしていると。
軽い脳震とうぐらいで大げさな……。と少女は冷静に判断する。ぼんやりと目の前で頭抱えている声の主の像が見えてきた。その滑稽な姿に思わず鼻で笑う。こんなモノを求めていたんじゃない……。そういう失望となぜあそこまで過剰反応するのかという理由の発見と共に。
(あっ。目を覚ました。)
少女が軽い被害で済んだことに自分が安堵する暇もなく、黙って左手をこちらに差し伸ばしてきた。
左利きなのか?という素朴な発見を丸め込み、自分の左手で女の子の左手を掴む。とても小さくて、とても滑らかな―。接する面から全身に温かいモノが循環してくるように感じる。
「よいしょ。」
少女が上半身を起こせるよう強く引っ張る。そこで事件が起こった。ブチッという音と共に急に左手の感覚が軽くなった。
「?」
少し体勢を崩したので、二、三歩後ずさりをする。おそるおそる左手に掴んでいる軽いモノを持ち上げる。
自分の左手に掴んでいるのは女の子の左手……今もしっかり握っている。だが、視線を先の方へ移動させていくと、そこから先は皮膚がない……丁度肘より先の部分しかないものを自分はがっちり握手していた。
「あ…ああ…。」
驚きのあまり、顎が外れたとはこういうことなのだろうか。上手く呂律が回らず、今さっきの顔面蒼白になった時以上に身体全体に色が無くなっていくことを感じた。
「何、人が気絶しているときにどこジロジロ見ているんだぁぁぁ!ドM野郎!!」
隻腕の赤面少女は登の溝撃ちに向かって鉄拳制裁を炸裂させた。




