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ああ。やっと高校生か!!
校門から校舎へ続く、晴れやかな桜の道を前に自分一人はそこそこの期待を持ち、その様子を見ながら立っていた。
『千葉県立 千武高等学校』と校門にまだ日が経っていないピカピカの看板が着けられているのが眩しい。 場所は、千葉県と東京都の県境にあるニュータウン郊外に位置し、県立高校としては異様な広大な敷地を持っている。
今年度から、同所にあった私立学校の施設を県へ無償譲渡され私立学校から引き続きの在校生と自分と同じく、千武高校生として入学してきた新一年生で構成される。
横には同じように新しい制服を着ている新入生が通り過ぎ、校門ではワッペンを着けた私立学校時代の制服を着る在学生の先輩達が自分たちに挨拶をかけ、入学式の会場である体育館に父兄の案内をしていた。
母さんは、「今日は珍しく休みなんだ!我が息子の晴れ姿を見ないとどうする!呼び出し食らっても、東京が壊滅しそうな時以外出ない。」とまで言い切っていた。
いい気なものだ。「約束を破った×」を名目に三月の末の件から昨日まで、ゴミだめみたいな家の掃除を徹底的にさせていたくせに。しかし、こっちが靴を履いて出て行くときには、『関東平野に被害が及ぶ』案件が入ってきたらしく、一瞬にしてスーツ姿の刑事に変わった。警視の肩書きと責任感がしっかり備わっているのだろう。
とは言っても、高校生の入学式にわざわざ親が行くものでもなかろう。今まで、親と一緒に住むことはシングルマザーである親の仕事上、成長に悪いと判断した母さんと広島の父方の祖母によってのんびりした瀬戸内海の島に住んでいた。高校生でわざわざこちらに引っ越してきたのも、都会を知らない田舎者が街に憧れ、将来働くことになるかもしれないところの空気に慣れておきたいという自立という自分の我が儘によるものが大きい。
自分の父である旦那を十五年前の『光(第二次アトー防衛戦とも言う。)』の戦火の中亡くし、戦後身籠もっておいた自分を生んだ後、警察の中でもかなり特殊な部署にいたこともあり、戦後の後始末の激務に追われる中、なくなく祖母へ育児を預け続けてきて、母親らしいことが出来なかったことを昨日仕事から帰ってきた夕飯に謝られた。
もちろん自分は母さんを責めなかったし、そんな謝罪の念があることは祖母を通じて知っていた。他にも、家から離れていて寂しい思いをさせないよう、幼少の自分へ仕事の合間にテレビ電話をかけてくれたし、学校や身の回りで起きたり、良かったりすることを言うとそのたびに褒めてくれた。
今まで、何も母親らしいことをしていないことはない。むしろ警察で人の上に立ち、ここ十年の難事件を解決している活躍や、遠く離れていても自分のことを見守ってくれる母さんを尊敬している。
「お前ってマザコンだよな~。」
と誰かに離したら、そう言われて笑われるかもしれない。まぁしょうがない。
そんなわかりきったことより、今まで無かったモノが発見できそうな奇想天外な生活が待っているよな~。楽しみだ。と、ポジティブ思考でスタートさせようと決意し、少し人の混みが緩和されたなと判断し、一人桜木の道に一歩踏み出した。
そして、予告なく登は奈落の底へ突き落とされた。
「それは、そうだよな……。高校生活が全て、花道なわけがない。日常でも。初日でも。」
今更ながら、現実の暗部の難しさを登は知る。玄関でクラス分けを確認し教室に到着した登は、高校生活開始一時間で正直数行前とは転落し、暗然な思いに支配されつつあった。
校門をくぐった後、田舎者全開のスキップを軽くしつつ、道端に落ちていたモノを気づかず踏みつけたのが悪かった。
ピピピという作動音がした後、立つ自分の周りに黒い円が出現したと思ったら、視界がぐらりと傾き、手、足先を動かす抵抗する間もなく、全身に強く鈍い衝撃が走った。
背中から広がる鈍痛に耐えながら、眼前に広がる丸に区切られた桜の木を見る。そこからゆっくり目を動かし、周りをゆっくり観察する。
この見事さからたぶん結構な手間を施しているのだろう。自分が入っても余裕のある深さ二メートル落とし穴にまんまとはまっていた。アスファルト地で隠していた作動装置もどこかで聞いたことのあるトラップ装置であろう。
それらを確認した後、二メートルの深さをよじ登るには、そこそこの難易度があった。
体育館シューズと上履きぐらいしか入っていない軽い鞄を投げて、脆い土に足をとられつつ上って行った。
――ふふ……。初日早々から、こんなありえないアクシデントがあるとは……。逆に貴重だな。これからの高校生活は面白くなりそうだな。――
とか思っていると、真っ直ぐ飛んできた野球ボールがこめかみに強打し、
――ほぉー、いて…。あれだ。野球部のグランド側とここの通路には、建物三階ぐらいの防護フェンスがあるのに、どこかに存在する隙間を抜けて飛んでくるのだから、これも運が良いのだろう。……というか、今日部活動をしているのか?――
とふと思って、左手にあるグランドの方に額を手で覆いながら注目すると、どこから現れたのか頭上から金属タライが直撃し、
――これも何かの天命か?なら…。――
と鞄を抱えながら、桜の姿が見える玄関前に、自分の番号が指定された下駄箱の前に立つ。
頭部の打撲箇所を手で摩りながら、注意を警戒しながら靴を収納しようと、扉に手をかけると、ある程度開けたところから独りで扉が開き、そこから水が噴き出し、全身もれなく水浸し。
――俺って命狙われているんじゃ……。――
等の妄言と濡れた姿もろとも、窓から桜が望む階段の踊り場にまんべんなく散らばっているビー玉に足とられ顎を床に叩きつけ、
――もう終わりだよな……。絶対――
と上下左右を確認しすぎて前方不注意で脳天と金的を同時に激突。背中を丸め、疼くように小さくなりながら机の端に貼られている自分の名前を手がかりに、逃げ込むように席に着いた。




