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 めんどくさい……。自分こと折原登は素直にそう思った。

 広島の祖母の家から高速バスに一晩ゆられて東京を目指し、新宿のバスターミナルについさっき着いたばかりだ。長距離格安移動手段であるバスの座席に座ったまま一晩寝るというのはあまり慣れておらず、朝日が紅い眼球を刺激し激痛が走る程の寝不足である。

 とっとと、目的地に着いて早く体を休めたい、という逸る気持ちを抑えて、貰ったメモ通りの道を素直に進んでいったのが悪かった。

いつの間にか、東京の人通りの少なく、見るからに怪しそうな暗い路地裏で、金髪のチンピラ二人とリーダー格一人に絡まれている?状態に陥ってしまったのだ。

「何最後の“?”はなんじゃい!!ほんまえれぇ、度胸しとんのう!!兄ちゃん!!たいがいにせにゃなぁ……。しばくで!!とっとと財布だせーや!!」

 こっちに向かって背が小さくて短足の金髪チンピラが顔を覗いてくる。何かガムを噛んでいるようで、顎をモグモグ動かしている。

「ちっ。さえん顔しとるのう……。おどりゃー!!儂、ぶち怒ってるけんのう!!……もしかして、儂の言葉にびびって顔を動けれんだけかものう。」

 今さっきとは違い、何かもの凄い笑顔でよりいっそう近づいてくる。無駄に真っ白い歯を光らせ、玩具を前にした子供みたいに目を輝かせていた。

 いや。普通に聞き慣れているだけなんです。広島弁。だから、普通に聞き逃して無表情かつ無反応が出来るだけなんです。たぶん喧嘩口調に聞こえる広島弁(別に本人がそこまで怒っている訳ではありませんよ。自分含めて。)をマスターし、脅そうとしたようですけど……。

「兄貴。チビ、短足、モグモグ、無駄に歯白い、略して『ザコ』が言葉を覚えたぐらいでカツアゲが成功するわけないだろ。……ばい。」

 自分と兄より背の高い弟?なのか、金髪、垂れ目、がに股のチンピラが『ザコ』を蔑むような目線をしながら近づいてきた。

「だから、バーカ、バーカでしかないんだ。……ぜよ。」

 後から付け加えたような最後の句だけ強調し、鼻を鳴らしながら、言い切った。

こっちの高いのは文末に『ばい』とか『ぜよ』とか付けたら方言が成立すると思っているのだろうか。この光景見たら、各方面から絶対怒られてしまうだろう。自分の祖母がそうだ。

「かばち垂れ!!お前みたいな“ばい”、“ぜよ”反復生産の『でくの坊』とは違うんよ!!このかばち垂れ!!」

 こいつ絶対『かばち垂れ』を言いたいだけだ!しかも二回も言いやがった!

 本当に、口調からは想像出来ないような、ご満悦の表情を浮かべながら怒声を上げてくる。怖さの欠片もない。

「いつも兄に向って、何上から目線ぬかしとんのやボケ!!」

「物理的に上から目線ですよ。……や!!」

 金髪エセ方言使い同士が、目を瞋らしつつ相手を睨みつける。この戦い負けられないと言いたげな熱い威勢が空間を巻き込み、角膜の奥から放たれる閃光が相手に衝突し、摩擦が起きる。


お前ら同士討ちか!!カツアゲする気があるのか!と仲間なら止めに入るだろう。付き合わされる自分にとってはただ苦笑に徹するだけだが。

 だが、電光をも自分に向けて凶器になっている状況で、このくだらないを直視できない。

昨夜の寝不足からくる疲労と意思能力の低下に時間が朦朧としている。逃げようと、このバカ二人の隙を見てゆっくり後ずさりをするが、

「兄ちゃん。このアホンダラどう思うの。ただのバカにしか見えんわいよの。」

 こっちに振るな。ただの『ザコ』!

 く……。このイレギュラーな攻撃の前にバカ二人の視界から立ち去りたいが、重い荷物と目が封じられているこの状況。まともに土地勘の乏しい東京の下町を無暗に走ったら、余裕が十分有るはずの約束の時間にも遅れてしまう。

やはり、高校生にもなるのに迷子状態でこの手の情報が入りやすい、あの人の耳に入るのは絶対嫌だ。ずっとネタにされて調理されるだろう。

そんなこちらを承知しているのか確認しようがないが、俺の目の前で金髪のエセ方言使いのチンピラがカツアゲ?を……。

(二人同時に)「その“?”はなんなん!グハッ。」「“?”はなんだ……ばい!ギャッ。」

 最初に戻った……最後は悲鳴で。



 金髪二人は口を開けたまま、後ろから来た突然の衝撃によって膝を折れ、その場にドサッと倒れこむ。

 倒れた時の余韻まで見終えた後、奥から差し込んでくる光から、ぱっと目を覆いながら二人のいた奥を見た。

 自分の背丈よりも大きな黒いコートを羽織り、自分の顔が十分に隠れているほど、フードを深く被る。右手首に大きめの黄色いブレスレットを装着し、ずっと奥にいた三人目のカツアゲ(変人)メンバーがコートの裾を引きずりながらゆっくり歩いてくる。

「ふふ……。やはり我の力を欲する愚民共が努力しても、所詮は偶像をひたすら望む貪欲の存在。我は我独りこの世の揺るぎない“存在”として動を司る……。故にお前の私に対する認識ができていない状態……。」

エセ方言の次は絵に描いたような中二病発症者かよ!!東京の不良は変人だけか!?ある意味平和であるけれども。

登はたぶん今さっき以上に下目をこの痛い腐女子を見ているなぁと自分自身理解があった。

 そんな登を見えていないのか、フードの下から口が僅かに見える口角を上げ、薄ら笑いを浮かべながらバッと両手を空に向かって突き出した。

露わになった細い腕の利き腕に大きく、不釣り合いの太い腕輪が揺れる視界の中確認できる。

「迷える子羊たちよ!!我が存在に屈するがいい!!」

 言い終えた瞬間、消沈状態であった腕輪からその言葉に反応するが如く、黄色い輝きを持ち始めた。腕輪の内部から、小さな黄色い粒子の集合体が自ら輝く。

そうこうしている内に、腕の周りの光の回転は尾を引きながら渦が引き起こり、この狭い空間における存在感を増していく。まるで、空間ごと切り裂きそうな勢いでだ。目に見えない風の流れが、あの中二…中心に向かっていくことを肌で感じた。

そこまでくると別の動きに移った。その光を自身も浴びながら、前方の金髪二人の腹に入り込んでいるダチョウの卵ぐらいの大きさの石に向かって手をかざした。

たぶんあの細い腕では片手ずつ手の平には載せられないようなものが、何の支えも無しに宙に浮いたのだ。

「どうだ!!」

 短く、我の前に立ち、目を押さえる愚民に向かって能力を閃かした。感謝するがいい。

 そんな愚民の態度は一言はこうだ。

「で?」



 登がそう答えたその刹那、目の前に浮かぶ漬物石を脇に掴んで遠心力をつけ、前にいる妄想腐女子に向かって投げつけた。

 一応だが、目の前の石の動きが、ただのトリックを使った手品ではない力が働いていることを登は理解している。あの妄想女の妄言が、人間が本来使えない異能な力を自分が使っている意味では正直あっていると言える。

 しかし、その力が過去十年前の戦争で大きく使われたこの世界では、その力の本質はおぼろげながらの全世界での共通見解があるし、デメリットも幼児が知るレベルだ。

 登が相手しているのは、マッチで火を点け、「我が炎に魂を焼かれてしまえ!!」となぜマッチが発火したのか知らないが、目の前の現象に万歳三唱で飾っている、幸せな奴だ。

……ガキじゃねぇか!



 自分の予そ…妄想にない行動をされたために、運動不足の少女が咄嗟に反応出来るわけもなく、両手を前に向かってかざしているために、がら空きになっている腹にスーと滑りこむように地面と平行に飛んできた鈍物の衝撃を正面から受けた。

 元々は愚民と高をくくった奴に向かって投げつけようとし、避け切れられず気を失うと高をくくっていたのだろう。矛先が自分に向けるといった予想外の行動に呆気に取られ、されるがままに鳩尾へ深く入る。

当然、見せびらかしていた自慢の付け焼き刃の力で防御することなく、腕輪の輝きは失い、無造作にバサッと汚れた路地裏の地面に倒れた。

「ああ……眠い。」

携帯で警察に連絡した後、自らの睡魔が自分を襲いかかった。



丁度、四人が倒れている上で……。

こんな狭間で行われていた全体の一部始終をこっそり見ていた影が一ついたことを登は気づかなかった。

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