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「ご来場の皆様。本日は遠路はるばるお越し下さりありがとうございます。」

 バンと照明が落ち、壇上にいる礼装で決めた司会者にスポットライトが当たる。慣れているようで、離しすぎず、親しみやすい口調で幕開きを始めた。後で着いてくる女性の通訳も同様だった。

 出席者は広いホールに並べられた数十の指定された白いテーブルクロスの掛けられた丸い机の前に座っていた。目の前にはウェイターがグラスにワインを注いでいく。進行表で見た想像通りに人種・国家を問わない色々な人に会場は埋め尽くされていたが、日本人の招待客は他国の人たちより年齢がそこそこ低い様に感じられる。これは日本が戦後、「世界で一番青臭い国」と揶揄される事に乗じて作ったジョークだろうか。しっかりと国のイメージを見据えている。

「最初に本の晩餐会の主催者。森ノ宮財閥会長からの初めの挨拶を頂戴したいと思います。」

 登場メロディーと共に中央の壇上に順々と歳を重ねた貴婦人が現れた。若紫色を基調とした桜を描き、夜空に栄える夜桜を演出している。右手には奴の目当てであるブルーサファイアの指輪がはめられている。ここまでの演出は計画通りだ。

「今宵は私共の森ノ宮財閥創立百周年をお祝い頂き、この場を借りてありがとうございます。この度の我が共の節目に各方面からの多くのご祝辞を頂いたことも重ねて感謝致します。本日招待させて頂いた中には、自ら予告状を送りつけてきてくるという猛者もいまして……。」

 会場はドッと笑いが起きる。会長のジョークには、世間の注目の的が反映されているのは明らかだ。

「取り敢えず返事は返さないでおきましたので、いらっしゃるかどうかは運次第で……。」

 そいつを今から捕まえる予定なんだよ。(←取り乱し)

 しかし、高齢の割には流暢で面白みのあるスピーチだ。これが戦後十五年間森ノ宮財閥を引っ張ってきた女帝の人柄と素質なのか。あの方とは又一風変わった魅力を感じる。

 いけない。いけない。俺はあの折原警視一筋だ。今のうちにこれからの予定をさらりと確認しておこう。スピーチ終わって乾杯の後、えーと次はフルコースの前菜が並べられた後、壇上で有名な支障をお招きし、落語の観賞を行う……と。

「ここに来るのが、ホラ武器で安い飾りをつけてはしゃぐうつけ者でしょうか。それとも自分の邪道をひたすら走り続ける肝の座った挑戦者でしょうか。グラスを持って彼の行動を褒めましょう。皆さんご起立ください――。」

 ざわざわとグラスを持ち、壇上の貴婦人に向かって注目が再度集まる。貴婦人も持ってこさせたワイン入りのグラスを持った。

「宜しいですか?それでは皆さん。この指輪の安否と今まさに現れるモノの健闘を祈って乾杯!!」

 グラスが一斉に上げられた。


―――――――――バタン――――――――――――――――――――――――――――――


 辺りが一瞬にして暗闇に包まれた。


「停電か!」

 一瞬にして真っ黒になった画面を凝視しながら、探田は叫んだ。

「カメラは生きている。」

 冷静毒舌通信員は落ち着いて報告した。

「来ます。奴が必ず。」

 装甲車の中で一番落ち着いていたのは、先輩を差し置いて土屋巡査長だった。


 一方、会場では突然の変化に辺りは混乱していた。従業員(潜入捜査員入り)は冷静に。冷静にと招待客に呼びかけ続ける。

 そしてまもなく電気は復旧し、落ち着きを取り戻していく。


 災いは、気を抜いた頃にやってきた。


 ガシャン

グラスが砕け散り、透明な輝きの破片を包むように赤紫の液体が壇上に広がっていく。

「私の指輪が消えている……。」

 右手にあった青藍色の輝きを持つブルーサファイアがなくなっていた。

 


そんな呆然と立ちすくむ貴婦人を見ている集団の中に一人上に気配を感じ、見上げた。

宙に浮かんでいる男の姿。

 白仮面、黒いマント、黒装束、ロープ。

「どうも~。」

 下にいる俺たちに向かって手を振っていた。

 間違いない。快盗×だ。



「メダリア反応感知。浮遊系、の超能力者です。尻尾は捕らえました。」

「よし。予定通りに行動開始!」

 土屋は、こんな号令を言うべき仮司令官である先輩警部補のフォローをした。


 上にいる快盗にあんぐり開けているお客様をよそに、潜入捜査官は行動に移すため、一歩足を踏み込んだ。

「あははは。さらば!」

 怪盗×は懐から出した筒を投げつけ煙幕を発生させ、会場にいる全員の視覚を奪った。その時、煙ではないその他諸々のモノも散布された。


「すみません。何か今の煙幕で、カメラが全て死にました。てへぺろ!」

 壊れているのは、お前の頭だろ。毒舌通信員!

「そうだ!通信は生きているか!無線は大丈夫か!」

 はい。まぁ。そうです。返事が返ってきた。まだいける。

「超対課第九班の椎名です。現在、班員二人の班員と共に怪盗×と思われるメダリア反応を追跡中。」

 さすが、あの方の部下だ。仕事がとても正確だ。

「了解。第九班はそのまま追跡を続行。他の捜査員もメダリア反応を元に怪盗×を探し出せ。遭遇の際は、対超能力者を厳とせよ。」

 ガン

 に、鈍い音。

「い、痛~。探田さん。何をするのですか!任務中ですよ。」

「バカ!!今の命令は軍隊か!おい。」

「いや。警察機構も国防軍も警察機構で、命令伝達に似る事は……。」

 探田さんは、興奮した趣で怒鳴ってきた。歓迎会で見せた酔い姿に似ている。

「探田さん。もしかして飲みましたか?減棒モノですよ。今、冗談言えない……。」

「俺たちは市民を守る警察官だ!!俺たちにしか出来ない仕事をしろ!!」

「その前に社会のルール守れていない奴に言われたくないわ!」

「なん……。」

 バタン

 立ち上がったと思うと、支え無しに崩れ込んだ。意識を無くしていた。

「せ、先輩!!」

 ドサッ

 後ろを振り返ると、毒舌通信員がいびきをかき始めた。

「まさか……麻酔効果のある睡眠ガスを……。」

 滅多に見ない探田先輩の醜態が続いたのはこのせいか……。やられた。小細工を仕掛けられたことに気づかなかった。早く捜査員に本部がやられた事を伝えなければ。

 朦朧とする意識の中、懸命に耳元のマイクのオンボタンに手が届かない。



 丁度土屋が装甲車内の本部で意識を失った頃――

 ホテルマン姿の超対課の潜入捜査官は、メダリア反応のある倉庫の前に立っていた。

 扉の脇に立ち、口にペンライトを咥え、銃を手にして三人は合図と共に狭い倉庫の中に突入した。

 早く見つかった。

「くそったれ。ペブロだけかよ。」

「報告。メダリア反応点には腕輪だけでした。引き続き、潜入している怪盗×の確保を……。」

 耳元のイヤホンからは聞こえる音に、司令官にはその言葉は届かなかった。

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