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「さぁ。お前ら。パーティが始まったぞ!円滑に終われるようにするぞ!」

 うるせぇ。潜入警備中だ!気が散る!晩飯、奢れや!

 無線には入らない罵声が、次々と招待客で埋め尽くされていく晩餐会の会場の影で言われる。ほぼ全員が今までで一番本部長の激励の感想は悪かった。無言の反応に最高責任者であるはずの本部長は「便所に行ってくる。」と拗ねて、本部の装甲車から出て行ってしまった。

「ちっ。あの下痢野郎。」

 通信員は毒舌を吐く。

「休憩時間にトイレを済ませておくのは幼稚園児でも知っている事だが。」

「しかし、この場合指揮を執るのは一番この中で階級の高い先輩ですよね。警部補。」

 隣で監視カメラの画面を眺めつつ、イヤホンを片耳に着けた超対課第零班の探田警部補と土屋巡査長がいた。いつもみたいな空気はなく、どちら共が獲物を狙う鷹の目のような鋭い視線で動いているモノを観察していた。

「それにしても馬鹿なのですかね。指揮官が離れるという失態を犯すとは本部長。極秘の黄色い驚嘆の件はSATや公安部の方で対策済みのようですが……。ある程度知名度の高い怪盗×案件だったら、“盗ませなかった”だけでも民衆の警察に対する大きな期待となる。過去のサイバー犯罪対策室発足時のようにペブロによるこれからの先を見越した新しい犯罪を取り締まる我ら超対課の活躍。SATの第三次世代の新型ディクの投入による活躍。上層部は怪盗×の『確保』よりもこれらの『活躍』を国民に見せつけたいようです。それも十五年前の化け物みたいな逸話があるからこそですが。」

 一瞬にして警察官百人倒し、ディクの初陣で軽く行動不能にし、手錠を掛けられたのは僅か一回……。ネットで検索すれば、真偽問わずゴロゴロと出てくる怪盗×。

「警察も営業する時代になったよな。土屋。折原さんは今のこんな空気が嫌だと言って、SATの怪盗×の確保隊に合流してしまったし。」

「あの女だてらに侠気のある。しかも歳を重ねても廃れない戦闘力をお持ちのあの方が隣に居られないのはとても寂しいですが、『超能力対策課(超対課)』前身の『非科学的対策室(非科室)』からの因縁ですからね。あの表面には出さないが、燃えている目を持つあの方には決着をつけて貰いたい。先輩もそうでしょう。」

「お前はもうべらべらと……。」

「少しは見直しました? 僕の観察眼。」

「数十年早いわ!!」

 ゴンと脳天に拳を振り下ろされた。

「痛い痛い。先輩!止めて!二度目止めて!ストップ!」

 ピタッと拳を止める。

「それにしても『弾錠』が舞う姿は華麗なんだろうな。そして隣に……。登君を息子として育てる決ぐはッ!」

 探田代行は刑を執行した。登は机に顔をめり込ませた。

「熟女好きも大概にしろ!この○○!」

 通信員が言った。意図的に回線を全部に開けていたのは確信犯だと思う。


「アンマン百個買ってこいや!」

 ホテル内の階段の近い会議室に待機していた準武装(SAT隊員より装備に何かもの足りさを感じるぐらい)状態の折原は、一発で身元が分かる言葉を車の中でぐうたらやっている奴らにむけて無線で怒鳴った。後の始末書の枚数を指定しなければ……。

 

「分かりませんね。探田はともかく、あんな若造が指令補佐を任せるなんて。」

 白髪頭のSAT隊長は一言通信で言ってきた。

「まぁ見ておけ。」

 それだけ言っておいて、腕時計で時刻を確認した。



 画面に映る横断幕をもう一度読み返していた。

森ノ宮財閥は戦争以後、急成長を遂げた企業グループである。豊富な資金と人材で戦後の復興からのスタートダッシュを切り、今では世界指折りに入るまで成長することが出来た。

 その一番牽引した事業の中で、『貿易』が一番大きい。とにかくライフラインが凍結した戦後の世界中の物流の要になる程、人と人・モノとモノ・金と金を運ぶのを動かしまくった。とにかく流水がごとくジャンジャンと。

 その最中に世界各国の至る所に人脈が形成され、市場の広さが変わった。以前の十倍近くのシェアと二十倍の利益を上げることが出来た。まさに絶望から立ち上がる人々の波を上手くつかんで滝を昇った模範的な成功例と言っても良いだろう。「戦争様々」は死語なので、上層部は思っていても人前では使わないが。

この晩餐会は森ノ宮財閥創業百周年を記念し、そんな急速成長の時に関わった世界各国の著名人を南神ホテル最上フロアの会場に招待して盛大に祝おう。そしてこの場を利用して、秘密にしてきたことを大々的に発表して認知度を高めよう。があちら側のパーティー開催理由。(土屋談)

 怪盗×はその主役である森ノ宮財閥の会長の指輪を頂くと予告状を警察、マスコミ各社にばらまいた。おかげでホテルの周りはマスコミ各社や怪盗×のファンなどが集まり、人込みに紛れて来られると厄介だ。より一層黄色い驚嘆対策を困難としているらしい。

今日は南神ホテルを森ノ宮財閥の貸し切りとなり、周囲百メートルを関係者以外立ち入り禁止となっている。近くのビルの上はSATのスナイパーがスコープ越しに南神ホテル付近の動くモノやホテル屋上に立つモノを狙っている。

 ホテルに入る際も厳重だ。従業員の管理もサミット級に徹底的に厳しくされ、ホテル入る時も前身をX線でモニタリングする機械になっており、一名ずつボディチェックが入る。

 会場にはかなりの数の監視カメラ、隠しカメラが設置されている(ホテル内のカメラをも捌くのは毒舌通信員の役目)。従業員や参加者に紛れて公安部の潜入捜査員が入り込み監視を続ける。同じ超対課の職員も混じっていた。そんな人を初めて生で見るが、従業員達と手つきが変わらずに一瞬本物か?と騙された。

 ここまで完璧に行うなら、別にパーティー止めてあの方と一緒に(勝手に)居れる時間を増やさしてくれと言いたいが、国政に影響が出る程のVIP達らしいので上からの圧…指示である。

国家勢力を弄んだ男と国家勢力の面子の命を狙う男の対策は完璧な状態で今日に臨んだ。万が一に侵入を許したとしても、潜入捜査員が取り押さえ、暴れたら折原さんが合流したSAT隊の出動だ。


 ただ一つだけ、快盗について不思議な点が一つある。予告してきたのは本物であるのは間違いないと判断はしているが。

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