1-22
ど、どうしよう。話が続かない。
そう言えば、女の子を家に入れた事なんて初めてだ。この後、どうすれば良いんだ?
何もしないまま、数分経ってしまった。足が辛いな……。馬鹿か! 早く、椅子に座らせてあげないと……。そうだ!来客にはお茶を入れないと……。
取り敢えず椅子を引いて、彼女を座らせ、緑茶を入れて差し出した。思った事、取り敢えず体は動いてくれた。手錠をしているけど。
さて、どう動く。目の前のボーッと遠くを見る彼女から話を聞けば良いだけだ。『明日の計画』について。もちろん彼女が話したくなさそうであれば、その場で打ち切る。無駄に彼女を傷つけることはしない。
で、どうやって話の話題を作る? 本題に入る前のクッションとなる前座が必要だ。顔の表情からして、ストレートに聞くべき話題ではない。その時の地雷の被害が計りしれない。
こんな二人だけの密室空間で、一対一で話し、情報を聞き出すものと言ったら……。
「取り調べ?」
口を滑らしてしまった。まずい地雷踏んだ。血の気が引いた。
「取り調べって何なの?」
長い黒髪で、遠くを見ていたつぶらな瞳が取り敢えずこっちを向いてくれた。
い、いけるか?いく。
「取り調べって一体何なの?」
「あ、あれだよ。今は二人きりじゃん。しかも周りは静かで、向かい合って、相手の目を見て……。まるで取り調べじゃん。書記の人は居ないから、ここに自分がパソコン持ってきて聴取内容を記録する。」
「何かこっちが一方的に、犯罪者だよね……。」
「そう言う意味では……。」
取り敢えず、笑っているから弄られているだけと考えて良いんだよね。
「無罪の人を取り調べたらいけないと思います。」
「うっ。」
「それに、ただの一般人がこんな拘束行為をしたらいけないと思います。」
両手首が痒いのですけど!?
「大丈夫だ。ウチは母子家庭で、母さんが警察官。その警察官を支える役目として、家族全員が補助警察官という立ち回りとなる。少しばかりの給与が人数分支給される。つまりは、自分は本物の警察官まではいかないものの、そこそこの権限を持っている。」
椿はポカンと口を開けている。実は自分はこんな感じだったのです。どうですか?という男子高校生の言葉を理解しているか、否かと判別しにくい。
取り敢えず、今いったことはほぼ嘘だ。駐在所(二十四時間そこで勤務する形。住居が一緒の交番とイメージ。)の奥さんに手当が支給される。その子供達にそんな項目のお金は払われない。そこそこの権限があるのかは知らない。
「くすっ。」
ちょっと、初めて笑ってくれた。自分が言った言葉で、怒りと悲しみ以外で反応してくれた。
「お願いします。補助警察官さん。」
長い黒髪の艶が美しいつむじを見せてくれた。
そして頭を戻したときに見せた笑顔が、自分の何かを動かした気がした。
「ちょっと五秒目をつむっていて。」
「?」
取り敢えず、言われるがままに五秒しっかりと目を閉じた。六秒だったかもしれない。
「どうぞ。この格好が役に立つと思う。」
ディクに立った、あの黒い姿だ。
「貴方の名前は?」
「初めて、人の前で言うよ。私の名前は快盗answer。アポ無しで登場!!」
取り調べの始まりだ。格好を変えた意味は分からないけど。
しかし、取り調べというのはなんと頭を使うものであろうか。世の中で、一対一で対戦するものといえば、よくよく考えれば将棋や囲碁など頭を使うものばかり。格ゲーは集中力と反射神経が一番となると思うが。
取り調べには、素直に犯罪者や任意同行の人が真実を供述してくれれば良いが、嘘を言っていたり、口を割らない相手に対しては、確かな証拠を武器に相手との駆け引きが必要となってくる。親類のプロに言わせると、「人を深く見ろ」が基本だそうだ。先入観を捨てろという解釈をしておこう。
ただ、どちらも必死である。警察の方はうっかり口を滑らせて相手に有利な情報を流してしまったら逃げられてしまったり、犯罪者は僅かに隙を見せればその隙を突かれてづけづけと追い詰められてしまう。
幼い頃、古い刑事ドラマを見て、取り調べのシーンで刑事がカツ丼を犯人に奢って自供を誘い込むと言うものがあった。これを(仮想であるが)同業の母さんに聞くと刑事が犯人に奢ると言うことは無いらしい。出前を頼める所もあるらしいが、その時は実費で払うしかないという。
余談だが、母さんは取り調べを行う前に糖分補給としてアンマン(饅頭でも可)を食べるらしい。元々、母さんが先輩刑事に糖分を取れといわれたのがきっかけらしい。糖分は脳の栄養になるとざっくばらんに保険か家庭科で勉強した気がする。コンビニの中華まんが一律百円セールやっている時に、気が向いたら誰かをパシリに使わせて、部下達にアンマンを奢っているらしい。母さんの刑事生活で『奢る』という単語はほとんどこれに関係する。
聞いたのは十年くらい前の小学校低学年の時だったので忘れていたが、近くこれに関係する事を本人が言っていたので思い出したのだ。
それは三月の末。新宿駅のバスターミナルのから道に迷い、その先に会った金髪二人と精神が病んでいた腐女子ペブロ使用者とトラブルが遭遇の後、母さんの遅れたペナルティで職権をふんだんに使って自分が牢屋に入れられた翌日の取り調べの後だ。
その取り調べは新入りの直属の部下である土屋?とか言った若い刑事の取り調べの力を実子の自分を実験台に能力を計り、息子の極限状態での自分を律する精神力を部下で実験台に力を計るものだった。母さんの遊びに付き合わされた若い刑事さんの苦労がよく分かる。
そのダメだしの最後に、若い刑事にプレゼントしていた。お礼とそれは一応私の好物だと言いながら。若い刑事はとても嬉しがっていた。それを後でとても慎重に入れていたのは錯覚だと思いたい。
そんなこぼれ話はさておき、自分の取り調べもどきは散々だった。ゴテゴテした質問が緊張によって呂律が回らず、相手も聞きづらそうだった。熱心に併せてはくれるが。
質問も今まで心の声の内容を確認するだけに留まった。こちらに初日から早々悪戯を仕掛けてきた理由。とてつもなく、強い奴が同じ高校に入る噂。スーツの性能テストの最中に遭遇して、上から見ていたエセ方言オタクの金髪不良とサイコキネシス腐女子を漬け物石で倒した後の同級生(自分だ。金髪は仲間割れ。)。そのトラップのはまりようの多発に失望。そいつに下着を見られ、自分家のディクに命狙われの、首締めの件……。
これが終わった際、徹夜して直したという潰れた鞄を返してくれた。あのプレス状態からどうして直せたのか分からない程、完璧の仕上がりだった。ありがたい。
それにしても、明日の『計画』が一向に分からない。「快盗answer」、「南神ホテル」、「計画」この三つのキーワードを何気なく、検索サイトでキーワード検索をしてみた。
「あっ。」
ヒットした。明日、十五年前に世間を騒がせた怪盗×の犯行予行が明日の南神ホテルで計画されている海外の著名人を含めた晩餐会になっていた。
「これに、関係しているわけではないよね。」
条件反射でパソコンの画面を回転させ、快盗answerに見せた。
快盗answerは酷く動揺していた。快盗スーツのおかげで通気性が良く、汗をかくことは無いが、全身の血の気が引きっぱなしだった。それ故に目の前の情報は有名であっても、十分心が揺さぶられる。
怪盗×は私の実父だ。養父が十五歳の誕生日に文章データ入りの古い携帯端末と一生開かない手錠と共に遺品を自分へ渡してくれた。
実父と養父は親友だったそうで、実父は二回目の「光」の最中になくなったらしい。その後、私を生んだ実母も私を生んだ後、そのまま死亡。養父に引き取られて育ったという経過を詳しく聞かされた。
気持ちの整理が出来ずに、ネットサーフィンをしていると、怪盗×の復活疑惑がネット上に鳥座さされていた。
私は顔の知らない実父と会うために。取り敢えず、同等の力を持っていて、逃げられないように罠も研究した。
まだ知らない親の話を聞きたいから。これを言うのは……。
「そうだったのか。」
やっと分からなかった答えに、登は深く安堵した。
まずい。また心の声が漏れてた。
「これだけは……。」
快盗answer――古川椿は震えながら、立っていた。
もしかして、開けてはいけないパンドラの箱!?
「これだけを言って終わりにしたかった。――終了です。」
言いたかったのかい!!登の内心ツッコミと同時に、快盗はどこからか出した筒の蓋を開け、部屋中を煙幕で充満させた。
「何を……。」
「これは催眠ガスよ。口、鼻から体に入って対象を眠らせる。」
目の前に立つ快盗は静かに言い切った。
マスクをしていないのに、本人はどうやって煙を急いでいるのだろう。そう思いながら、登は深い眠りにつく。




