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 何だ……。この騒がしさは……。

 身体中の自由が効かない黒髪の一人の武装警察官は微かに聞こえてくる。この十回目のだるさは愉快犯の変な術にまた捕らえられたことを意味している。

 もう分かっている。あいつは捕まえられない。目的が分からない。訳が分からないただ潜入したり、大人数の警察官を縛ったりするだけのあの愉快犯に、これ以上無駄な時間をかけるべきではない。

あの超能力とかを扱っている『非科室』のメンバー。特に、ボスとか言われている折原警部は熱心にあいつを追い掛けているが、ほとんどみんなは諦めている。

 今回は瀬戸際だぞ。超人相手にするような兵器を投入して。これが失敗したら、左遷話の噂も立っているんだぞ。その兵器『ディク』の駆動音が聞こえなくなってしばらく経つ。女の叫びも聞こえた。あいつの忌々しい上から目線の言葉も微かに……。

 終わったな。また失敗だ。

「捕まったぞ……。」

 はっ?何を言っているんだ。失敗続きで頭おかしくなったか? それとも違う誰かか?

「怪盗×を捕まえた……。」

「やったぞ!!折原警部!!」

 おいおい。みんなして……。いや。俺が壊れて、幻聴を効いているのかもしれない。捕まったという妄言は断じてないのに……。

 虚ろな意識のまま、目を開けてみた。ぼやけてはいるが、周りに大きな声でやかましく喜ぶ同僚達。中心には脇に男二人を伴わせた、黒いマントと白い仮面の男。しっかり二本足で立ち、両腕を前にしながら鈍く歩いている。

 否定した光景が広がっていた。

 なんだ。警部殿はやるではないか。決めつけは良くなかったな。



「今宵の犬共を見て夢現……。」

「さっさと歩け!この野郎!」

 隣でこの愉快犯を連行している探田と出来る副室長は同時に怒鳴った。

やっと十回目にして、隣の仮面男に手錠をかけることが出来た。胸高ぶる達成感を抑えつつ、しっかり最後まで、豚箱にぶち込むまで気を抜かず、パトカーまで重い快盗を連れていく。

 なにしろ靴の裏に垂直に走って壁を駆け上がれるような材質を貼り付けているようで、一歩一歩があまりに遅い。しかし、袋の中のネズミに出来る抵抗と考えると易いものだ。

「お手柄です。あのにっくき白仮面を確保したとは……。」

「でも何かあいつが捕まっているの見ると、不自然で今さっきから気持ち悪い……。」

 少し離れたところで、逮捕の立役者の折原警部は口元を覆い夜風で冷えた体を腹を摩っていた。隣には今さっきまで泣きじゃくっていたディク乗りの女と話をしている。ディク乗りは今さっきとは別人のような緩い性格だった。

「冗談ですけど、連行する最中に手錠の鍵を開けて逃走するような感じがしますけど……。」

「大丈夫だ。あれは“永遠錠”と言って、自称世界一の鍵職人が作ったものだ。鍵穴が無く、特殊な金属で整形されているあれは、ある一つの方法でしか開かない。それは不可能に近い方法だから、“永遠”と名付けたらしい。」

「?着けたままで、服の着替えはどうするのですか?」

「掛けているままでも、着替えれるらしい。話を聞くことによると、服が鎖を通り抜ける要領で……。」

「ふーん。」

「……信じていないな。」

「少しは……。それでも、その方法を直ぐに見つけ出してしまいそうですが。」

「大丈夫だ。私は忘れた。」

 それで良いのですか……。たまに見せるボスの大胆さにディク乗りは少し呆れ顔だ。

 ボスも含めた変人の集まり『非科学的対策室』の快進撃の逸話がまた増えた。

「やっぱりあいつの姿見ていると、吐き気が凄い。」

 安堵した折原の体に強い、“つわり”が来る。


「おい!盗んだものを返せ!」

 囚われの身の快盗とパトカーとの間に乱入した男が現れた。愉快犯の連行していく姿に一同釘着けになっていたところに思いがけない来訪者だ。注目は一瞬にその男に集まった。

 男の容姿は二十代前半のやせ気味の男性。やや顔を引きつらせ、白仮面に向かってヒステリックを起こしている模様。

 折原は今回の作戦の際に、第三者からの傷害としてめんどくさい対象としての認識があったが、怪盗×にも見覚えがあった。

 独特な腕輪を両腕にした男は人差し指をさして怒鳴った。

「記憶メモリを返せ! 怪盗×。」

「これは。屋上で出会った、お兄さんではないですか。」



「ほら。最後までアクシデントは続きますね。」

 折原の横でディク乗りの部下が嬉しそうにのんびり言ったが無視する。

 怒鳴る男――空本天筏は目の前の高い高層ビル丸々を所有するベンチャー企業の創業者であり、オーナーである。弱冠十九歳のティーンエイジャーがIT企業を立ち上げ、数々の新しく使いやすいシステムの開発、販売。多方向への事業展開も馬鹿みたいに成功を続け、僅か数年で今では大手企業と肩を並べるところまで成長させた天才である。

 今回十回目となる怪盗×のの予告状がいつものように警察に送られてきた後、標的となる会社のデータを守るために天才自身が作戦中の囮を買って出た。

 それはもちろん許すことはない。接待態度で折原は丁重にお断りをさせて頂いたが、空本の方はあらゆる人脈を駆使し、上層部から参加させるように圧力を掛けることに成功した。新型のディクの投入の話の件もあったので、折原は自己責任と細心の注意を払う事を条件に承諾した。最も、逮捕の結果には全く効果をもたらしていないが。

だが、これであの男の自己中心さは終わりでは無かった。作戦を聞くだけ聞いて、予告されていた快盗目当てのデータを当初予定していた南神ホテルのロビーから自社オフィスビルに移し替えていたのだ。雇った数人の手連れと共に。おかげで迎え撃ちを封じられ、気づいた時にこの場所に急いで急行するも、屋上で悠々と立つ快盗を下から見上げる形に折原以下の警察官はなってしまった。

 プライドの高い空本はこれに納得をしなかった。双子の国家公務員である双子の兄でさえ鼻で笑う性格である。屋上でただ一人。快盗と対峙するものの麻酔で眠らされ、目覚めたら全てが終わっていて後片付けだけだった。

これでは何ともしようがない。心のムカムカも落ち着かない。

 罵声を浴びせられ続けられている怪盗×は笑っていなかった。


「あの“社長様”にお引き取り願え。」

 折原の指示に動ける部下二人が空本に近づいていく。そして、腕を掴んだ。

終始、邪魔者はここで退場して貰おう。これは公務執行妨害その他諸々で丁重に起訴させて頂く。

「こら!!離せ!!まだ、あいつに終わりを見せていない!!」

 捕まえられた太い腕に、ダサい腕輪を着けた細い腕は抵抗するが後の祭りである。



「折原警部!!急いで報告が!!」

「最初に性、名、所属を言え!!」

 耳のイヤホンから部下のうるさい連絡が入った。完全にオフモードの折原は軍隊みたいな報告を即座に義務づけた。スルーされたが。怪盗×が目の前に連行されていくのに、緊迫感のある似つかわしくない声であった。

「ビル内の怪盗×に!術を掛けられた突撃隊の身を!保護に向かった!……」

「落ち着け。どうした。」

 無線で通じているイヤホンの向こうにいる奴は感嘆符が多く、興奮している。

ビル内は目の前のガキみたいに駄々こねる空本とおそらくそれを護衛する数名の民間警備員。そして到着時に最初に突撃した武装警官隊十人程――。自力で降りてきた目の前にへばっている空本の身はともかく、それらの保護を怪盗×を逮捕してから動ける部下達数名に命令した。  

その中のリーダー格の男がこの様である。

「ビル内部の所々に黒こげに全焼しているところがチラホラあります。」

 は、怪盗×がやらなくもないところだ。

「その中に、仲間の数名の焼死体を発見しました……。」

 折原は絶句した。この状況で部下達は笑えない冗談は言わないはず。言うだけはサラリと簡単な事実が折原を困惑させた。

犯人は……。それは怪盗×は絶対やらないことだ。錯乱する折原の中ではそれだけは言える。


『怪盗×の報告書』

・白仮面。黒マント。

 ・予告状を送り(警察限定)、対象を守る警察官を愚弄する犯行を好む。

・キモい笑顔

 ・超能力者確保に有効とされる空間捕縛術の達人。

 ・情報収集、対人の間合いを読み取る超人級の賢さ。

 ・そのあまりの正確さだがメダリア反応無く、ペブロ使用も本人は否定している。

 ・人を眠らせるたり、先述の奇術を使って人を縛り付けるが、攻撃行為はない。

 ・そして必ず、毎度の様に別件での報告書がいる。

報告者 非科学的対策室 折原真央 警部



 過去九回の怪盗×と遭遇した経験から、気絶者は多発するが怪我人が出たとはにわかに信じられない。話からしてペブロを使った……推定階級へ級(銃を持った兵士が束になったのとやり合える程度。)だろう。爆発音が無いのと、ビルの通路を器用に焼き焦がすエネルギーはペブロを使うのが手っ取り早い。それも武装した警察官を焼き殺す程のな。

 ……というか、なぜこんなに冷静にしていられる?私の指示で最初に突撃していった部下達の命が犠牲になったのだぞ。あの白仮面の男の馬鹿らしいふざけによって……。

 あっ。そういえばあの時も同じ事だったな。五年前にもなるけど……。あのアトーが東京に奇襲を掛けてきた『天と邪の日』も。当時捜査一課で都民の避難を地下シェルターに誘導して、その時に泣きついてきた親とはぐれた女の子と共に、その子のお父さんお母さんを探すために外に出て行って以来会っていない先輩刑事の事を……。その時も何も思わずただ無情に突っ立っていたな――。

 で、私は何をするんだ?容疑者は目の前にいる。次に何をすればいいのか分かっている筈だ。

「ディクは動けるか?富士野。」

「いえ。縄を取るのが困難で、直ぐには。」

「そうか。合図と共に待避と通告を急がせろ。」

 オンモードの折原は小声で隣のディク乗りに言い、聞き手の右手で『ナメクジ』を取った。ダイヤルはAのメダリア変換させたエネルギーを溜めて大きなものを撃つ“チャージショット”だ。連射は出来ないが、威力は大きい。

 それと同時に手元のメダリア測定器を見る。そいつの方へ向けても反応は無かった。それでも大きな自身がある。どこから来ているのか分からないこの感覚は刑事の勘と言う奴か。易く感じるのは気のせいにしよう。

 あの悪戯者は卑劣官にはならない。



「あー。もう~。話が分からない猟犬だな。ちょっとお仕置きが必要かな?」

 観念したのか、空本天筏は手を広げた。

「探田!黒(副室長)!伏せろ!」

 部下の反応を見ずに撃った。

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