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「そいつを返せ!怪盗……。」
「まぁまぁ落ち着いて。お休みなさい。」
屋上へ続く扉の前に麻酔で眠った訪問先のお兄さんの姿を確認し、同時に失敬してきた獲物の姿を確認する。よし。ちゃんと手の内にある。
そして携帯端末の画面を表示し、風が強くて黒いマントが大きく揺れる中を白い仮面の男はゆっくり歩いて電源が落ちている建物の縁に立ち、光の洪水の前に立つ。
目の前数多の電光がとても眩しい。
高いところから地面の方を見ると、日中の下調べにきていた時の都会の賑やかさが損なわれず、夜になっても灯りを中心に人々の笑い声や愚痴、涙がこの耳に入ってくる。
一つの部屋の中に微笑みを囲んでいる家族もいれば、人目に隠れたところで貪欲に浸かった悲鳴が聞こえる。十人十色(少し強引過ぎ?)というもので、色んな思いがこの世界には混ざっている。
そんな社会がいつものように変わっていないことを確認し、体に溜まっていた空気を吐き出す。自分はそんな風に感情をバカみたいに表すことができない。それは眼下にあるこの広大な平野の人々の感情の波に自分はいつも潰されそうになるからだ。あそこにいる家族の温かさや泥酔状態のおやじの愚痴、ヤクザに追われている女性の悲鳴といった、他人の激しい心が喜怒安楽関係無しに本人の壁を見えないバイパスを通って素通りし、自分の体で暴れるように“自分”の意識を刺激する。おまけにかなりの広範囲で人の“声”が休むことなく聞こえてくると、きたものだ。
最初の頃は布団に丸まって人と拒絶状況になり、何日も眠れない夜が続いた。こんな凄い力を手に入れてもくじけない。むしろ人の心が分かるんだから深く人のために使うと言った考えは浮かんでこなかった。現在進行形で襲う激痛に考慮してほしい。その時の君には大変辛い思いをさせた。すまない。
自分は人の心が読めると気づいたのはもう五年も昔だ。(知っているかもしれないが)丁度その時期には無国籍の軍隊が「俺たち世界征服するぞ!!」のかけ声の下、突然東京上空に奇襲を仕掛けてきた。三隻の航空船という空に浮かぶ、まだ技術が追いつかない空想上かつ未知の存在から爆撃を受け、東京が戦火に見舞われた『天と邪の日』からだ。
「……で、無国籍軍隊通称『アトー軍団』の使った新型爆弾の……に人間の潜在的にある力を刺激し、……それが表面化に出たから。そして……。」と、科学者の友人が言っていたが、文系の自分にかなり高度の理系の内容は当然訳が分からないので、「ようするに殴ったら、テレビの映りが良くなった。」程度の認識にしている。
君に迷惑をかけた廃人同然の鬱状態から、(辛抱させて恥ずかしい話だが)君の笑顔とさっきの友人アシストで、人々の心が分かる感覚を鈍化させることができた。だからこそ、わざわざ人の注目が自分へ集まることを、苦にせずこんなことをしている。自分の行動を新聞や雑誌、インターネットの掲示板で批評や軽蔑されても、そんなものこの“能力”に比べたらいつの間にか枯れている観葉植物にしか見えない。
さて、自分の昔話はここくらいにして、本題に入ろう。まず、最初に一つ伝えたいことがある。それはひ
(十五歳になった君へからの手紙より)