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「あ~。あ~。諸君、怪盗×に終わりを見せてやろうぜ!!」

ノリノリだな、本部長。気が散る。腹減った……。

 反応は十人十色である。関東平野全域の警察無線機にサミット級の警備を担う最高責任者の声が響いた。

「本部長。もう結構です。」

「そうか。言い働きしてくれよな。」

 大柄な余裕のあるトップの姿に通信係は腹の中で舌打ちする。

 明日の南神ホテルで催される晩餐会の準備がくそ忙しい中、音声確認と称した愉快な言葉に全捜査員の大顰蹙を買った。いつもの事だと誰もが思っているが。

「あのおっさん。毎度、お気楽ですよね。気に触りません?同じ階級として? 警視。」

 車から出て行った本部長の悪口を後ろにいる人物に向かって、土屋巡査長は言った。

「お前は人のこと言うより先に、その未熟な腕でまじめに働け!!」

 後ろにいた探田警部補(先輩)にこめかみをぐりぐりと捻り込まれた。

明日の前線基地は南神ホテルのビルの少し離れた広場に設置している。中心となる装甲車内部に作られた本部では、回線のテストが慌ただしく行われている。公安部からの国際的暗殺の来日情報、そして過去に辛酸を舐めさせられ続けてきた愉快犯の確かな実在。準備の段階で計りしれない緊張感である。

後者の件だと超対課のトップで経験もある折原真央警視が本部長に抜擢されるが、元々は前者だけの予定で人選されたこの剛胆な男は先程のあほらしい振る舞いはあるが、その決める時の言動はとても説得のあり、外見からは誰も信じない博識ある采配で、「青臭い国」の警察機構で折原と並ぶ指折りの人物である。公安部の所属警視で名は空本天誅という。かつては双子の弟を亡くした過去を持つ――。

土屋にとってそんなのは関係ない。

「先輩。折原警視は?」

「一区切り着けたから、近くのコンビニでアンマン買って来ると出かけたぞ。」

「えっ。そんな!折原様!あなた様の好物は私目が既に購入しましたのに……。」

 本人の前ではぶっ殺される土屋の折原に向けての崇拝儀式。探田が刑の執行を代行し(というか、仕事もせずにただ遊んでいる見習いへの一喝)、脳天が屋根を突き破る音は、本部長空本を慌てて振り替えさせるに至った。

「(何とか、計画通りに終わりへ持って行きそうだな。)」

 空本は早合点して、この事態の終わりを見る。因みに、空本の行動は部下達の緊張をほぐして激励を与える真意があるのだが、あまり全体の効果は薄いようだ。



「ただ、馬鹿共の勢いだけだぞ!」

 と、小さなコンビニ袋を持った折原警視はツッコミを入れたくなる。事のあらましは耳元の携帯無線機から、テストで回線が開いている筒抜けの装甲車からの無線で分かっている。

 土屋と探田には、アンマン百個買ってこいや!!と終わってからパシリで使おう。もちろん自腹で。出来ないなら、給料から天引きしておこう。

 装甲車の中に持ち込むのも部が悪いので、何所か隅にあるベンチに腰掛けて食すとしよう。この春のキャンペーンで一律百円だったアンマンを!

「お偉い方は、忙しい中好物をありつけるんですね。」

「弾錠どのはお気楽なものだ。」

 下品な二人の男の声がする。体格がよく、屈強な鍛え上げられた若い男二人だ。金髪に染めて、規律違反のピアスまで開けている。ヘルメットはしていないが、身に着けている防弾チョッキと丈夫そうな紺の布地から、不良SAT隊員ということはよく分かる。

 折原はそれだけを確認し、目を合わせずそのまま、アンマンを食し続ける。

「このおばさんシカトしやがる。」

「このババァ!」

 一人の男が折原の肩を触ろうとした。

「ハムッ。」

 食べかけのアンマンを口に銜え、触ろうとした手を腕ごと引っ張った。重心を引きづられ、つんのめった男の顎に向かって思いっきり殴った。顎の骨に衝撃を与えたことで、骨伝いで脳で振動して軽い脳震とうが起き、白目向いて気絶した。

「あっ。」

 『弾錠』の一撃に倒れた仲間の姿に、片方の金髪は口をあんぐり開けて呆気に取られていた。その開いている口に倒れた金髪から奪い取った警棒を差し込んだ。

「むがが……。」

 苦しそうに刺さった棒を引き抜こうとするがびくともしない。折原は涼しい顔で即座に言い放った。

「アンマン買ってこいやぁぁぁ。」



 パチパチ

「いやぁ。お見事。お見事。『弾錠』未だに健在ですね。」

 男二人が中年女性にこてんぱんにしてやれた絵図に、場の正反対ののんびりした口調の男が拍手をしながら折原と金髪二人の間に入ってきた。

 男は金髪よりかなり歳を重ねた白髪頭だったが、同じ紺色のごつい服を着ているのでSATの隊員と言うことが分かる。周辺情報が警察のデータベースの機密に位置する存在が白昼堂々と笑顔でいるのも珍しいものだ。

「お久しぶりです。折原警視。」

「ひゃ、たいひょー。」

 笑顔のまま、警棒が口に刺さっているのを強く引きはがした。その後、顔面を思いっきり地面に叩きつけたが。

「すみません。『弾錠』の名に軽い気持ちでちょっかいを出した部下の不祥事を深くお詫び致します。」

 SATの隊長は深く頭を下げた。折原は口に銜えていたアンマンを手に取った。

「SATも緩くなったものだな。いつから不良警察部隊になったんだ?」

「いえいえ。申し訳ない話人材不足で、何かしらに飛び出た人材で賄っている状態で……。」

 二回にも及ぶアトーの襲撃により、当時の全世界人口の約六割が犠牲になった。二回ともの最終決戦地となった日本の犠牲者数は言うまでもない。十五年たった今でも人口回復のきざしが無いに等しい。

「でも、この二人は素行が悪いものの、体術と射撃ではSAT随一です。鼻高く、周りを蔑む振る舞いをする程に……。最も、『弾錠』の前には玩具でしたが。」

「いや。“強い”のは事実だろう。しっかりと鍛えられている。不意を突けたからいいものの、正面向では本気の二人には敵わないだろう。」

「ほう。では、こいつらの敗因は?」

「昔の二つ名があるとはいえ、普通の中年の女性という先入観があったからだろう。」

「ええ。高をくくるのがこいつらの悪い癖です。」

「…………まさか、それらを分からせるために仕向けたな。」

「はぁ。買ってこいと言われる前に、これを渡しておきます。」

 熱々の標準サイズの袋、ギュウギュウのアンマンを渡された。


 食べかけのアンマンを折原が食べきる頃、白髪のSAT隊長は口を開いた。

「それにしても懐かしいですね。怪盗×。何度あの縄術にやられたことか……。」

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