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「キモい!この変態!不法侵入!ドM野郎!」
という生理的憎悪からくる罵声を、眼下にいる涙目の同級生に送ることを変装中の古川椿は出来ない。
この着ている密着したスーツを合わせている時に、外が騒がしいなぁ~と窓の外から見てみると、親父の作った警備使用のディクがなぜか家に入ってきている無抵抗の侵入者に向かって攻撃をしているではないか!
血の気が引き、顔面蒼白のまま幸運にも戦闘態勢はばっちりの装備で窓を蹴破り、ワイヤーガンを狙い撃って右腕に巻き付け、声認証で動くスマホ端末でディクの強制撃退モードの中止を命令。拳を降り出したときに通常に復帰したが、慣性で止まらない。そして強力な牽引力を持つワイヤーガンの巻き戻し機構を作動させ、スーツによる筋力の底上げで銃そのものが飛んでしまわないようしっかり固定する。
人影を避けるように横転していったディクが停止した後、銃の結びを解き、通常モードで自立へと立て直そうとするディクの動きだけと飛び乗って確認した後、硬直して涙目の人影へ声を掛けながら直視した。
たった今まで、人一人殺した女子高生という見出しが願いとは違う明日の朝刊の一面に載りかけそうになり、圧倒的な自責の念が冷や汗と共に永久駆け巡っていた椿の心も、その顔を見たときは反応に困ったが。
と、同時に朝散々失望した折原登に対して分からない事柄が増えた。ふと、手元の改造スマホのメダリア計測器の数値が止級(メダリア階級最上限。最強!)を示し、一般人ならお帰り下さいと軽く閉め出す程度にプログラミングしていたディクでも、形而上“止級は即全力攻撃”にプログラムをしていた。この涙流している生身の人間へ即死する攻撃を行っていたのも、忠実にその命令に従っていただけである。見たところセンサーに異常もなく、正常に稼働していたので強烈なエネルギーを生み出したメダリア変換が行われた事実は間違いない。
こいつに少しでも期待した元々の理由が、志望した千武高校にたまたま同時期で「不良達三百人を単身で殺った」とか「超能力者を素手で軽く一ひねり」等逸話を持つ、とても強い奴が入学するという、とても不確定な風の噂耳にしたのがきっかけだ。
千武高校には『化け物達の巣窟』と呼ばれた前身私立高校の影響を受ける校風が、何かしら自分のやりたいことへの精進の道を突き進むベクトルの補助になると思ったからです。等と内容いい加減な優等生っぽく面接では言った。
確かに前身私立高校の裏で違法である生徒を検体に『超能力研究』の一環で、偽りの名目で全国各地の中学生をスカウトしていたという名残、考えたくはないが継続中であると言った公立移管の一説を元に推測は出来る。
しかし最初に言った通り、ただの噂でしか過ぎず、他の入学してくる超アスリート、エリートもどきに混じって誰かが言い出したことだろう。軽く息抜き程度にピタ○ラスイッチ並のトラップの構想をメモ書きした程度だ。
そんな噂の新入生を思い出すきっかけは三月末の都内の路地裏だった。
この『怪盗スーツ』の性能テストで、午前中で人の集まらない区域で早朝から色んなところに(半分探検感覚で)スパイ映画の一部分みたいにワイヤーガンで三次元に移動しながら、こそこそ潜んだり、侵入したり、油揚げ盗んだり(笑)。
そんなことをしている内の屋根を走っているときに、下の狭い路地裏で何やら特徴ある口調で、フード姿の女と金髪バカ二人ともめている状況したての段ボール持っている田舎者とでもめていた。
最初は田舎者をカツアゲしようと金髪二人は行動していたが、次第に二人が使う言葉に文句つけ始めたのから仲間割れし始め、業を燃やしたフード姿の女がペブロを使い、漬け物石を後頭部に殴打させて痛いこと叫びながら田舎者を襲うも、折角持ち上げた漬け物石で投げ返され倒されてしまい、田舎者自身も寝不足で倒れてしまった。
結局、最後に立っていたのは高見の見物をきめこんだ私だけになってしまった。だが、超能力と聞くだけで人々の印象は悪く危険なモノ(実際にそう)だと逃げ出すものだが、先入観無くハ級(打撲や軽い火傷を負わす程)に向かって躊躇無く攻撃したことに興味を持たないことは無いはずもない。
すぐさま警察がきて連行されてしまい、一晩牢屋の中の田舎者を張り込む状態になってしまったが、超能力者逮捕で有名な“弾錠”の息子で田舎者自身も底知れない潜在能力がありそうだと観察したり、調べていく内に分かってしまった。
これは明後日の計画に利用できると思い、推薦入試合格の時からこの見せすぎ感のある『怪盗スーツ』や『ワイヤーガン』を作ってきた設計図の山からメモを取り出し、そいつを元にこいつの捕獲計画を練って実行に移すも、とんでもないポジティブバカで……。衝動的に手錠をはめちゃったりして……。
「おい。」
ドスの聞いた男の声にびっくりし、慌てて前を向いたときには両手を使って頬をギュッと潰されてしまった。
「全部漏れているのですけど?古川椿さん?」
顔は笑っているくせに目は笑っていない折原登にゾクッと身震いした。
あの後腕を振り回され、左手首を咄嗟に掴むと腕が肘の部位から抜けてしまい、そのまま二人ともバランスを崩して横転しているディクから落ちてしまった。
立ち上がった後、朝のように再び絶叫を繰り返している自分の手から、彼女は無言のまま自分の手から左腕を奪い取り、向きを変えてすたすたと広い敷地の中でポツンと佇む彼女の家へ入ってしまった。
彼女が隻腕だったという事実を忘れたと言うことは無いが、気まずい空気の中、自分の今までの対応にどこか悪いところは無かったのかと考えてしまう。ほとんど一直線に自分の考え無しの抑制しない欲望に身を委ねていたということについて。
今日は引くべきだなと、バカな俺でもこれぐらいは察した。なんともよくまとめることは出来ないが、触れてはいけない奥底の傷口をむしっているような……。
入ってきた門の方向へトボトボ戻ろうとしていった時、手首に大きな違和感を感じる。それは彼女に昼間かけられた鍵穴のない手錠だった。それは今回無視することは出来る。飯を食うときは犬みたいに顔をつける事になるがこの際どうでも良い。
どこかポッカリ穴の開いた気持ちを抱えながら、いつもより重い足が動くのが再開する。




