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 本当に変人だった。

 日が西へ完全に落ち、街灯が灯る住宅街の電柱の影から、の登が肩で息をしつつ(運動不足)、前方三十メートルに歩いている古川椿を尾行し続けていた。

そこにいる姿は、左手には通学用の革製手提げ鞄。右手には木槌。顔には暗視用のゴーグルと統一性のない。というか、女子高生がおいそれと関わりのあるモノではない。

 尾行を続けるヘタレな奴が少ない時間で女子とお話スキルがレベルアップするわけもなく、夕方までずるずると時間を引き延ばしていった。

 しかし、今でも信じられないようなことに目を疑って、機会を逃したのが登の言い訳だ。

学校の校門出てから急に走り出したと思えば、たった五十分ぐらいで東京湾沿岸に位置する無人のスクラップ置き場で、あちこちの突起目がけて投げ縄の練習をしていた。(引っかけた廃車の先を素手でいとも簡単に引っ張り出したときはかなり目が飛び出たが。)

と思えばその後電車に乗って移動し、関東平野が一望できる高い鉄塔の展望場で双眼鏡を取り出し、高級ホテル『南神ホテル』をあらゆる角度で視線を変えて熱心に観察していた。

 その後、『南神ホテル』を鞄から取り出した暗視ゴーグルをかけて周りをぐるりと一周し、そのままの格好でドンキに行って大きな木槌を購入したのを左手に持って電車で帰ってきて今に至るのである。


「あれ。これって普通に女の子をストーキングしているだけじゃない? しかも、言い訳出来る程の出来事はないし。」

 今更気づく鈍感ヘタレ男『登』。追跡を続けて数時間。二人を照らしていた太陽のいた空は、明星の星が見えなくなり、一、二等星が確認出来る夜空へと頭上に広がっていた。

 本日猥褻罪を二回、不法侵入一回、女子に声を掛けた(未遂)の数五十四回にのぼっている。典型的なストーカーの潜在犯で間違えられてもおかしくない。

しかも、手錠をかけてはあはあ息を切らしていたらどんなドM変態野郎だ!

 待て。そもそも語弊があったとはいえ、理不尽に手を拘束された被害者ではないのか?そもそも人に危害を加えるというのなら相手に前科があるようだし、ちょっと悪戯心でふざけるモノなら、今でも体が凍結する勢いのトラウマがある程の怒られようで、こんな立派に成長に健全な男子高校生に非などない。

理不尽にも程のあるポジティブ主義が一人納得している時に、対象が前方右にある大きな家へ入って行った。


「ここか……。」

 古川椿が入っていったのは、住宅街の一角に武家屋敷に見られるような和風の白い漆喰を用いた高さ二メートルほどの白壁と針葉樹の列が三十メートルと長く続き、その真ん中に位置する玄関は太い木の柱やの木彫や立ちようが素晴らしい、日本の匠の技が濃縮された素朴な立派な佇まいの門があった。

(義父がロボット工学の第一人者とか聞いてきたけど、もしかして想像以上に凄い人なのか?)

 少し戸惑っていたが、このままやり過ごすと明日今の手錠をはめた間抜けな格好で登校することになる。男を見せてヘタレはここで決断した。

 両手の平を合わせた合掌の形でインターフォンのボタンを押す。

 ピンポーン

「すいませーん。」

 返事がない。

ピンポーン

「すいませーん。古川椿さんはおられますか?」

 反応がない。

ピンポーンピンポーン

「椿さんと同じ千武高校一年の折原登です。火急の用事がありまして……。」

 半分やけになって門の向こう側へ叫んだ。ほんの数分前に入っていたのだがらもうそろそろ反応が返ってきてもいいころだが……。

 ギー

 その言葉に答えたのか、金属の金具を軋ませながら大きな扉が開き、一人が通れるような隙間が出来た。

「お邪魔します。」と一応断りを入れつつ、どこかしら間をすり抜けた。

 そして、黒い鉄の拳で迎えられた。


ドン

たった一音の鈍い音が地面を重く響いたことを示す。

 登の受けた訪問先からのおもてなしは、とっさに右へ全力で回避したことによって丁重に御遠慮した。そのまま、スイカほどの大きさのある金属製の拳がほんの数秒前まで自分のいた石畳を突き破り、地面に数センチ陥没していた。

「お迎えにしてはそのままの意味で痛そうな歓迎だな。」

 屈強な人物(特徴…自分の破壊力に心酔。にやつく、ドや顔は必至。対策…その隙に退散されたし)相手にこの手のジョークは通用するだろう。直ぐに、登は目の前の存在に可能性を捨てたが。

無口な“奴”が前屈みで止まっているのがいつまでも続くと思った矢先に“目”が動く。自分の倍の大きさのある物体がゆっくり拳を引き戻していく。プシューと空気笛を鳴らし、“一つ目”の視線をこちらへロックしたまま。埋まっていた跡には自分の鞄がただの一枚の紙みたいにプレス状になっていた。

 やっと雲で隠れていた月明かりが、目の前の二足で立っている物体を照らす。それはずっと尻と手がかなり重く、地べたに着いて離れず、動けない登の前には大きかった。

「本当にこれは凄いな……。」

 そう登は呟いてしまう。目の前のいかれた警備ロボットに対して。

 

一番目が注目しているのは、軽く石畳を砕き、結構気に入っていた鞄を潰した鉄拳が、両側にぶらりと下がっている。これは物理的に侵入者を排除する。古典的かつ、でも攻撃力絶大、おまけに現在進行形でおっかない恐怖を覚えさせられた、確証済みの武器である。

 しかし、それを繋がっている揺りかごみたいな箱状の胴体と短足(足裏にキャタピラ)の全体像は、ただ冷静に見れば頭無しの胴長でくの坊にしか見えず、どこからか笑えるかもしれない(メカフェチ除く)。

 それでも胸にある赤く光る暗視用カメラで睨まれている登にはその認識はしていない。この独特なシルエットのロボには見覚えがある。

「そう言えば、父親はロボット工学の権威で有るとか聞いていたな……。」

 目の前の兵器に対して、登はいつもより強く歯を噛みしめているだけだった。

型式番号RS-01通称『ディク』元々は多目的建築作業用として設計された。パワーもさることながら、悪路にも軽々直立できるバランス能力を持ち、何より手を使えると言うことで従来の重機では対応出来ない繊細な動きも出来るという素晴らしく、同時に非常に頑丈にすることもでき、紛争地帯での地雷撤去への応用など、試作機の段階でかなり期待されたモノだったと言われる。

 そんな『ディク』の処遇を変えたのは、アトー軍団との最初の戦いの方『天と邪の日』以降である。突然襲来してきた軍勢によって東京の街はパニック状態にまで陥る。そんな中、地上には両腕に刃物のような形の腕を持つ人型生物兵器(一説には人間の約十二倍の身体能力)数体が空から振ってきて、逃げ惑う人々達を次々と瞬殺していった。

 生物兵器撤退後、そいつの被害が大きい区画では生存者が一人しかおらず、その人物は都内で開催していた『ディク』のデモンストレーションを兼ねたイベントの一環による試乗中の一般人で、『ディク』本体は刃によってかなりダメージを受けていたが、搭乗者のいるハッチ内部までは貫いてはおらず、救出されたときは外傷のほとんど無い無傷状態であったことから、『ディク』の兵器転用化が始まる。五年後の第二次アトー戦の『光』では、本格実戦配備された生物兵器に圧勝し、世界にその強さを示した。

 現在は、『青臭い国』日本国防陸軍の“象徴”として戦車と並んで運用されたり、メダリア高階級の超能力者対策として警察の特殊部隊で使われたりと、良くも悪くもその高い汎用性を多方向で発揮している訳だ。

 つまり、今の登の状況は蛇に睨まれた蛙状態で、圧倒的な力のある『ディク』を前に手も足も動けない状態であった。普通の男子高校生が、写真か基地の見学でしかお目にかかれないような兵器『ディク』に命を狙われているのは、まずあり得ないことだ。

 しかも悪いことは積み重なり、通常は有人の運用であの箱の中に人がいて暴走したとしても、緊急停止ボタンか自爆スイッチでも押して、普通の高校生を襲う状況を避けるはずだ(中身が狂人で無い限り)。

だとすると、遠隔操作か人工知能を使った自立式のモノか、はたまたハッキングされて手始めに俺を殺そうとしているのか……。後半の自意識過剰気味になったのを反省する暇無く、自宅に(さすがに武装はしていないが)立派な“兵器”を改造して番犬にしているロボット工学権威(?)の古川父に恨みを覚える……。

待てよ?本当に自分に非は無いのか。今日一日の振り返りは、同級生の服の乱れた姿を見て(不可抗力)、手錠を着けられ、解錠してくれと頼むタイミングをずっと逃がしたままずるずる尾行して、今日半日の訳の分からない行動に頭悩ませ、夜に彼女の家を訪問……。

(「あれっ……。ふつーにぶん殴られてもおかしくはないような……。」)

 無意識に少し『ディク』への注目を切らしてしまった。もとい、余所見をしてしまった。そう言えば、脳天に銃口を突きつけられていると同様な状況下で、それの愚かな行動は自殺行為に等しい。

 手首を鎖で繋がれた登が気づいた時には、目と鼻の先に拳があった。

「…………!?」

機械の作動音やキャタピラ靴の踏み込みから一瞬にして悟る。「これはだめだ。」と。

声帯が震えず、空気しか出てこない、自身の鼓動が早い緊張の高ぶりがとても気持ちの悪かった。本当に死んだわ……これ……。

反射的に目をつむって視界が遮られる。

「ああ。本当にバカだねっ。」

 そんな風に女の子に罵倒されること無く終わった。くそう。すべてあいつのせいだ。

と、その囚人は懺悔する暇もなかった。

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