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新連載です。
「はっはっはっ。私が怪盗answerだ!!予告状無しでアポ無しで、参上!!」
やっぱり、ちょっと恥ずかしいかな……。
月夜の灯りの下、人通りの無い河川敷でたった一人の気の良い声が闇に消えてゆく。
ここで、黒い自作の衣装を纏う、目を隠す白い仮面の少女はただ独りで練習していた。
ある計画までもう一ヶ月を切っていた。
春分は過ぎたものの、夜の外はまだ寒さがしつこく残っているこの日頃である。そして、水辺でもあるため、ここに吹く風は非常に冷たい。
「へっくしょん。」
寒い日は仮面じゃなくて口元を覆うマスクにしようと思う。息は少し苦しくなるけど。
唯一肌の露出を許している頬の他にも、体全体を黒い独特な布地の上から摩りながら、夜風で冷えた体を温めさせる。
そしてシルエットが前身一体の“怪盗スーツ”によって露わになっている少女は動いた。
彼女は両手で腰にぶら下げた縄を持ち、空中で模様を描くよう。まるでねじれた縄に命が宿っているように体を使って操る。次第に技名を連呼しながら綺麗に決まっていき、体の温まりが良くなってきた。
腕を大きく広げ、片足を高く持ち上げ、腰はくねり、まとめられた長い黒髪は泳ぐように体と共に揺れる。周りに広げている縄の形は反射と形の具合で大輪の花にも、空を駆ける龍にも、永遠に広がる銀河にも見える。
そんな流れる潺の川に月光に照らされ反射する怪盗の姿は、まるで正反対の神楽を踊る巫女のような――美しく澄んだ禁断の光景はいつまでも続くかの様に思えた。
「ゲコゲコ」
とんでもない“奴”の接近に少女は脱兎のごとく逃げ出した。その両生類との体格比に大きな差があるにも拘わらず、誰にも聞こえないことの無い高らかの悲鳴と共に。
滑稽な“快(?)逃”の姿の後に、取り残されたこの河川敷の覇者はもう一度「ゲコー」と鳴いた。
※ ※ ※
それより時間が遡り、十五年前の秋――。
形は違えど、世間を震撼させた『大怪盗』が一人――。
華麗に人々の前に登場するも、写真や映像が残させない謎の存在。そして行動・言動。
そいつの名は――。
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