毘沙門天曼荼羅
各々の武道において奥義を極めていた
武術の達人が二人、対峙した。
二人の達人は微動だにせず、
互いの気迫が静かに衝突し、
無数の技が残像と成って現れた。
神速が見せる残像か、気迫が創り出す幻影か、
達人当人であっても判らぬ事象であった。
幾重もの残像は将に
不可説不可説転の糸を絡ませ、
毘沙門天曼荼羅を紡ぎ出すかの如し。
其の刹那、上空に一羽の鴉が飛翔した。
鴉は達人の一方に糞を浴びせ掛け、去った。
「……儂の負けじゃ。」
禿げ上がった頭を糞塗れにしつつ、
達人は左様に申した。
窮極の闘いに雌雄を決するには、
諸行無常に委ねるのみであったと云う。