05:全滅
「王の称号を賭けて、決闘を申し入れます!」
異世界に送り込まれた少年、マレは目の前に君臨する者に申し入れた。
――決闘の。
異世界の王になった少女、愛心は少年の言葉に、ニヤリと口を歪ませる。
「へぇー、マレ君……無謀だね。実力差が分からないのかな?」
愛心の隣に立つライオン型のプロモン、ラートが前へと出る。
ラートの表情から読み取れる、愛心の敵ならば我は容赦はない、と顔を怒りの色に染めている。
グワルル、と殺気と共に漏れる威嚇の声で、クリーンは3歩下がり、テッラは腰を抜かしたようにその場にへたり込む。
「ほら、そこの2匹は物分かりがいいじゃん。それに比べて君は怖くないの? 私の隣にいるのは、君の目の前にいるのはライオンだよ? 普通は見ただけで逃げるんだけどだな~……」
「ごめんなさい、何故だか恐怖心の”き”の字も湧きません。でも逆に王になれると思うと、ワクワクするのです」
「……マレ君って変ってる」
「ははは、どうも。貴方も僕に負けないくらいの変人さんですよ」
自分たち置いてきぼりに、会話を進めるマレと愛心。
テッラは思う、無理だ敵わない……と、体を震わせている。
その更に背後から掃除人ことクリーンが、4体を見据える。
――正確には、男の人型。マレを、だ。
(絶対におかしすぎるだろ。王のプロモンの威圧や殺気を感じられないとか有り得ねぇ)
「マレ君、もう一度だけ選ぶチャンスを上げるよ。本当にやるつもりかな?」
「僕の答えは揺るぎません」
即答。
「待てよ! 勝手にゴチャゴチャ決めてんじゃねぇぞ! 目の前にいるのは化物だぜ!」
「もちろん、そのくらい僕にでも分かりますが。それが何か?」
「なぁっ……わかってるだと? なら何で?」
「化物を倒して、僕たちが化物になるため。それ以外に何があると」
それがマレが求めるものだった。
化物の称号。
「な、何でそんなモンを欲しがるん――」
「え?」
「ア!」
クリーンの言葉は遮られた。
言葉でも、威圧でも、殺気を感じたからではない。
――物理的に、だ。
ライオンの大きな脚がクリーンを大空へと殴り飛ばした。
刹那、空を舞うクリーンの体が刃で斬られてるかのように傷ついていき、
――斬撃――
体が真っ二つに割れた。
「なんでボーっとしてるのかな。君が宣戦布告の受けた瞬間から戦いは始まっているんだよ」
「……さすがにこれ」
「バカじゃないの。決闘とは殺し合いの事なんだよ。ラート」
「ああ」
――刹那――
「エ?」
ラートはマレの後ろに立っていた。
そして彼の背後に縛り付く犬型のプロモン、テッラを、
「はっ! やめて下さい!」
噛み砕く。
上顎が背中を、下顎が胸を、巨大な牙が小さな体を貫く。
骨を砕き、肉を食らう。
「あ、あぁ……テッラ、クリーン」
王の実力。
仲間の死。
そしてマレは漸く実感する。
先ほどは感じなかった王という存在の大きさを。
「……僕は……俺は……」
恐怖と喪失。
二つのモノを同時に味わったマレの中から、逃げるという選択肢は消えていた。
否、思考する為の脳が異常停止したみたいに動かない。
「残念だ……決闘なんか挑まなきゃ友達になれたかもしれないのに。ラート」
「承知」
愛心の呼びに短く答え、右脚を振り上げる。
「……」
「バイバイ、マレ君」
――衝撃――
雷と化した一撃が、地に落ちた。