04:王降臨
「やぁ、僕はマレ=グラン。大丈夫ですか? 怪我とかは?」
少女は首を横に降る。
良かったと、マレは安堵の溜息をつきながら。
少女に手を貸して体を起こしてあげる。
「僕の他に人間がいた事に驚きですよ。プロモンしかいない世界と言われてましたからね」
「この人型、オ前よりイイ匂イがするな。人型って匂イの差がアり過ぎる……」
テッラはマレと少女の匂いを交互に嗅ぐと。
マレから"少しだけ離れる"
「それってつまり遠回しに僕が臭いと仰ると、馬鹿犬さん?」
「ウん」
ハッキリと頷く。
「はぁ~ナルホド……馬鹿犬さんは頭だけでは無く嗅覚も馬鹿なのですね……分かります」
「アホか! 僕の嗅覚はプロモン一なんだぞ!」
「いたいたいた痛いです。スミマセン、僕が悪う御座いました! だから噛まないでください!」
その光景を落ち着いて眺めるクリーンは。
やれやれと、肩を竦める。
「お前ら……特に人形。テメェはそんな事してる場合かよ?」
「ああ、確かにそうでした」
マレはテッラをスルーして、少女に近づく。
そして言う、
「ねぇ、何かと話す事はあるかと思いますが。先ずは君の名前を教えてくれますか?」
「…………」
「あの、名前を……?」
少女はマレの質問に答えない。
ただ目の前に立つ少年を見据える。
「もしかして、どこか具合でも悪くされたとか?」
「…………」
うっ一体どうしたモノかと、マレが迷っていたら。
「……そういえば、この人形の匂い……何処かで嗅いだことあるような」
「オ前も? 実は僕も同じ事を思った。でも……アイツじゃなイよね」
「え? 何の事ですか?」
二人の会話に首を傾げるマレ。
瞬間、ニヤリと少女の口元が歪んだ。
不気味な笑みを作った。
「やっと気づいたんだ……”掃除人クリーン”。それに”塵犬テッラ”」
「っ! ……テメェ何で俺の二つ名と名前を知っている?」
クリーンは少女から距離を取り牙を向ける。
実は”クリーン”という名前を知るモノは極小数だけなのだ。
砂漠の将の二人、先生、砂漠の王と此処にいる二人のみ。
だから、警戒している。
「ご……ごみ……ご、み」
逆にテッラは目を見開きながら体を震わせている。
何故か?
一つ、女の人型の正体がわかったから。
一つ……思い出してしまった。
否。思い出せられた。
――忘れたい記憶を。
「何か仲間はずれにされた気分なのですけど、一体何が?」
「おい! 人型と犬! その女の人型から離れろっ! ヤバイ感じがする」
「え? 何を言って……」
「ふーん。掃除人クリーンはまだ私が誰か分からないんだ。それに比べて塵犬テッラは優秀だな……”後でご褒美をあ・げ・る・ね”♪」
「イア!」
ニッコリと、テッラに向けて笑う。
ご褒美という単語に猛スピードで反応し、マレの後ろに隠れる。
(どういう事でしょうか……あの強気で生意気なテッラが、此処まで恐怖している? 少女にか。いや、違う。別の何かに、だ)
マレは目を閉じて神経を一点に集中させる。
第六感。
クリーンの攻撃を受けてから、見えないモノを見えるようになった。
この世界にきた影響で手に入れた神様からの特殊能力という名のプレゼントかもしれない。
――殺気――
「! クリーン。シンボルタワーに一番近い木を倒してください。テッラが危ない! 何も言わずに早く」
「はぁ~? 何かしらねぇが、分かった」
クリーンは走る。
マレに指示された通りにタワーに近い木を攻撃する。
[Gatling E.Bullet]
開かれた口から出た無数の弾が放たれた。
緑色のエネルギーバレット。
「へぇー、マレ君やるねぇ~。思っていた以上だ」
弾は木に当たる目の前で、見えない壁に吸収されたかのように消えた。
瞬間、パリンという音と共に”空間が割れた”。
割れた空間の中に広がるのは亜空間。
「ひゅぅぅうう、何なんだ。これはよ……おい、人型」
「クリーン、気をつけてください。中に何かいます」
「え?」
――刹那――
クリーンの隣を、マレの隣を強い風が横切った。
風は少女の前でピタリと止まる。
「自己紹介が遅れたね、マレ君。私の名前は紀之川 愛心」
風に、否。ライオン型のプロモンに抱きつき少女こと愛心は言う、
「この子は私のパートナーの”ラート”。そして私達、二人で一人の砂漠の”王”ね。よろしく」