第64話 売っちゃった
横に並び立ったシロナはその可能性を意識してたのかな。
たぶん、忘れてたんだろうな。
水龍の攻撃がこっちに向かって来るけど、お守り石の効果が発動して、僕達を守ってくれた時に、「あっ」って言ってたし。
「うわっ、ニルバっち女の子にかばわれてる、弱っ! あれ、なんで武器違うの持ってるの? 前はもっと強いのあったのに」
アリッサまで戻って来たのか……。
石化してない所を見ると、アイテムが間に合ったのかな。
「そんなんで窮地に陥るとか、間抜けっぽいよー」
うるさいな、攻略組として活動してた時に使ってた武器は、何か持ってるとムカついてくるから、売っちゃったんだよ。
家買う為に。
心の中でも、文句を呟いていると、背後が煩くなるのを感じた。
大勢の人の気配。
どうやら、非戦闘職のプレイヤー達じゃないみたいだ。
彼らは慣れた様子で、段取りや役割を決めていって……。
「ニルバさん、皆さん助けに来てくれましたよ!」
「は?」
え、何それ。
そういう事。
君達逃げたんじゃなくって、助けを呼びに行ってたの。
はぁー?
普通戻って来る?
この状況で?
もう一度言って良い?
はぁー?
馬鹿なの。
そこまで馬鹿なの?
むしろどこまで馬鹿なの?
「ははっ」
何だか、急に色んな事が馬鹿らしくなって、笑いが込み上げて来た。
一人で見ていた世界は結構冷たくて寂しく見えたのに。
案外この世界って、割と親切なのかもしれないな。




