第58話 水龍出現
そういうわけで、近くのギルドホールまでの道順を頭に思い描くんだけど……。
頭上に何か強大な気配を感じた。
バサリ、という羽ばたきの音が聞こえて。
夜空に全く星月の光が遮られ、影が落ちる。
視線を上げて、頭上を振り仰げば、そこには脅威がいた。
「嘘でしょ……」
嘘にしてほしかった。
空いた口がふさがらない。
よりにもよって、こんな事ある?
運命なんてくそったっれだ。
今、この町にどれだけのプレイヤーとモンスターがいると思ってるんだよ。
その中で、何で僕達の所に来た。
「に、ニルバさん。あれは……」
シロナ達もとっくにそれの存在に気づいてる。
そんじょそこらのモンスターとは孫愛感が違うわけだ。
存在するかどうかも分からない威圧感が、こっちにのしかかってくるようだった。
水龍。
離れた所で、巣を守ってるはずなのに。
近づいたモンスターしか相手にしてないはずなのに。
何でこんな所うろついちゃってるわけ!?
水龍はこちらを見下ろしながら、一呼吸。
でもそれは、ただ息をするための呼吸の動作とは明らかに違った。
何かのタメ。
決定的な動作の前の予備動作。
水龍は攻撃してくるつもりだ。
誰に?
僕達にだよ。
「っ!」
え、なにこれ。
全然笑えない状況なんですけど。
自分の表情がひきつって行くのをかんじながらも、瞬時にいくつかの選択肢が脳裏に浮かんだ。
一つ。僕だけさっさと逃げる。
装備品の効果を使えば、たやすいはずだ。
二つ、シロナとアリッサだけ連れて逃げる。
アリッサだけなら、自力でなんとか逃げられると思う。
こんかいはアレだったけど、情報屋としてそれなりに活躍しているはずだから、足は悪くないはず。
シロナが反応できるか分からないから、そっちは僕が抱えていけばいい。
で、三つ。
この場に留まって、皆を守る。
愚策だ。
今の今まで顔もしらなかった人達をまもるなんて、おかしい。
水龍なんて、複数にプレイヤーが束になって討伐するような高レベルモンスターじゃないか。
この場に留まっていていい事なんてなにもない。
だから……。




