第120話 シロナのきっかけ
シロナがオンラインゲームを始めたのは、ただの偶然だった。
特にゲームが好きというわけでもなく、身内にそういった趣味のものがいるわけでもなかった。
ただ単に学校の授業で近未来技術に関する宿題が出たので、試しにやってみようと思っただけだ。
オンラインゲームの実現は現在のことで、未来のことではないが、かつての未来が今になったことについてまとめればいいと考えた。
その時点ではほかにもいろいろな調査対象の候補があったが……。
幸運な事に父親が以前勤めていた会社で、そういった関係での伝手があり、さらに目を向けることになる。
使わなくなった機械と、間違えてネットで購入してしまったというソフトを譲り受け、オンラインの世界へ飛び込んだ。
もちろん、マナーも何も全く知らない状態ではいけないと、最低限の知識がしらべてからだ。
しかし、シロナが参考にしたサイトは、お行儀のよい物ばかりだった。
そのため、実際に横行している悪辣な行為は知らなかったし、暗黙の了解についても同じ。
ゲームを始めたばかりのシロナはその点で何度も痛い目を見た。
それでも、宿題を終えてからも度々ログインしていたのは、彼女が人間付き合いをどこまでも真面目だったから。
いきなり消えては失礼と思った彼女は、やりかけのクエストや、知り合いに全員挨拶をするまではと、ゲームの世界に降り立ち続けた。
そうこうしているうちに巻き込まれてしまったのだ。
死んだら終わりのデスゲームに。
最後に両親と交わした言葉は、遊ぶ時間の約束。
シロナは「ファンタジー・オンライン」がデスゲームになった日に、その約束をやぶってしまっていた。
両親にもう一度会えたのなら、謝りたいと考えているが、それはおそらく当分先のことだった。
現実世界に帰還したら両親にごめんなさいを言う。
それがファンタジー・オンラインで過ごす、シロナのモチベーションだった。




