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Act.5


 ここまでは大方予想通り。

 魔法の開発や研究をしたいた俺にとっては造作もない事。

 だが、魔法を構築して展開までは上手くできるのだが、魔力を魔法陣に流して発動するタイミングを、練習無くして成功させるのは至難の業だ。


 無詠唱で放つにはタイミングや感覚が非常にシビアなので、この魔法をそれで発動すれば失敗する可能性が高い。

 いや、確実に失敗する。

 それでも、詠唱した場合なら大気中に存在する微量の魔力を利用する事ができるので、多少のタイミングや感覚のズレを誤魔化すことができる筈だ。

 魔法陣の大きさから必要な魔力と威力を逆算する。


「……サクヤ……」


 アリア透き通った碧眼はサクヤを見つめ続け、胸の前で両手を組み成功することを祈る。

 自分の我儘を聞いてくれた俺に感謝をしているが、それ以上に大きな罪悪感をアリア自身が感じていた。


 俺はアリアのその気持ちに気付いていた。

 だからこそ、アリアには喜んでもらいたいし、そんな事で悲しまれたくもない。

 成功すれば彼女の罪悪感はきっと拭えるだろう。


 俺は()()と呼ばれていた男だ。

 魔法の王と書いて魔王……。魔王に使えない魔法など存在しない!!


聖なる閃光撃(サーデ・リュエール)


 俺が詠唱すると、右手から魔石に向かって一筋の閃光が放たれた。

 閃光が魔石に当たると、轟音が周囲の空気を震わせながら、魔石を粉々に粉砕した。


「……」


 辺りが静寂に包まれた。

 試験官は何が起こったのか理解できないといった表情で立ち尽くしており、他の受験生もアリアの時と同じく唖然としている。


「サクヤ……すごい……」


 お願いしたアリアも、そう言っている時の表情は、驚きを隠しきれないようだった。

 俺は何事も無かったかのように、アリアのところに歩いて戻った。


「アリア、あれで良かったのか?」


「え……あ、うん……ありがとう……」


 俺の問いかけに、そう言って微笑んでくれたアリア。

 それを見て、俺の体温が上がったのは言うまでもない。

 その笑顔が見れるなら何度でも聖なる閃光撃(サーデ・リュエール)を使ってみせよう。


 しばらくして、試験官はハッと我に返り、次の指示を出そうとする。


「えっと…実技は以上だな。今日の試験はこれで終わりだ。明日は実践試験があるから八時には学園の入口に集合していてくれ。それでは解散!」


 試験官はそう言い残して、校舎の方へ早歩きで去っていった。

 受験生達はその声を聞いて、少しずつ解散し始めた。

 こうして試験初日が終わったのだ。


「なあ、アリア……」


 俺は肝心な事を忘れていたので、アリアに声をかけた。


「……どうしたの?」


「さっき言ってた実践試験って……何の事だ?」


 俺は入学試験は筆記と実技だけだと思い込んでいたので、実践試験を知らなかった。

 こんな大事な時にやらかしてしまうとは……。

 不覚にも、完全なる試験日程の確認不足だった。


「……確か二人でパーティーを組んで……受ける試験だったはず……」


 アリアはそう言って、俺に試験の内容を教えてくれた。

 なるほど、二人でパーティーか……。


 ………待て待て。


 二人で……だと?

 俺は誰と組めばいいのだ!?


 王都に着いてから唯一話した受験生は……。

 俺はアリアを見つめる。

 すると、アリアも俺の視線に気づいたのか、俺の方を見つめた。


「「あの……」」


 そして俺とアリアは同時に声を発した。


「ごめん、アリア先に言ってくれ」


 俺は咄嗟にアリアに謝った。


「……サクヤが迷惑じゃなかったら……一緒にパーティー組みたい……」


 一緒にパーティー組みたい……。

 パーティー組みたい……。

 組みたい……。


 アリアの声が何度も俺の脳内で再生される。

 な、なんて良い子なんだ……。


「……ダメ……?」


 アリアはそう言って俺を見つめる。

 その上目遣いはずるいぞ!!

 俺はニヤけそうな口元を咄嗟に手で隠した。


「むしろ歓迎するよ!」


 俺はアリアの反則的な上目遣いをまともに見れなくて、目を逸らしたままそう言った。


「俺にはアリアが必要なんだ」


 俺はさらに照れ隠しで、アリアにもう一言呟いた。


「えっ……!?」


 アリアは目をパチパチさせながら、驚いて声を発したようだ。

 ちょっと冷静に考えれば、今日初めて会った人にいきなり、お前が必要だなんて言われたら、ドン引きされるに決まっているだろ……。


 俺は恐る恐るアリアの方を向く。

 俯いていて表情は分からなかったが耳まで赤いようだ。


 これは絶対怒ってるよな……。

 これだと、試験に合格して学園に通う事になった時に、学園生活が気まずい事この上ないだろう……。


「……ホント?」


 そう言ってアリアは俺の方を見つめる。

 意外にも、アリアの表情は照れているようにも見えた。


「あ……ああ、本当だとも」


 嘘じゃない。本当にそう思った。

 アリアの力は実践試験に必要不可欠だ。


「ありがとう……サクヤ……よろしくね!」


 そう言ってアリアは最高の笑顔を見せてくれた。


 俺はその後、アリアの泊まっている宿屋まで彼女を送ったのだが、その間はお互い照れくさくて終始無言だった。

 まあ、別れ際にアリアが『おやすみ』と言ってくれたことを除けばだが。


 そんな事もあって宿屋に戻ってベッドに入っても眠れたものではない。

 アリアの事を考えるとドキドキしてしまい眠気さえも吹っ飛びそうだ。

 それに自然とニヤケてしまう口元を、どのように抑えればいいのか分からない。

 前世から通して経験が無かったが、これが一目惚れというものなのだろう。


「これが恋の魔法というものなのだろうか? うん、ちょっと何言ってるか分からない」


 独り言を呟いたが、すぐに恥ずかしくなってしまい、自らツッコミを入れた。


 あまりに寝付けないので散策しようと思った俺は、少しだけ部屋を出る事にしたのだが、部屋を出てすぐに見回りをしていた店主とばったり遭遇した。


「坊主、こんな時間にどうした? 眠れないのかい?」


 店主は心配そうに俺に聞いてきた。


「まあ……色々とあってな……」


 アリアのことを言うのも恥ずかしいので、俺は言葉を濁した。


「なるほどなー」


 店主はニヤリと口角を上げて理解したかのような表情をする。


「明日の実践試験が不安で眠れないのだろう?」


 そして続けざまにそう言ったのだ。


 えっ……?

 的外れな店主の発言にツッコミそうになるが、ここでは抑えておこう。


「まあ、そんなところだ……」


 俺は適当に答える。


「大丈夫だ、学園の敷地内でパーティーを組んで簡単な冒険の演習をするだけだからな」


 店主はニヤリと笑って教えてくれた。


「えらく詳しいな……」


 俺は店主が試験内容を知っていた事に少し驚いた。


「なーに、ワシも昔試験を受けた事があるってだけの事だ」


 店主はそう言って、遠くを見た。

 当時の事を思い出しているのかもしれない。


「そうだったのか」


 俺は店主に相槌を打った。


「眠れない程不安になる必要は無いんだから、休んだ休んだ」


 店主はそう言って手の甲を振った。


「そうさせてもらう。おやすみ」


 店主のさりげない気遣いに感謝しながら、俺は散策を中断して部屋に戻る事にした。


 確かに理由はどうあれ眠れないのは問題だ。

 明日の試験で何が起こるか分からないし、万全を期して挑むのが一番だから。


 明日に備えて俺はベッドに寝転ぶ。


 そうして意識が途切れるのに、時間はかからなかった。



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