Act.25
確かにクロウドの言う通り、現世で魔族を倒せるのは俺だけだ。
そうなると、俺だけでは防ぎきれない範囲の被害を、如何に上手く食い止めて、最小限に抑えるかが鍵になる。
「ところで、悪魔への対策はある程度は練られたのか?」
俺はクロウドに尋ねる。
「まだだ。私の予想ではあるが、悪魔の狙いは分霊だけでなく、魔王も含まれているだろう。それならば、お前が侵攻してきた魔族を倒せば良いではないか」
クロウドは開き直ったようにそう言い、俺に視線を送ってニヤリと笑う。
倒すのは俺の役目になるが、それは過信であり、他力本願と言う他無いだろう。
確かに悪魔の立場から考えると、邪魔な存在になる俺やクロウドを含む分霊を狙うのは至極当然。
その考え通りに侵攻されてしまえば、魔族相手にまともに戦えるのは俺だけだ。
だが……もし、多数の魔族が一気に押し寄せて来た場合、俺一人でアリアやクロウドを庇いながら闘うのは不可能だ。
それどころか、甚大な被害が出るだけだろう。
悪魔が侵攻してくる前の段階で、手を打つ必要があるな……。
それに、前世の時代の魔族の魔力であれば、俺の予想の範疇にあるのだが、悪魔の魔力に関しては未知数だ。
万が一俺の魔力を上回る事があれば、仮に防御結界を展開したところで、無事に生還できる保証は無い。
「私やお前が現世に現れる事、そしてこうなる事も、悪魔にとっては必然であったのだろう」
クロウドは腕組みをしながら俺に言った。
「まさかな。前世の頃からの歴史が、悪魔によって計画的に創られた可能性があるとでも?」
俺の言葉に、クロウドは無言で頷き肯定した。
「俺やクロウド……そして、勇者クロウも悪魔によって創り上げられた歴史の犠牲者という事か?」
俺の呟きにクロウドは下を向き返事をしなかった。
先程の使い魔の件もあるのか、クロウドは悪魔の創った歴史を辿っていると痛感したのだろう。
いや、待てよ……。
そんな単純な話では無いな。
確か使い魔は、俺が居ない間に侵入した。
それなら、何故悪魔にとって邪魔な存在となる二人を殺さなかったのだ?
使い魔とはいえ魔族なのだから、戦闘能力は人間と比較すれば遥かに高い。
使い魔程度でも、アリアとクロウドが共闘したところで、倒せる確率は限りなくゼロに近いだろう。
しかも、使い魔は不可視魔法と隠蔽魔法を使っていたのだから、気付かれる事無く二人を殺す事くらい容易な筈だ。
これは……あえて殺さなかったと捉えるべきなのだろうか?
少なくともここに居る人間は、悪魔にとっては目障りな存在になるのだから、あえて生かしておくなんて事は有り得ないだろう。
まさか……悪魔の正体はクロウドなのか!?
考えたくは無い事だが……。
仮にそう考えるのであれば、この学園に集まった分霊は、全て悪魔の仲間となる。
もしそれが事実だとすれば、高い魔力を隠し持っている可能性も無いとはいえない。
先程考えていた分霊の概念が、見事に覆される事態だ。
悪魔と分霊に、一気に攻められる事があれば、さすがの俺でも殺されてしまう可能性がある。
前世の俺を討伐するために現れた勇者クロウ。
それが、もし悪魔クロウだったとすれば、奴は俺の転生魔法をわざと成功したかのように見せるため、一芝居を打っていた。
つまり、俺は悪魔の掌で転がされていただけなのだろう……。
という事は、アルメスにも悪魔の分霊が宿っていた事になる。
ならば、その娘のアリアはどうなる……?
分霊の娘なのだから、俺を始末する存在になっていてもおかしくない。
だが、アリアは俺を好きだと言ってくれた。
それはアリアの本心だったのか?
それとも、俺を油断させるための悪魔の囁きであり、誘惑だったのだろうか……。
アリアの気持ちでさえ、分からなくなってしまう。
俺が疑心暗鬼に陥る事でさえ、悪魔にとっては想定の範囲内なのだろう。
「どうしたサクヤ? 顔色が悪いようだが大丈夫か?」
クロウドはそう言ってニヤリと笑う。
「サクヤ……無理はしないで……」
アリアはそう言い、俺に寄り添う。
心配してくれるアリアの言葉は、はたして彼女の本心なのだろうか?
分からない。分からない。分からない。
アリアは心配して頭を撫でようとした時、俺はその手を払ってしまった。
「……えっ……?」
アリアは驚きながら、俺に払われてしまった右手を、左手で触りながらこちらを見る。
「ごめん……アリア……」
俺はアリアに謝り、悪魔の思惑通りにはなるまいと抗う。
だが、俺は見事にその術中に嵌ってしまったようだな。
「クハハハ……どうしたサクヤ? お前らしくないぞ?」
俺の様子を見てクロウドは笑っている。
いっその事、クロウドに思い切って聞いてみるか?
いや、クロウドなら上手く調弄すだろう。
だが、一人で考えて悩んでいても、仕方の無い事だ。
「俺らしく無いか。確かにそうだな……」
俺はそう言ってクロウドを睨み、ニヤリと笑う。
俺が動揺している事をクロウドに悟られてはいけない。
できる限りの虚勢を張る。
「その様子だと……気付いたのか?」
クロウドは俺に尋ねて口角を上げる。
その表情よりも、何時でも俺を倒せる距離にいるクロウドから、殺意を全く感じないのが余計に不気味だ。
「ああ……。考えたくは無いが、あれを見たらな……」
俺はそう言い、魔剣によって絶命した使い魔の方を向いた。
「なるほど……。流石に見逃さなかったか……」
クロウドは俺が気づいた事に察したのか、ニヤリと笑って拍手をした。
「……」
俺は言葉が出てこなかった。
貴族に紛れ、王族さえ手玉に取る黒幕。
その正体が、まさかクロウドだったとはな。
「クク……クハハハハハハハ……。……一度希望を持たせておいて、そこから突き落とした時の表情は格別ではないか……」
クロウドは高笑いをしながら俺の方を見る。
「アリア……」
俺は思わず名前を呼び、アリアの方を向いた。
「……そんな……」
アリアは俺が手を払い除けた事に驚いていたのだが、さらにクロウドの態度も豹変してしまったこの状況が、彼女の動揺にさらに拍車をかけてしまい、ただ呆然と立ち尽くしている。
「サクヤ、信じるか信じないかはお前次第だが、アリアのお前への気持ちは本物だ。まあ、失敗作の感情など……私にとっては、どうでも良い事だがな」
クロウドは、俺とアリアを交互に見ながら言い、愉快そうにククク、と笑った。
アリアは、失敗作という言葉が自分の事を指している言葉なのだと気付いているようだ。
クロウドに言われた悔しさからなのか、アリアの頬から一筋の涙が零れていた。





