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Act.1

 魔族も人間も魔力を持ち、魔法を使う事が当たり前だった時代。

 平凡な日常が退屈だったからという、それだけの理由で魔王が人間を大量虐殺した事により、勃発したと言われる種族間戦争。

 人間達は、残虐非道の悪の根源である魔王の討伐を決意したのだ。


「またお前か」


 俺はそう言って銀髪の男、勇者クロウを睨んだ。


 巨大な城(フェルネ)の玉座に座る俺のもとへ、()()勇者クロウが現れたのだ。 

 クロウも同じように鋭い目つきで、俺を睨みつけている。


「魔王サクヤ!! お前を滅ぼして世界の平和を取り戻してやる!!」


 勇者クロウはそう言いながら、銀色の髪を(なび)かせて、曇り一つないミスリルの剣を振り、その剣先を俺に向けてきた。


 どうやら刃の部分には、強力な消滅魔法をかけられているようで、螺旋状に呪文が浮かび上がっていた。


「勇者クロウ……お前は懲りることなく、何度も俺に立ち向かってくるな。そもそも俺を倒したところで、世界は平和になるのか?」


 会話に慣れていない俺は、それに気付かれないように冷静を装い言う。

 そのまま足を組んで頬杖をつき、勇者クロウを見下ろした。


 どうしてこんなことになったのだろうか……。


 俺はこの世界の僻地(ザームカイト)に、自らの魔法で巨大な城(フェルネ)を築き上げ、魔法の研究や開発をしていただけ。


 僻地に城を築いたのは、単純に誰かと関わることが苦手だから。

 実際に誰も訪れた来た事がないので、この僻地を選んだのは正解だったのだと思っていた。


 こうして俺は、なるべくして()()()になったのだ。


 元々は魔力はごく平均的な魔族だったのだが、今纏っている膨大な魔力は、研究しているうちに偶然完成した、()()()()()()()()()()のおかげなのだ。


 そもそも、ごく普通の魔力しか持っていなかった、ぼっちな俺を倒したところで、本当に世界が平和になるのか。

 それを、俺はかなり疑問に感じているのだが……。


 クロウの態度を見ていると、その疑問を彼に問いかけても無駄な事なのだと思い知らされる。


「当然だ!! 悪が滅べば平和な世を迎えられる!!」


 勇者クロウは俺を睨みつけながら、剣を構えてそう叫んだ。

 どうやら、俺が倒されたら世界は平和になるようだ。

 倒される側の俺だって、平和で皆が幸せな世界を望んでいる。


 世間が人間と魔族の種族戦争に発展している頃、こんな僻地に怪しい城があり、しかもそこに強い魔力を持った魔族が住んでいる。

 その事実を人間達は偶然発見した。

 そして俺は、残虐非道の悪の根源だと勘違いされてしまったようだ。


 偶然に勘違いが連鎖した結果、俺は不幸にも魔王だと決めつけられてしまった。

 その魔王を討伐するために勇者クロウが、こうして俺の元にやって来たのだ。


 この僻地を選んだ事が、どうやら仇になってしまったみたいだ。


 勇者クロウは魔王が消滅するまで死なない。ご都合主義の『不死』というスキルのおかげで、倒してもこうしてやって来る。

 これで二〇回目の戦いになるのだ。この無駄な戦いも、そろそろ終わりにしたいのだが……。


 いくらそんな事を思ったとしても、この戦いは魔王である俺が滅びるまで終わらない。


 クロウを含めた人間達の世界の常識では、強大な魔力を持った魔族は魔王。それは即ち悪の根源であり、残虐非道な存在だ。


 だから、その悪を滅ぼせば世界平和が訪れる。……という極論な図式が成り立っていた。


 そのため、クロウは平和な世界のために俺を討伐しようとするのだ。


 そう思うと、討伐される側の俺が平和主義者なのは皮肉な話だ。


 悪が滅びれば世界が平和になる……か。


「その台詞も聞き飽きた。帰ってくれ」


 俺はため息を吐く。そしてクロウに呟きながら睨みつけ、魔眼の力で威嚇する。

 魔眼に込められた魔力が衝撃波となり砂埃と共に勇者を襲う。


「くっ……」


 クロウは防御結界を張り衝撃に耐える。


「何度も戦わされる俺の身にもなってくれないか?」


 俺の本音がつい(こぼ)れてしまった。

 関わるだけでも面倒なのに、戦う気もない俺に何故そこまで絡むのか……。

 本気で勘弁してもらいたい。


「魔王の言葉など、どうでもいいのだ! 聞く価値も無い!!」


 クロウの言葉で、俺の本音は一蹴されてしまった。


「そうか……意地でも俺を滅ぼすつもりなのだな」


「そういう事だ! 聖なる閃光撃(サーデ・リュエール)!!」


 勇者クロウはそう叫び、続けて呪文を詠唱して発動した。

 すると巨大な魔法陣が浮かび、衝撃波をかき消す程の威力の巨大な閃光が、俺を目掛けて迫ってきた。


 初めて見る魔法だが、恐らく勇者クロウが独自に開発した、対魔族用の攻撃魔法なのだろう。

 俺は冷静に玉座から立ち上がり、強力な防御魔法で結界を展開して身構える。


対光防御結界(リクト・ゲルング)


 辺り一面が眩い閃光に飲み込まれ城内に轟音が響き渡る。

 おそらくこの閃光が消える時、勇者クロウは俺にミスリルの剣を刺して消滅させるのだろう……。

 俺自身が討伐されるまでの流れを、こんな時に考えてしまった。


 孤独な生活も嫌気が差してきたところだ。

 人間に転生できれば、人生をやり直すチャンスがあるのではないか?


 俺が今世で開発した転生魔法(レン・ヴァンデル)


 今の俺でさえ魔力が足りないので、発動するのは困難なのだ。

 だが、聖なる閃光撃(サーデ・リュエール)の魔力を利用すれば使えるかもしれない。

 単純な考えだが、失敗しても遅かれ早かれ討伐される運命なのだから……やる価値はある。


 俺は閃光が消えないうちに、聖なる閃光撃(サーデ・リュエール)から魔力を転生魔法(レン・ヴァンデル)に流れるように細工を仕掛ける。

 そして、自らの身体に転生魔法(レン・ヴァンデル)を発動した。


 すると、俺の身体から一気に魔力が抜け始める。


「……成功してくれよ……」


 急激な魔力の低下に、強い目眩を感じながらも、俺は小さく呟いた。

 転生魔法(レン・ヴァンデル)の外殻に消滅防御結界(ラディー・ゲルング)を構築して、ミスリルの剣にかけられた消滅魔法の対策を施す。

 

 極めつけに、転生魔法(レン・ヴァンデル)消滅防御結界(ラディー・ゲルング)が見破られないよう、隠蔽魔法を発動する。


 成功すれば現世から消滅し、肉体ごと人間へ転生できる。

 失敗すれば消滅魔法によって、肉体も霊魂も完全に消滅する。

 どちらにせよ、ここにいる俺は消滅してしまうので、クロウには討伐が成功したようにしか見えないだろう。


「魔法を隠すのなら、魔法の中に……なんてな」


 俺はそう呟きながら、勇者クロウの魔法に()されないように耐える。

 無茶苦茶な魔力の放出をしているので、立っているのがやっとの状態。

 俺の人生至上一番のギャンブルになりそうだ。


 転生魔法を使った事が無いうえ、それ自体が机上の空論だった。

 俺が自ら実験台となり、今世の最期を飾るのに相応しい結果になれば、それで良い。


 既に殆どの魔力を転生魔法に使用したうえ、消滅対策や隠蔽魔法も発動したため、魔力は底を吐き体力さえも奪ってゆく。

 俺はもはや、気力で立っているような状態だった。


「はああああぁぁぁぁ!!」


 閃光が消えゆくなかで、勇者クロウが自らを鼓舞するかのごとく叫び、ミスリルの剣を構えて間合いを詰めてくる。

 そして俺の心臓をミスリルの剣が貫いた。


 俺の胸元から血液が滴るので、貫かれた事を理解できるのだが、不思議な事に痛みも熱さも感じなかった。


 このまま消滅するのだろうか、それとも無事に成功するのだろうか。


 俺という存在が消えようとしているため、巨大な城(フェルネ)も魔力を維持できなくなり、徐々に音を立てて崩壊してゆく。


 勇者クロウ、俺に転生のチャンスを与えてくれたこと感謝するぞ。


 クロウの魔力を利用しなければ、転生魔法(レン・ヴァンデル)は発動自体できないので、計画自体が間違いなく失敗に終わっていただろう。

 もし転生が成功するのであれば、今度こそ色んな人と関わり、幸せな人生を過ごす事が出来ればいいが……。

 俺の口からも血液が溢れ出してゆくので、呼吸さえもままならない。だが、呼吸ができないというのに苦しくない。


「次の人生は、ぼっちにならないように頑張ろう……」


 俺は声に出せない言葉を呟くように口を開くが、意識がそこで途切れたのだ────


 

 そして、次に意識が戻った時、ゆっくり目を開けて俺の視界に映ったのは、薄暗い部屋に月明かりが照らす小さな部屋だった。


 俺は無意識のうちに、ベッドで眠っていたのだろうか……。

 意識が完全に覚醒していないので、俺は少しばかりボーッとしていた。


「まるで長い夢を見ているようだった……」


 俺は前世の記憶が戻るまでの事を、夢に例えて呟きながら、両手の拳を開いては握り、身体の感覚を確かめる。


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