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零地帯  作者: 三間 久士
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南のバカブ神その5(アレルの告白)

5・アレルの告白


 クレフは自分がいつからここに居るのか、ここが何処なのか、何も分からなかった。

性質上、死んでいないことだけは分かっていたが、思考や記憶に靄がかかっているようだった。

少し狭く感じるこの部屋は、床から天井にいたるまで煤け、薄れてはいるが臭いも残っていた。


随分と、すさまじい炎・・・

まるで・・・


クレフの脳裏に、一人の男が浮かんだ。

家具らしき物はなく、光彩用の幾つもの窓も燃え落ちたままだった。

定期的に出入りはあるのだろう、一部の床に足跡がついている。

足跡はドアから真っ直ぐ、部屋の中央で止まっていた。

そこに、この部屋に唯一、生きている色があった。

焼けた床に、無造作に置かれた透明ガラスの一輪挿し。

そこに飾られた一輪の深紅の花は、力なく頭を下げ、そのくすんだ花弁の半分は床に落ちていた。

よく見ると、色が抜けかさかさになった花弁が幾重にも重なり合っていた。

その真横に、クレフは立っていた。

今、ここに来たのか、少し前だったか、それすらも分からなかった。


「ここは、立入禁止だぜ」


軽く軋んだ音を立ててドアが開いた。

返事もしない、振り向きもしない先客の横に屈み込み、アレルは一輪挿しの花を瑞々しい薔薇と差し替えた。

かさかさになり色の抜けた床の花弁に、一枚だけ深紅が重なった。


「体は、もういいのですか?」


白いローブの裾が、深紅の花弁を華やかに演出した。

薄い青紫の瞳で、屈み込んでいるアレルをそっと盗み見た。


「煩くて、起きちまった」


生命力が強いと言うか、往生際が悪いと言うか・・・


そう呟きながらも、たくましい上半身やズボンのウエスト回りから見える巻かれた包帯が痛々しく、思わず顔を背けた。


「この部屋は、アルルが生まれて、母が殺された場所だ」


アレルは花の前で屈み込んだまま、ぶっきらぼうに話しはじめた。


「母はアルルが腹にいる時に、俺と一緒に散歩をしていて、ジャガー病に感染したモンスターに襲われた」


護れなかったことを悔やんでいるのか、語る声が苦々しかった。


「アルルを産んだ母は、直後にジャガー病を発症した。

・・・俺が殺した。

母の胸を貫き、目覚めていた発火能力で焼いた。

母は俺に胸を貫かれて・・・

笑って炎にのまれたんだ。

・・・骨も遺らず燃えちまった。

ここ・・・

お前が、今、立っているこの場所で」


アレルはいつもの様に軽い口調で閉めると、立ち上がり、一輪挿しにさしたはずの薔薇を差し出した。


「お前も、俺が殺してやる」


いつもの様に唇の片端を上げて笑い、白いローブの胸元に薔薇を押し付けた。

それは、瞬時に燃やしつくされた。


「・・・死にかけていたくせに」


この男の力強く熱い瞳は、自分を縛り付けると分かった。

しかし、自分の存在そのものが、この男の命の灯を消すというのも分かった。


「俺、しつこいから。

死んだらまた生まれて、お前を見つける。

記憶や想いがなくても、お前を探し出して、殺してやる」


サラサラの長い銀糸の髪を一房とり、薄い青紫の瞳を見つめたまま、そこに口をつける。

その瞳が挑発した。

白いローブに包まれた奥、内側にしまいこんで誰にも分からないように隠した想いを。


「私が死ぬまで、貴方は幾度も同じ人生を歩むのですか?」


正直、クレフはその瞳を真正面から見るのは怖かった。

けれど、今は逃がしてはくれなかった。


「お前を殺したら、すぐに俺も死ぬさ。

お前がいない世界は、意味がないからな」


細い体を抱きしめる腕は力強く、重ねられた唇は熱く、とても優しかった。


「失礼します!レビア様がさらわれました」


アレルの熱を自分のものと錯覚し始めた時、ガイが息を上げて入ってきた。




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