北のバカブ神その24(地下の結界)
24・地下の結界
変わり果てた城跡で、アレルは地下への階段を探しあてた。
階段は瓦礫の下、元が何か分からないほど破損した石の下にあった。
地下への通路は冷たく、埃っぽい。
「地下室に、どんな用があるんだ?」
アレルは先頭に立ち、自身の指先に小さな火を灯し、周りを確認しながら石造りの階段を降りていく。
「実は、スーラの国で変な結界に入っちゃってたんですが、そこがこのお城と雰囲気が良く似ていたので、考えたんです。
スーラ王にジャガー病感染者を斡旋していたのはフレアさんじゃないかな?って。
あの結界は、このお城とスーラ国を繋いでいたんじゃないかな?って。
もしそうなら、ジャガー病の研究を始めたばかりのスーラ国に、あんなにタイミング良く多くの発病者が現れるのも頷けるんです。
そしたら、ご自分でスーラ王に手を貸したと言ってました。
だから、どこかに僕が迷い込んだ部屋があるはずだなと・・・
このお城に入って、途中で気が付いたんですけどね。
研究に関する事は、お城全体でやっていたようです。
僕、ルイさんの案内で城内を歩いていたんですが、たまに自分で開けたドアが研究に関連する部屋だったりもしたんで。
なら、地下じゃないかな・・・って」
ニコラスは鳥に包まれたまま、フワフワとアレルの後ろをついて行った。
「それ、便利だな」
「回復呪文と結界獣を掛け合わせたオリジナルです。
ニコラスを真似てみました。
もう少しで、ほぼ回復できますよ。
しかし、よく考えましたね」
クレフの声は、ニコラスの後ろから聞こえた。
ニコラスはクレフが自分を真似てくれた事に驚きつつも、なんだか嬉しかった。
「いえ・・・
実は、迷い込んだその部屋で・・・」
「それより・・・」
「ああ」
ニコラスの話を遮って、二人の歩みが止まった。
「破れそうか?」
指先の火を少し大きくして、クレフの視界を明るくした。
「結界を張った術者と私の、どちらがレベルが上でしょうかね」
クレフの詠唱が始まった。
さして大きくもない声が、静かに空間に満ちていった。
銀色に輝く魔法陣が幾つも空間に浮かび上がり、場所によっては重なり合った。
「お前、それに乗ってるから気づかなかっただろうが、このままだと、ず~っと階段降りてるだけだぜ」
クレフの邪魔にならないようにか、アレルはこっそりとニコラスに話しかけた。
「アレルさん、よく気づきましたね」
「まぁ、いつもの俺なら分かんなかったろうよ。
・・・覚醒したからか?
膚やら髪やら・・・
神経か?
なんかビリビリしてやがる」
「あ、ビースト病は大丈夫ですか?
朝になりましたから昨夜ですけど、新月でしたよね」
「さあな・・・
俺の感覚だと、お前に貰った薬、あれがなんだか効いてる気がするんだよな」
素っ気なく返ってきた言葉に、硝子が割れるような音が重なった。
「ラズルシャーチ」
冴えわたる声だった。
パン・・・
パン・・・
パリン・・・
バリバリバリバリ・・・・
呪文が完成すると、空間全体にヒビが入り、上も下も右も左もパラパラと細かく割れ始め、ついには空間が大きく剥離した。
暗い地下の色が音と共に削げ落ち消えた。
「ここは・・・」
三人の周りは、美しい氷に覆われていた。
それらは完全に透明であったり、半透明であったり、白や青であったりと様々だった。
「お疲れ」
アレルは軽々とクレフを抱き上げ、再び階段を降り始めた。
「ちょ、アレル、下ろしなさい!」
「労ってんだよ。
力じゃ敵わねーんだから、大人しくしてろ」
流すように言われ、ため息を一つついて大人しくなった。
そんなクレフの顔はいつにもまして色が無く、髪が張り付くほどに汗をかいていた。
「珍しいな、師匠があそこまで疲れるの」
いつの間にか目が覚めたのか、ココットがひょっこりとニコラスの胸元から顔を出した。
同時にニコラスを護っていた召喚獣が消え、全身を冷気に包まれ震えだした。
防寒用マントを着ていてもこんなに寒いのに、上半身裸のアレルさんて、そうとうな暑がりなんだなぁ・・・
そう思ったニコラスは、抱かれているクレフが温かそうで少し羨ましかった。
「あの結界をかけた奴、そうとうの術者だったってことか」
「でも、ああやって労わるなら『お前の腕、食って悪かったな』ぐらい謝ってもいいのにね。
あ、そっか、僕たちがお邪魔虫なんだ」
「ニ~コ~、丸聞こえだ」
一人と一匹の会話に、アレルは振り返らず背中から殺気を出して声を投げた。