北のバカブ神その11(死者からの問いかけ)
11・死者からの問いかけ
夢だと分かった。
夢でさまよっていると分かった。
それでも、感覚はしっかりとあった。
足元は硬く冷たい床。
足元も壁も柱も闇。
大きな窓にかかるカーテンは無残に引き裂かれ、柱にかかっている松明だけが微かに辺りを照らしていた。
ここは何処だろう?
お城?
誰もいないのかな?
この場の埃っぽさと酷い臭気に、吐き気をおぼえた。
そして、服の上からでも容赦なく襲い掛かる寒さ。
『ここは、フレイユの城。
死が徘徊する城』
どこからか声が聞こえ、少し前の柱から煙のように白い人影が出てきた。
姿はハッキリとしないのに、青い両の瞳だけはよく分かった。
とても濃い青の瞳は、視線を合わすことなく、さらに奥を指差した。
その合図を待っていたかのように、黒い扉は音もなく開き、更に暗い口を開けた。
その闇にぼんやりと、青い瞳の白い影が姿が浮かび上がった。
慌てて後を追う。
暗闇で右も左も見えないのに、白い影はぼんやりと見えた。
その姿だけを頼りに、どのくらい歩いたのだろうか?
確かなのは、足元の硬さだけで、それも所々でいやに滑った。
獣がいた。
『死は、平等なるもの』
足元のぬかるみが酷くなり、生臭い臭いが強くなった頃、白い影が消えた。
目の前にあるのは鉄格子。
闇に慣れた視界に、ぼんやりと映るものがあった。
この臭い・・・
このぬかるみ・・・
耳障りな音に混ざった、何かの呼吸音・・・
それらが鍵となって、一気に過去を引きずり出した。
心臓が高鳴り。
頭の血管がビリビリと震えた。
そっと、檻に手をかけた。
『魂の滅びが先か、肉体の滅びが先か・・・』
どこからか聞こえてくる哀しい声に答えるように、うっすらと視界が明るくなった。
人間がいた。
人間だったモノがいた。
獣だったモノがいた・・・
肉体という『器』は壊れ、崩れ、腐敗していた。
己が『何』であったかも忘れてしまったのか、互いに食い争うモノたち。
足元は赤黒い血液や、黄色い脂肪で塗られていた。
・・・僕の村・・・
教会の地下を思い出した。
いや、それよりも生々しいこの光景に、臭いに、体を折って嘔吐した。
『あのようなモノたちも、聖樹はその手を差し延べてくれるのでしょうか・・・』
哀しい声が、痺れた頭にこだました。