西のバカブ神その7(悪魔を見た男)
7・悪魔を見た男
貴方、悪魔を見たこと、あります?
私は見たんですよ。
貴方と同じ黒髪で、背中に黒い大きな翼を持っていて、火をだすんですよ。
口から吹くのではなく、手から出すんです。
どこで見たかって?
私が住んでいた集落ですよ。
この国外れにあった、小さな集落です。
住人の殆どが老人でした。
若い者といえば、畑と家畜の世話をしていた数人の青年と、神父と医者を兼用していた私と、看護師三名の女性に、看護師の一人が面倒を見ていた男の子だけですよ。
後は皆、年老いた老人だけ。
私の集落は皆、病人だったんですよ。
私と男の子を抜いて、み~んな、病気を患っていたんです。
あそこはね・・・この国と近隣の国で居場所がなくなった人たちが生活する、最期の場所だったんですよ。
何の病気かって?
『ジャガー病』
貴方もご存知でしょ。
もう、何人もの人が亡くなりましたよ。
死体は調べたあとに燃やして骨は砕いて集落の外に埋めるんです。
感染源とならないように。
私は、その集落に国から派遣された医者で、治療をしながら病の研究をしていました。
色々と分かりましたよ。国のお偉いさんがお金を出してくれましたし、検体はいくらでも手に入った。
感染したら、あの集落でしか生きてはいけないですから。
しかし、数日前・・・悪魔が集落を襲ったのです。
病状が不安定だった患者は皆発病し、獣となりはて集落を荒らし・・・
悪魔の手によって殺されていきました。
そして悪魔は自らの手で出した炎で集落に火をはなち・・・
私は大切な研究資料を持って、何とかここまで逃げてきたのです。
今までの犠牲を無駄にしては、亡くなった方々が浮かばれませんからね。
男の子はどうしたかって?
捜しましたが・・・
私はこの研究を完成させ、ジャガー病から『不治』と言う言葉を無くしたいんですよ。
えっ、アルバイトを探してるかって?
人を探して旅をしているが、路銀がつきた?
ええ勿論、手伝って下さるならお金はお出しします。
余り持っていませんが、気持ちだけでもお支払しますし、三食の食事も付けますよ。
貴方の他にも、何人かアルバイトを申し出てくれた方がいるんですが、研究が研究なだけに、二日ともたないんです。
ああ、もちろん、無理強いはしませんので、いつ辞められても結構ですよ。
まぁ、こんな席では何ですから、これからでも私の家に・・・研究室も兼ねているんですが、そちらにうつりませんか?
お連れの方はいらっしゃいます?
姿が見えない?
先にお戻りに?
連れではない?
いらっしゃらないのでしたら、行きましょうか?
酔い?
うたた寝をしている間に、抜けたようです。
恥ずかしい姿を見られてましたね。
私はレオンと申します。
貴方は・・・
ガイさん?
これから宜しくお願いします。
ああ、すみません。
私、両手を怪我してしまい、今握手は・・・
いえいえ、宜しくお願いします。
では、行きましょうか・・・